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未来に残したい洋楽&邦楽の名曲

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【Re-Edit】 What You Won't Do For Love - Bobby Caldwell 【70年代AOR】

【70年代洋楽AORの名曲】


What You Won't Do For Love





 1983年1月9日(日)午前1時30分過ぎ

 光の速さは、およそ秒速30万キロメートル――
 たった1秒で地球を7周半もまわれるスピードなのだという。もし星の光が何百年以上もかかってここまで到達しているとするならば、いったい地球とはどれほど距離が離れているのだろうか?

「あの星の輝きは数百年以上も前に放たれたものだ」
 幼い頃、誰かがいっていたそんな話に、この現実世界を大きく飲み込む巨大な宇宙の真実を知ったとき、まるで大海原を漂流しながら漆黒の海の底を覗き見るような思いがして急に怖くなった。美しく光り輝く星空を見上げながら、ボクがはじめて宇宙という存在に抱いた気持ち――
 それは間違いなく、「無限の距離感」というものに対する畏敬の念だったのだろう……

 今年に入ってから、家に帰るとマレンへ贈る曲の歌詞をずっと書き続けていた。けれど中学2年のボクが書く歌詞には、なにひとつとして現実味などは存在しない。特に恋愛の歌詞を書いていると、あまりに言葉が嘘っぽくなってきてしまい、いつも最後まで書き終えることができなかった。作詞用の大学ノートには、僅か数行程度で行き場を失くしたそんな文字たちが、脈略もなく、ただ綴られている――


「いずれにしても明日までにはムリだ」
 しばらく前から、ずっとその作業を中断していたボクは、やがてベッドで横になる。南側の窓には濃蒼色の冬の夜空が広がっていた。隣の家が2階建てに増築されるまで、この星空はもっとはるかに広かったような気がする。
 気圧のせいか、それとも温度差のせいだろうか。

 冬になると、よりいっそう重みを増すガラス窓のアルミフレームを多少の力を込めて少しだけ開け放つ。部屋のなかに一気に吸い込まれてくる、少し甘みのある「冬独特の匂い」を帯びた冷気を、分厚いかけ布団に包まりながら顔に浴びるのが少しだけ心地よかった。そっとリモコンで部屋の灯りを消す。夜空の色に目が慣れ始めると星々はその輝きを増していった――

 昼間、デパートにエレキギターを見に行った帰り、川澄マレンから「歌詞を見せろ」とせがまれた。けれど恋愛系の歌詞だけはどうしても見せられない。たぶん恋愛の歌詞が恥ずかしくて書けないようなヤツらがパンクとかのジャンルにいくのだろう。
 そんなパンク路線でも何曲か作詞に挑んでみたけれど、それはそれであまりにも内容が稚拙だし不自然過ぎた――

 窓の外に向かって、ボクは静かに息を吐き出す。それは最初、夜のなかへとまっすぐ伸びてゆき、次第にタバコの煙のように白く不規則にゆらめきながら、少し向こうの暗闇と溶け合い、やがて消えていった。白い霧状の呼気がカオス的に彷徨い浮遊する様(さま)を眺めながら、ベッドの脇に置いてある腕時計のライトを押す。すでに夜中の2時を少し過ぎていた。
 ボクはベッドに引っかけてあったヘッドフォンを両耳にあて、枕元のカセットデッキの再生ボタンを押す。このところ眠る前によく聴いているのは、ボビー・コールドウェルが1978年にリリースしたデビューアルバム『風のシルエット(What You Won't Do for Love)』。

 こないだ、たまたまイトコの兄貴の部屋で、無造作に散乱するカセットテープの山のなかから見つけだし、なんとなく借りてきたものだ。兄貴の部屋の床は、剥きだしのカセットテープでいつだって埋め尽くされている。きっとどれがなんのアルバムなのかは、もはや本人ですら一度聴いてみなければわからないのだろう。

 このアルバムは1曲目の「スペシャル・トゥ・ミー(Special To Me)」を飛ばし、2曲目の「マイ・フレイム(My Flame)」から聴くことが多い。スローテンポなイントロが流れ始めたことを確認してから首まで毛布を引っ張り上げ、開け放たれていたガラス窓のアルミフレームを左足で蹴るようにしながら閉めた。

 数年前までは、おもいっきり野球ができるくらいに広大な砂場だった家の前の空き地に、かつての思い出の遊び場としての名残りなど、もはやなにひとつも残されていない。

 中学に入る少し前、薄緑色の合成樹脂でコーティングされた格子状のネットフェンスが、家の敷地と空き地との境界線上に張られたことで、そこを自由に行き来することができなくなってしまった。いまや、その格子によって隔絶されたかつての野球場は深々と掘削され、表面に湿り気を滲ませた茶褐色の土肌を、寒空の下、無機質に露呈している。

