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未来に残したい洋楽&邦楽の名曲

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風がはこんできたもの - 辻井伸行 【インストルメンタルな名曲】

【インストルメンタルな名曲】


風がはこんできたもの






1983年9月20日(火)


小雨がやんだ薄曇りの放課後、――
校門を出ると倉田ユカリが車椅子に座ったまま、松並木の枝々を覆う細長い針葉の先をひとりで見上げていた。

「あれ? 倉田さん、今日って、李さんは一緒じゃないんだ?」
と、おもわずボクが、そう声をかける。

「あぁ、メイは今日、クラスの友達と遊ぶみたいなんですよ」
ユカリはそう答え、ボクを見つめると、少し躊躇(ためらい)いながら、
「あのシーナ君、……もしよければ一緒に帰ってもいいですか?」
と、いって微笑んだ。

「ああぁ、全然いいよ」
「迷惑とかじゃないですかね?」
と、ユカリは変に気を使いながら、そういう。

「なんでさぁ。別に迷惑じゃないよ」
ボクが笑うと、

「ありがとう――」
と、ユカリは微笑んだまま、お礼をいったんだ。

こないだはじめてメイの家に行ったときもそうだった。玄関でユカリを車椅子から降ろそうと、ボクが彼女を抱きかかえたとき、「ありがとう、……ゴメンね」と、彼女はいっていた。

別に誤る必要もなければ、お礼なんていう必要もないことなのに。――

ボクは、ユカリの車椅子を押しながら松並木の道を歩く。茶色く枯れ落ちた松葉の上を車輪が踏みしめていく。雨上がりにそよぐ涼風の余韻に、甘ったるいサンオイルの匂いがまったく感じられなくなったことに気づくと、ボクは夏の終わりを少しだけ実感した。

「こないだはゴメンなさい。なんかちょっと、私もなにいってるのか、だんだんわからなくなっちゃって、……」
視界に広がる松並木の通りのほうへ、そう小さくささやいたユカリの表情は、うしろにいるボクからは見えなかった。けれど彼女のつぶらな瞳が微笑んでいないということは、そのあえかな語尾の響きから伝わってくる。

「え? あぁ『李さんとバンドをやれ』って話ね。でも、実際にバンドやるとなったら、メンバーとかも集めなきゃならないしさ」
と、ボクは、少し笑っていった。

「私、あのとき本当に感動したんですよ。シーナ君があんな簡単そうにピアノが弾けちゃったことに。それに、ものすごくいい曲だったし、……メイは、むかしからピアノが上手だったから彼女がうまくても驚かないし、別に感動もしなかったんですけどね」

と、いったユカリの言葉の語尾に、少しだけ笑みが戻ったような気がした。

やがて彼女は、薄曇りの空に向かって言葉を続けた。
「私、子供の頃、お母さんに『ピアノ買って欲しい』って、ずっとお願いしてたの。お願いっていっても、泣きながら『ワーワー』と、駄々をこねてただけなんですけどね。でもその頃って、ウチもまだアパートだったし、それに『私の指もうまく動かないから』っていわれてね」
ボクには、なにもいえなかった。簡単に相槌(あいづち)を打てるような気がしなかったからだ。
ユカリは、言葉を続ける。

「結局、その代わりにレコードは一杯買ってもらったんです。ピアノは小学校の3年になって、メイと仲良くなってから彼女の家で弾かせてもらったりできたから。でもメイに教えてもらっても、やっぱりうまく指が曲がらなくって、……」
ユカリの言葉を黙って聞きながら、こないだメイの家で、

【子供の頃、車椅子のスポークに指を挟んじゃったみたいで、そのとき右手の人差し指と中指を複雑骨折しちゃったんです】
そういってボクに見せていたユカリの、少しだけ曲がった細い指先を思い出した。

「メイはね、……」
そういうと、ようやくユカリは車椅子からボクのほうを振り返った。

「メイは、むかしからスゴク優しかったんです。だから彼女は本当にやりたいと思ってることを、いつだって自分から諦めてきたように思えるんです。――ホントは小学校5年のときに、好きな男の子がメイにはいたんですよ。でね、バレンタインにチョコを渡そうかどうかずっと悩んでたんですけど、友達のなかにその男の子を好きだった子がいるとわかったらね、それから、ひと言もその男の子と話したりしなくなっちゃったんです」
(まぁ、なんとなくわかる気もするな)

