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未来に残したい洋楽&邦楽の名曲

70~80年代の洋楽&邦楽を中心に未来に残したい名曲&名盤を独自にチョイスするBlogです☆
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【貴重なPV】ROYAL STRAIGHT FLUSH R & R - RED WARRIORS 【ロックの名曲】

【邦楽ロックの名曲】


ROYAL STRAIGHT FLUSH R & R





なんだか最近、すっかり変な路線にハマっておったので、久々フリーな文章でございます☆
こないだ、たまたまYを検索してたら、ついに見つけました♪
RED'Sの超名曲「ROYAL STRAIGHT FLUSH R & R」♪

まぁ、このアルバムがリリースされた頃ってのは、
ボクが邦楽ロックバンドのLPを買った最後くらいの年代でしょうかね。

彼らは、基本R&Rバンドですんで、まぁセブンスコード主体の楽曲になるわけですが、
このアルバム『KING'S』を代表する「ROYAL STRAIGHT FLUSH R & R」も、
オープニングトラックの「KING'S ROCK'N' ROLL」も、
サビ前くらいからメジャーコードへ移行していき、実にメロディアスな展開を見せてくれます。


さてこのPVですが、ボクもその当時2、3度くらいしかテレビで観た記憶がありません。
まぁ、この曲自体、Yでオリジナル音源は今までほとんどUPされてこなかったんで、
そのくらい貴重な楽曲であり、かつ、
早々に削除対象になっちゃうだろうなぁと思われますので、
ご視聴はお早めに!(まだ公開4週目ってのがヤバそうすね。)



ROYAL STRAIGHT FLUSH R & R - RED WARRIORS
3rdアルバム『KING'S』 1988年



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I Don't Want To Talk About It - Rod Stewart 【70年代バラード】

【70年代洋楽バラードの名曲】


I Don't Want To Talk About It






(なんだか、マムシでも出てきそうだな)

その樹林へと入っていくのは、さすがに気が引け、広場のほうへと戻りかけた、そのとき、――
茂みの奥のほうから、微(かす)かに誰かの泣き声が聞こえた気がしたんだ。おもわずボクは林道の入り口から大声で叫ぶ。

「川澄~!」

「カミュ? ――カミュ――カミュ~!」

遠くのほうで最初は確かめるように小さく、――少し空き、すぐそのあとで、何度も大きくボクの名を叫ぶ声がした。間違いない、マレンの声だ。――慌ててボクは声する闇へと走り出す。途中でビーチサンダルが枝かなんかに引っかかって片方脱げた。ソイツを拾ってボクは裸足(はだし)のままで駆け出した。――そしてまた名前を叫ぶ。

「川澄~!」

少し樹林に入っただけですぐ方向感覚が失われてしまうほど、この場所は闇が深かった。けれどもボクは彼女の声するほうへと、ただ走る。――

「カミュ! 恐いよぉ」

「大丈夫! 大丈夫だから! オレがいくから」

微(かす)かに漏れる月明かりのおかげだろうか、――なんとなくこの樹林の暗闇にも目が慣れてくる。向こうのほうにぼんやりと小さなシルエットが浮かんでいるのは、どうにかわかった。

(待ってて、――もうすぐ行くから)

「――ホントに、……こんなとこでなにやってんだよ。まったくさぁ」

ボクは、ピンクのTシャツ姿でポシェットを抱きかかえて泣いてるマレンの小さな影に、力なくそうつぶやいた。いいたいことはほかにもあったけど、まずは彼女を見つけられたことだけに、いまはただ安心しきっていた。

