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I Won't Last A Day Without You - Carpenters 【70年代ポップス】

【洋楽70年代ポップスの名曲】


I Won't Last A Day Without You






 霞(かす)む天空のかなたから、音も立てずに儚(はかな)く舞い散る細雨の飛沫は粒を増し、やがて少しだけ雨脚は強まる。
 暖炉にくべられた薪(まき)が「パチパチ」と小さくはぜる音に似た心地よい響きだけが、ひとけのない神社の石畳をちからなく叩きはじめた。

 賽銭箱の脇に座り、ボクはこの雨景色を眺めている。
 梅雨空を覆うグレーがかった雲色は、意味もなく夕暮れまで駆けまわっていた小学生のときほどには嫌いじゃない――

 参堂のうえに溜まりはじめた雨水は、互い違いに配列された敷石の隙間を埋めるモルタル目地を伝(つた)いながら、アミダ状に石畳の両脇へとこぼれ落ちてゆく。やがて左右の黒土の僅(わず)かな窪みに、いくつもの水たまりができていった。

 雨脚がしだいに強まるにつれ、その水面(みなも)にはドット状の小さな水紋が無数に広がり、数輪の円弧をみちづれながら描きだしては、みずからの余韻のなかへと静かに消えていく――


 ケヤキ、えのき、むくのき、コナラ――様々な種類の老樹がこの神社の敷地を覆う。
 数えることを容易く諦めさせてしまうほど、無限に纏(まと)われた枝先の葉々の表面を打つ「くぐもった」雨音が、人為的な日常の雑音を打ち消し、ボクの心に静穏の残響を刻んでゆく。気づけば、ボクはみずからの存在を忘れていた。風景と一体化し、それに違和感なく溶け込んでいたのだ――

 上空を覆い尽くす、小さな葉身一枚ごとに丸く溜めこまれた水滴は、雨風に扇(あお)がれると、時折激しく石畳の上へと落下し、「バチバチ」と大きくはねあがりながら舞い散った。巨大な老樹たちに囲われたこの境内は、相変わらず外側の世界から隔絶されており、そこを流れる時間のなかには、たしかに崇(あが)められるべき神仏の気息(きそく)が感じられる。

 ふと拝殿の脇に、円錐状の花穂を開花させている紫陽花(あじさい)を見つめた。
 宝石そのものが輝けないのと同じよう、どんなに美しい草花たちも、それを照らしだす光を浴びなければ、みずからの色彩を際立たせることができない。

 けれど、きっと紫陽花だけは違うのだろう。
 雨露と戯(たわむ)れ合うことで淡白なその花色は濃度を増しながら、冷酷なほど奥深い色味へと変化してゆくのだ。

『紺瑠璃(こんるり)の 花穂に湛(たた)えし 雨雫(あめしずく) 秘めたる想い けふも届かじ』
 
――そんな詩でも詠みながら、ボクは少しだけ風流人を気取る。
 光を纏(まと)わぬ紫陽花が浮かび上がらせる情念めいた色艶は、決して揺るぐことのない女性的な意志の強さを感じさせる。

 まだ雨はやまない。
 ボクは老樹たちが無限の葉々から溢(こぼ)し続ける雫の先を見上げた――



カーペンターズが1972年にリリースした4thアルバム『A Song for You』から、
ポール・ウィリアムス&ロジャー・ニコルズ氏ライティングのナンバーをカヴァーし、
ビルボードのシングルチャートで最高11位を獲得した
「I Won't Last A Day Without You」 をチョイス☆




I Won't Last a Day Without You - ア・ソング・フォー・ユーI Won't Last A Day Without You - カーペンターズ
4thアルバム『A Song for You』 1972年

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