ボクは、微笑んだまま、車椅子をゆっくりと押して歩く。

さらにユカリは続けた。
「私、メイには幸せになって欲しいって思ってるの。彼女自身が『楽しい』って、自分でちゃんと思えることをやって欲しいんです。私ができないことも彼女になら、なんだってできるんだから。……シーナ君と『バンドをやったら』っていったのも、2人ともすごくピアノが上手かったから、というのもあるけど、……ホントはね、メイがシーナ君と一緒にいれる時間が作れると思ったからなんです」

ボクは、ユカリに笑いかけながらいった。
「あのさぁ。こないだも聞いたけど、李さんってホントにオレのこと好きとかっていってるの? 普段、教室では、ほとんどそんな感じしないんだけど」

「それはね、……」
ユカリは厚く覆われた雲を見上げた。やがて、ふたたびボクのほうを振り向くと、
「佐藤さんが、シーナ君のことを、むかしから好きだってこと知ってるから。だからメイは絶対に自分からホントの気持ちなんかいわないと思います。私が聞いてもそう。いつも『マキコがシーナ君のこと好きだから』ばっかりしかいわないんですよ」

と、ユカリは少しだけ真顔になり、そういった。
(メイはマキコに気を使ってる、……のか)

「シーナ君は、メイのこと、どう思ってるんですか?」
と、ユカリは真剣な表情のままでボクに訊ねる。

「え? 李さんのこと?」
ボクは不意を突かれた。すごく彼女のことが気になっているのはたしかだ。でもマレンのことも、まだ完全に忘れたわけじゃない。突然、心のなかでマレンが微笑み出すと、胸が張り裂けそうになるくらい彼女のことばかり思い出してしまう。

「メイのこと、キライじゃないですよね?」
と、ユカリは訊き方を変える。

「キライじゃないよ。というより、まだよく知らないし」
と、ボクは答えた。

「だから一緒にバンドをね、やれば、きっとメイも変な遠慮をしないでシーナ君と普通に話ができると思うんですよ。私はもう、恋愛とかは諦めちゃうんですけどね。メイには簡単に諦めて欲しくないんです」と、ユカリは少し寂しげに笑った。

「倉田さんだって、別に諦める必要なんかないでしょ」
ボクは、メイのことには答えず、ユカリのほうの話を広げた。

「いいんです。私のことよりも、とにかくまずは先に、メイが幸せになって欲しいの。私のことはそのあとでも全然いいんですよ。それに、もしいつかステージでメイが演奏してくれたのなら、彼女が私の代わりに夢を叶えてくれることにもなるんだから」
と、いってユカリはボクを見つめると、『クスッ』と微笑みながら、さらに続けた。

「私たち、まだ知り合ってから2回目ですよね。こうして話しをするのって」
「えっ? まぁそうだね。」
と、ボクも少しだけつられて笑う。

「やっぱりメイのいってたとおりだ。シーナ君ってきっと優しいんですね。『いつも自分のことよりも、誰かのことを考えてるみたいな人』って、こないだね。メイがそういってたんです。私もね。なんとなくそうなんだろうなぁって思います。きっとシーナ君もメイもすごく似てるんだろうなって思うの」

と、ユカリは小さな口元に笑みを湛(たた)えながらいった。

「ん? オレって優しいのかね?」
そうボクが、自分自身に問いかけるようにつぶやくと、ユカリはつぶらな瞳でボクを見つめながら静かにいった。

「自分で『優しい』なんて思ってる人は偽善者ですよ。ホントに優しい人はね。きっと自分のその優しさに、まだ全然気づいていない人。――」

風向きは絶えず変わり続け、雨香たゆたう涼風に、ユカリの黒髪が、時折もてあそばれている。この街に、より深く秋の気配が訪れるのは、もう少し先のことだろう。けれど蝉たちの鳴き声が、もう二度と、今年はこの松並木からは聞こえてこないんだろうなってことくらいなら、ボクにもなんとなくわかっていた。


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】






風がはこんできたもの - 辻井伸行 
アルバム『神様のカルテ』 2011年


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