「広場に行こうとしたら、こっちのほうからみんなの声がしたような気がして、でも全然、……道がわからなくなっちゃって」

涙声のマレンが、か細い声を影のなかに浮かばす。

「あのさぁ、どう考えたって、こんなとこ絶対に人が夜、通れるわけねぇじゃん! それに、こんなの道じゃねえし」

「だって、――」

彼女の申し訳なさそうな声の響きより、ボクの言葉が少しだけ勝る。

「――でも、よかったよ。さっきはホント、すげぇ心配しちゃったよ。川にでも流されたんじゃないかって、さぁ」

そういってボクは、彼女のシルエットに右手を差し出す。――林道の入り口目指し、雑草に足を取られながら歩いてる最中、マレンは、ずっとボクの左腕を掴んでた。

――さっきは、あれほど暗いと思ったのに、林道から出てきてみると広場へ続く砂利道が、やけに明るく感じられた。けれど、まだマレンの右手は、ずっとボクのひじのあたりにあった。突然、その砂利道の向こうのほうに、ほんのり揺らぐオレンジ色の光が射し込む。

(あぁ、きっとキャンプファイアがはじまったんだろうな)

ボクたちは、その光のほうへと向かって歩く。
ふと、マレンがボクの横顔に訊いてきた。

「あたしのこと探しにきてくれたの? カミュ、……」

しばらく黙ってたけど、

「いやぁ、さっきトイレに行こうとして、こっち戻ってきてね、そしたら誰かの泣き声が聞こえてきたんで、てっきりオバケかと思ったら、川澄だった」

そういってボクは「アハハ」と笑った。

ようやくボクらのことを捜しにきたのであろうコーチらしき影たちが、道向こう、遠くの光のなかに、ぼやりと浮かぶ。

「怒られちゃうかな」

マレンは、少し緊張気味にそういう。

「そりゃそうだろ。――とりあえず、オレは腹の具合が悪くなって、部屋へ薬を取りにいったってことにするからさぁ、川澄は、『一緒に付き添った』って、いえばいい」

木立に囲まれた道を抜けた先、その広大な芝の広場には、キャンプファイアの炎のほかにはなにも照明装置は置かれていない。

けれど、森のほうまで果てしなく広がる芝生は、その葉先に白銀色の輝きを灯し、まるでほんのり月明かりを湛(たた)えた静かな湖のようにして、ほの白く巨大な光彩を夜風にそよがせていた。――なに気なく空を見あげる。――その瞬間、きっとボクはいままでの人生のなかで一番感動していたんだろうな。――まるで重力を無視するかのように、凄まじいほどの星の海が夜空一面を覆い尽くしていたんだ。

「すっごーい! 本当にキレイだねぇ」

うしろからマレンも、思わず驚嘆(きょうたん)の声を大空へ捧げた。
ボクはマレンの横顔を見つめる。――彼女の大きな瞳のなかに、星々の輝きが映し出されていた。

(キレイな目をしてるんだな)

夜空を仰ぎ微笑むマレンを見つめながらボクは、はじめてそう感じた。

「あ~、そうだ!」

ふいにマレンは、猫のイラストが描かれたポシェットのなかを探りはじめる。

「はい! カミュ」

と、いって彼女は小さな右手を差し出した。ボクが掌を上に向けると、彼女は赤い箱をそっと置く。

「これはねぇ、あたしが大好きなチョコなんだよ」

月の光りに照らされて、星の輝きを浴びながらマレンは笑う。

(もしかして、さっき、これを取りに戻ったのか?)

ボクは箱を開け、チョコを一粒、掌に乗せると、それを口へと運ぶ。

「どう? 美味しいでしょ?」

マレンはボクの横顔を見つめ、そう訊ねる。
ボクは彼女のほうを少し見て、チョコレート風味の甘い息を吐き出す。

「まぁ、普通、――」

「え~っ、普通のヤツより美味しいでしょ?」

マレンは少し「ムッ」としながらそういった。

「――流れ星って見たことある?」

ふいにボクはマレンにそう訊く。

「えっ、見たことないけど」

頬にチョコの形を浮かびあがらせ、まだ少しだけ「ムッ」としたままマレンは、そう答える。

「流れ星に三回願い事をすれば、その願いが叶うっていうのは有名だけどね、――『好きな人と2人きりで、流れ星を一緒に見ると、その人と結婚できるんだ』ってね、誰かに聞いたことがあるんだ」

