【70年代洋楽バラードの名曲】
Alison ◆PVリンク先変更しました(2012/11/23) 1983年9月13日(火)
灰色がかった積乱雲の向こう側から、ようやく太陽が僅(わず)かに顔を覗かせる。けれど、その陽射しには、もはや炎暑の 路面にかげろうをくゆらせていたときのような灼熱の威勢などはまったく感じられない。
だんだん遠のく初秋の太陽からは、光と影のコントラストを地上へと鮮明に描き出していた頃の熱放射エネルギーなんてものは、いまやすっかり失われ、その仄(ほの)かな陽光は、日を追うごとにパステルカラーへとみずからの色調を変化させつつ、いずれ、あらゆる風景たちと次第に共存しはじめてゆくことだろう。
そんな白々と、淡く色づく木漏れ日が、ゆるやかに降りしきる円覚寺の境内にボクたちはいた。――
境内全体の案内看板を見つめていた林ショウカが、
「円覚寺のなかって、こんなにいっぱいお寺があるの?」
と、おもわず、その小さな顔いっぱいに驚きの表情を浮かべた。
すると、海のほうから山伝いに届けられる、心地よい涼風を白い頬に携えながら、
「そうね、山のうえまでいくつも小さな寺院があるみたい」
と、李メイが、静かにつぶやいた。
ふと、うしろに立っている田代のほうに目をやると、彼はまるっきりそんなものには興味なさそうに、ずっと薄墨(うすずみ)色した山影のなかを吹き渡る風の音色を聴いていた。――
ボクは右耳にだけヘッドフォンを差すと、ショウカのうしろを歩き出す。
「世 界初」――たしか、そういわれていた気がするけど、去年、SONYが発売した左右のイヤフォンがふたつに分かれたインナーイヤータイプのヘッドフォン。
――中2の頃からずっと欲しかったんだけど、今年の夏休みに入る直前、それまで使ってたヘッドフォンのコードが皮膜の内側で切れたらしく、何度も音が飛ぶ ようになったんで、それを機にようやく買い換えたんだ。けれど、このセパレートタイプは耳への装着感がゆるくって、ちょっとした弾みですぐイヤフォンが下 へに落っこちてきてしまう。だから相当強く耳のなかに押し込まなければならなかった。――
スイッチを押してウォークマンを再生させると、 イギリスのロックシンガーである、エルヴィス・コステロのデビューアルバム『マイ・エイム・イズ・トゥルー(My Aim is True)』に収録された甘く優しげなロッカバラード「アリスン(Alison)」が、そのインナーイヤータイプのイヤフォンの右側から流れてきた。
このアルバムは結構気に入ってたんで、中2の 頃、よく聴いたんだけど、ハードめなナンバーが並ぶなか、この「アリスン(Alison)」のセンチメンタルなメロディラインだけが、異質なほど、やけに くっきり際立っていた。コステロのボーカルのうしろ側を変幻自在に追いかけるギターのオブリガートが、なんだかお洒落で、すごく印象的な曲だ。――
山 門を見上げながらくぐり抜けると、ほぼその正面には、やけに真新しい仏殿が構えていた。どうやら関東大震災で倒壊したものを再建したらしいのだが、長いあ いだ歴史の風雪に耐え、絶え間なく時の流れに磨かれ続けてきた荘厳なうしろの山門と比べれば、どうしたって赴(おもむ)きや佇まいが大きく異なって見えて しまう。その仏殿の入り口から、ボクたちがなかを覗き込んでいると、
「ちょっとトイレに行ってくる」
と、田代はいい残し、さっき登ってきた石段のほうへひとりで歩いていった。
「田代ってなんだか、根暗でキモち悪いんだけど、……ねぇメイ?」
ショウカは、ずんぐりした田代の大きな背中を見つめ、メイに向かって小声でそうささやく。
メイはなにもいわず、ただうっすら微笑んだ。
ボクは、遠ざかる田代のうしろ姿を眺めつつ、なんとなく口を開く。
「まぁアイツも、しょっちゅう谷川たちにイジめられてるからね。それにクラスでもあんまり友達いなさそうだし。……暗いのは仕方ねぇんじゃない?」
すると、ショウカが「あぁっ!」と、なにかを思い出したように声をあげ、
「そういえば、きのうシーナ君さぁ、昼休み、いきなり谷川たちのことを殴ったでしょ? ミチコのことで。――すごいびっくりしちゃったよ。なんであのときあんなに怒ってたの? だってミチコと一度も話したことなんてないんでしょ?」
と、ボクの横顔に早口で問いかける。
ボクは、一瞬なにも答えられなかった。自分でも理由なんてよくわからなかったからだ。
けれどボクを見つめる涼やかなメイの瞳に、なにかしら言葉を促されているような気がした。
「だってさぁ、せっかく気持ちよく人が寝てるのに、すげぇうるさかったから。アイツらが」
なんとなくその場で思いついたことを、ボクは笑って適当に口にする。
「そういえば、あのときさぁ、アイツらってメイのこともなんだか悪口いってたよね。『アジアン』とかってさ。それをいったらアタシだって『アジアン』なんだしねぇ、なんだかムカついちゃったよ」
と、いってショウカは、くっきりした二重の上で、少しだけ細いまゆ毛を吊り上げた。
【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】
【2012.04.28 記事原文】 後年「シ~♪↑」とかってオールドスタンダードなナンバーをヒットさせた エルヴィス・コステロが、まだカッコいいパンキッシュなロックを演ってた頃の、 超名曲「Alison」をチョイス♪ まぁすぐにDeleteされるでしょうが、 Yでオリジナル音源見つけました☆ ぶっちゃけ1stアルバムもこのナンバーも、ものすご~く好きです! しかし・・・すっかりコステロも、ジャジーな方向にいっちゃいましたねぇ・・・ もう一度ロッカーだった頃の初心に戻って欲しいっすね☆Alison - エルヴィス・コステロ 1stアルバム『My Aim Is True』 1977年 アルバムお勧め度「持っていても良いでしょう」
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