 その4分の1はすでに砂利が敷かれて駐車場と化し、4分の2が現在、住宅用の造成工事のさなかだ。残された4分の1の空き地には、その掘削工事で掘り起こされた赤黒い残土が山積みとなって固められたままに放置されている。
 いずれ来年になれば、この場所には何軒かの家々が互いに壁をこすリ合わせるようにして並び建つのだろう。かつて、ここがボクらの野球場だったなんてことなど、ボク自身もやがていつかは忘れてしまうのだろうか――

 ついさっきカセットデッキはリバースして、いまは5曲目の「カム・トゥ・ミー(Come To Me)」が流れている。
(この曲って、こないだ兄貴に借りたイーグルスのアルバムあたりに入っていそうだ。きっと「デスペラード」に似てるのかな?)
 この時間にもなれば、うす汚れたガラス窓の向こうには濁り気のない真冬の冷気が目に見えるほどに充満している。なにひとつ物音がしないせいだろうか? 

 ほとんど空気振動のない外側の世界で、その凍てついた冷気は微塵にも揺らがない。ほんの僅かな月明かりだけでも、真空状態のような別世界を向こう側に感じ取れた――

 タイトルナンバーの6曲目「風のシルエット(What You Won't Do For Love)」は、いままで好んで聴いてきたサウンドとは明らかに方向性が違う。もっと極端にいえば、それまで鼻で笑ってきた類いのヌルい音楽といえるのかもしれない。「なんでロック・フリークのイトコの兄貴がこんなアルバム持ってるのだろう?」と、最初に聴いたときには思った。

 まるでそっと指先で触れているだけのような控えめなバックアレンジ。
 もし昼間、この曲を聴いたのならば、こんな感情は絶対に抱かなかったのだろう。けれど、僅か数メートル四方のガラス窓の向こうに広がる、淀みも雑音もすべて凍りついた静寂の世界でならばたしかに通用する音楽だ。

 この街の灯りはさほど明るくないはずなのに、肉眼で見えるのはせいぜい2等星くらいまでだろうか? 冬の夜空のど真ん中にオリオン座を形成しているベテルギウスとリゲル。上辺の左端と、そこから斜めに星座を大きく縦断した右下すみで、鮮やかなシグナルレッドとアリスブルーに光り輝くそのふたつの偉大なる1等星を、街を包む、凍てついた冷気の彼方に見つめながら思う。
(いったいどこで見たんだっけな。まるで重力を無視するかのようにして夜空一面を覆い尽くしていた『凄まじいほどの星の海』を――

 そのとき、たかだか数年しか生きていない人生のなかで「もっとも美しいもの」を見たような気がしたんだ。たしかにそれ以上美しいものを見たことはいまだにない。いずれにせよ、人間がどんなに技術的な進化を遂げたとしても、無限の星空よりも美しい造形物なんて作れやしない。所詮ボクらは、こんなにも小さな有限世界のなかで、僅かな瞬間、そこに存在しているだけに過ぎないのだから……)

 アルバムは、やがて終盤のバラード「テイク・ミー・バック・トゥ・ゼン(Take Me Back To Then)」へと差しかかる。
(この曲も、この時間に聴くとまるで星空に吸い込まれそうな感覚になるな)
 ボクは幼い頃、誰かに聞いた「星の話」を思い出す。
 ふと、ベッドから抜け出しガラス窓をもう一度開け放つ。そして裸足のままで凍りついたベランダへと降りた。

 夜空の南東には、哀しげな三日月が「ぺったり」貼り付けられている。リゲルはすでに家の屋根の少し向こう側へと隠れてしまった。
 けれど、幾重にも光の輪郭を纏ったベテルギウスだけは、夜空を赤く滲ませながら、おおいぬ座のシリウスと、こいぬ座のプロキオンとともに、大きな正三角形を依然としてディープブルーな真冬のキャンバス上に描き続けていた。

 明日から3学期が始まるんだ――


【ALOHA STAR MUSIC DIARY 再編集版より】


【2012.04.29 記事原文】

このところ、ずっと聴きたかったこのゴージャス感満載なイントロ♪

ボビー・コールドウェル1978年リリースの1stアルバム
『What You Won't Do for Love』から、
まさに湾岸あたりのアーバンミッドナイトドライブにビシっとハマるナンバー!
これぞAOR!!な「What You Won't Do For Love」♪

いやいや・・・御懐かしゅう御座います☆






What You Won't Do for Love - Evening Scandal (イヴニング・スキャンダル)
What You Won't Do For Love - ボビー・コールドウェル
1stアルバム『What You Won't Do for Love』 1978年
アルバムお勧め度「☆名盤です☆」



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