するとマレンは大きな瞳をボクへ向け、少しだけその小さな口元を微笑ませる。――やがて「ニッコリ」笑ってささやいた。

「だったら楽だね。流れ星に願うことなんて、きっと、みんなそれくらいしかないもんね」

そして言葉を続けた。

「じゃぁさぁ、もしカミュと一緒に流れ星見たらさぁ、あたしたち結婚しちゃうのかな?」

ボクは、笑って答える。

「まぁ、さすがにそれはないんじゃないの?」

「なんで!」

ショートカットのマレンは、そういうと、また頬を少しだけ膨らませた。



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】


I Don't Want To Talk About It - ロッド・スチュワート
6thアルバム『Atlantic Crossing』 1975年

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君が手を振っていた - 染谷俊 【バラードの名曲】

【邦楽バラードの名曲】


君が手を振っていた





小学校4年の夏休み、――

夕食、――と、いってもただのカレーライスだったけど、それを食べ終えると、ボクらは順番に流しで食器を洗い、自然体験教室の敷地から数分歩いた先の広場へと向かうようコーチにいわれた。どうやら、そこにはキャンプファイヤー用の焚き火がすでにセットされてるらしかった。――

結局、ボクはカレーのルーを半分以上残してしまったんで、その残飯をゴミ袋に捨て、「カシャカシャ」食器を洗っていると、うしろからマレンが話しかけてきた。

「カミュ、まだ具合悪いの?」

大きな瞳を曇らせて、そう心配する彼女の顔を左の肩越しに振り返ったボクは、

「ううん、あまり好きじゃないんだ。カレーって」

と、いって笑った。

「そうなの、……でもさぁ、それじゃぁお腹空いちゃうでしょ? あたしね、いろいろお菓子持ってきてるから、あとであげるよ」

隣の流し台で食器を洗いながら、マレンはそういってボクを見つめた。

「あぁ、……でもいいよ。そんなにお腹は空いてないからさ」

ボクはそっと微笑みかける。――マレンは手についた洗剤を洗い流して小声でささやく。

「すごい美味しいチョコがあるんだよ! みんなには内緒でカミュにだけあげるからね」

自慢げに彼女は、そういって「ニッコリ」笑った。

宿泊棟から五百メートルくらい離れた場所にあるという広場まで、頭上をうっそうと生い茂る樹木の影がみっしり覆っているせいで、足元なんてほとんどなにも見えなかった。靴底に伝わる感触で、なんとなくそこが砂利道なんだとボクは気付く。途中、数本の街路灯が灯(とも)されてはいたけれど、アーモンド型の半透明な蛍光灯カバーに絡みつく蔦(つた)が、ただでさえ薄暗い光源を隠してしまい、ほとんど役に立ってなかった。

うしろから、悲鳴をあげて女子たちがその暗闇のなかを怯えるように歩いてきてる。そのなかに、ボクが少しだけ気になってる女の子の声も時折混じっていた。――その子と話す絶好のチャンスだと思い、彼女たちが追いつくのをボクは薄暗い街灯の下で待つことにする。

「誰だろう? あっ、カミュだ!」

ボクのシルエットに気付いた誰かがそう叫ぶ。かろうじて表情のわかる程度の暗がりのなか、ちょっぴり想いを寄せる、その子の笑顔を見つけ出す。けれど同時に、このグループのなかに川澄マレンの姿がないことにも、すぐに気付いた。

「あれ? 川澄は?」

ボクがそう訊ねると、誰かが答える。

「あぁ、マレンは、さっき部屋のほうへ戻っていったけど。なにか忘れ物したみたいで」

(忘れ物?)

すると、ボクの気になっていた、その女の子が笑いながら話を繋いだ。

「まったく、……マレンはいっつも自分のことしか考えないで、そうやってみんなに迷惑ばかりかけるんだから」

ボクは、彼女がそんなことをいう子だなんて思ってなかったんで、正直、ちょっとショックを受けた。

「行こう! カミュ、もうすぐキャンプファイアはじまっちゃうよ」

彼女は、そうボクを誘った。

「でも、川澄、……もしかしたら、場所とかわかんないかもしれないし」

少しボクが躊躇(ためら)うと、

「大丈夫だよ。たぶん、みんなの声とかも聞こえるはずだもん。だからマレンもそのうちくるよ」

その子は、そういってから、

「あ~っ、もしかしたらカミュ、好きなんでしょ? マレンのこと」

と、訊ねるようにからかい、笑った。

「――好きか嫌いかなんてわからないけど、……心配か、なんとも思わないかっていうんなら、いま、川澄のことはすげぇ心配。まぁ、それが普通だと思うんだけど」

そういって、ボクは闇のなかを宿泊棟のほうへ向かって駆けだした。
建物の外から二階を見あげてみたが、男女どちらの部屋の電気も点いてはおらず、まさかと思い、念のため川のほうへも探しに行った。けれど、マレンはどこにもいない。

(もしかしたら、入れ違いになったかな?)

そう思いつつ、広場のほうへと戻る途中、さっきは暗くて全然わからなかったけど、左側の木立のあいだから、ずっと奥のほうへと続いてる、細い林道の入り口があることに気付いた。

枯れ落ちた枝葉がそこいらじゅうに散乱し、くるぶしを隠すほどまで好き放題に伸びた雑草が繁ってて、普通なら、誰も夜、こんなところへは絶対ひとりで立ち入りったりはしない。


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】


君が手を振っていた - 染谷俊
1stアルバム『愛にあいたかった』 1993年




 
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【Re-Edit】 涙のふるさと-BUMP OF CHICKEN 【バラードの名曲】

【Re-Edit】【邦楽バラードの名曲】


涙のふるさと






小学校4年の夏休み、――

群馬県の山奥、――最寄りの駅から貸切りバスに乗り換えて、誰もが車酔いをしてしまうほど、いくつもの大きなカーブが続く狭い林道を一時間以上走った先に、ようやく、その自然体験教室はあった。

バスを降りた頃にはもう、ボクはすっかり気持ち悪くなってしまっていて、しばらくまともに話すことさえもできない状態だった。

このスイミングスクールの夏合宿を、ものすごく楽しみにしていたわけでもないし、別にそれほど行きたくもなかった。けれど毎年、冬休みになるたんび、半ば強制的に長距離バスのなかへと押し込まれていたスキー合宿に比べればかなりマシだとは思う。

――なんとなく寂れた学校の校舎を思わせる、古い木造二階建ての宿泊棟のすぐ脇を、川幅の広い清流が流れていた。

巨岩同士が折り重なりあう、その狭間には、濃い碧緑(あおみどり)色した流れ溜まりができていて、そこだけは見るからに相当、深さがありそうだ。そんな美しい清流の向こうには、奥知れぬほどの巨大な深緑の影で山肌を覆った森が、遥か彼方まで広がっている。

源流のほうから運ばれる、どこか甘みのある清らかな空気で深呼吸を繰り返していると、ボクの左脇に、やがて小さな気配を感じた。――見上げてみると、ジーンズ生地の短パンに、ピンクのキャラクターTシャツ姿の川澄マレンが立っていた。まるで男の子みたいなショートカットヘアの彼女は、小さな右手でボクへキュウリを差し出しながら笑いかける。

「食べる? 冷たくて美味しいよ」

どうやらそのキュウリは、施設が用意していたものらしいけど、まだ、かなり気持ち悪くってなにも食べられるような状態ではなかったので、

「いらない――」

と、ボクはつい素っ気なくいい放ってしまう。するとマレンは、なんだかとても悲しそうな瞳でボクの顔を、しばらくのあいだ見つめていた。――しょんぼりと去っていく彼女のうしろ姿を見てるうち、

(もう少し、優しくいえばよかったな)

と、なんだかボクは少しだけ後悔した。――

オリエーテーションがはじまるまで、1時間くらいフリータイムがあったので、ボクは体調が復活するのを、川沿いの平らな石に座って待つことにする。――すると数名のヤツらがボクのほうへと寄ってきて、

「もしかして、川澄ってお前のこと好きなんじゃねぇの?」

と、からかうように笑った。

ボクは、川のほうへと小さく言葉を漏らした。

「ヤダよ。あんなモンチッチみたいなのは」

誰かに好かれることも、――誰かを好きになることも、妙に気恥ずかしかった。なんだかものすごく、うしろめたい気持ちになってしまうんだ。そう、――なんとなくそれは、小さな悪戯(いたずら)をしてしまったときの罪の意識にも、どこか似ている、――そんな気がした。

今回の合宿には、小学生を中心に男女ほぼ半々で合計20名くらいが参加していた。オリエーテーリングが終わると、三班に分かれて夕食の準備に取りかかる。結局、こんな場所で作るものといえば、いつだってカレーくらいなものだ。ニンジンと玉ねぎ、――二つの苦手食材が「ゴロゴロ」入った辛い食べ物。――そんなカレーライスが、ボクはあまり好きではなかった。

川から少し離れた飯場で、女の子たちは「キャーキャー」と、悪戦苦闘しながら野菜やらを切っている。その間、男子は、石を集めて釜戸を作り、薪をくべつつ飯盒(はんごう)で米を炊いた。それをセットし終わると、冷たい川にひざまで浸かって遊びはじめるヤツらが多かったけれど、ボクは、さっきの平らな石に座って、暮れゆく静かな山の音をひとりで聴きはじめる。

するとまた、マレンが「ニコニコ」しながらボクのほうへと近づいてきた。

(またきたのか、――)

「カミュ、なにしてんの?」

ボクは、また男どもになにかをいわれるのもイヤだったし、それ以上に気になる女の子に、マレンと仲良くしてるところを見られたくなかった。だから本当はマレンにどっかへ行って欲しかったんだ。――けれど、

「あぁ、なんだか疲れちゃってさぁ、最近、バスとか乗ってなかったからね。車に乗ると、むかしから酔っちゃうんだよ」

と、ボクは、どうでもいいようなことを彼女にいった。
すると、ショートカットのマレンは、慌てて川のほうへと走り出す。そして、水に塗らしたハンカチを絞りながら戻ってくると、

「おでこを冷やすとね、乗り物酔いに効くみたいだよ」

と、花柄の刺繍が入った、その白いハンカチをボクへと差し出す。

(こんなもの受け取ったら、また、ヤツらになにかいわれるしなぁ)

川のほうで、こっちを見ながら「ニヤニヤ」笑う男連中の視線が気になった。けれど、あまりに真剣な眼差しを向けているマレンの好意を断るわけにもいかなかった。

「あっ、ありがとう」

ボクは、そのハンカチを受け取ると、さっそくおでこに当ててみる。そしてつぶやいた。

「う~ん、……たしかに気持ちいいかもね」

マレンは、大きな薄茶色の瞳を「キラキラ」させて微笑んでいた。

夕食の時間、――
ボクたちは班ごとに分かれ、外に用意されていた長いテーブルでカレーを食べていた。隣に座ってたヤツが、また、ボクらのことをからかいはじめる。

「やっぱ、絶対お前のこと好きなんだよ、川澄は。それにさぁ、お前もなんだかんだでアイツに気があるんじゃねえの?」

そんな言葉は無視して、離れたテーブルで美味しそうにカレーを食べてるマレンを見つめながらボクは思った。

(彼女って、カレーが好きなのかな?)

彼女がそれをあまりに美味しそうに食べているので、ついボクも、ニンジンをかじってみたけれど、やっぱり苦くって、なかなか飲み込むことができなかった。――


1983年7月15日(金)

「覚えてる?」

マレンは口元に少しだけ微笑みを浮かべた。

「スイミングスクールで夏休みに行った合宿のこと。あたしね。夏になるといつもあの合宿を思い出すんだよ」

「あぁ。たしか群馬だかあのへんに行ったんだよね」


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】





【2012.05.01 記事原文】

おそらく当ブログで紹介する中では、最も最近のナンバーではあるが・・・
BUMP OF CHICKENの曲でボクが一番好きなのはやっぱ「涙のふるさと」ですね♪


リアルな若いファンとは違って、ボクらおじさん世代には、
セピアカラーではなくって「夕焼け色」に染まった思い出として
古きよき青春の日々が蘇ってくるような思いに駆られるのである。


何気なく聴くとシンプルに思えるけど、ものすごくベースアレンジが良いですね。
やっぱこのバンドは歌詞がスゴイと思います!!
名曲です☆


しかし・・・邦楽に関しては、ちょっと最近のネタが多すぎるかな_???
まぁ、その辺は気にしないで下さいませ☆



涙のふるさと-BUMP OF CHICKEN
5thアルバム『orbital period』 2007年



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【Re-Edit】 顔 - 長渕剛 【フォークの名曲】

【Re-Edit】【Rakiのカラオケソング/フォークの名曲】









1983年9月13日(火)


江ノ電は、相も変らず混んでいた。――ため息をつきながら到着した車両へと先に押し入った背の低い林ショウカが、どこまで奥にいったのか、まったく見つけられないほど、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた満員電車の車中、ボクは、田代ミツオと小山ミチコに挟まれながら、揺れる車窓の向こう側、灯(とも)る無数の窓明かりを眺めてた。

(メイとショウカは、どのへんにいるのな?)

すでにもう、ウォークマンの電池はとっくに切れてしまってる。聞こえてくるのは子供の甲高い喚(わめ)き声と中年女性の無節操な笑い声、それにだんだん速度を上げてゆく「ウォーン」と、いう苦しそうなモーター音と、「ガタゴト」軋(きし)むレールのジョイント音、――そんなものくらいだろうか。――江ノ電に揺られ続けているうちに、なんとなく、昼間の喧嘩でカラダに受けた傷の痛みを思い出した。

「シーナ」

ふいに田代が、右隣で「ポツリ」と名を呼ぶ。

「あっ?」

ボクは、車窓に映る彼を見つめた。

「お前って、まだギター弾いてるのか?」

と、田代はいきなり訊いてきた。ボクは少し笑って、

「いや、もう最近は弾いてないねぇ。中3になってからは、たまにピアノを弾くくらいで、あんまりギターとかは弾かなくなったな」

小声でそういうと、すぐ左に立つミチコがボクの横顔を見つめた。田代は小声で言葉を続ける。

「ボク、小学校の頃から長渕が好きでね、むかしはずっとそればかり聴いてたんだ」

「長渕? あぁ、『逆流』は聴いたことあるけど、ほかのアルバムは、ほとんど聴いたことないね」

ボク自身、オフコースと松山千春はよく聴いてたけど、長渕剛のアルバムは一枚だけしか聴いたことがない。強いていえば、彼がはじめて「順子」を歌っているのをテレビで観たとき、この時代のニューミュージック系シンガーソングライターのなかでは、『フォークギターがやたら上手いな』って思った程度だ。

「ついこないだ、西武球場でのライブアルバムがリリースされてね、まぁ、いままでのベストみたいな曲が収録されてるんだけど、ボク、そのライブを今年の夏、観にいったんだ。すごいよかったんだよ。そのライブがさぁ」

と、田代が嬉しそうにつぶやいた。

「えっ? 長渕のライブに行ったの?」

彼がまさか、そこまでのファンだとは思ってなかったので、少しだけ驚く。

「『乾杯』ってアルバムに入ってる曲は結構好きなんだけど、なかでも『顔』って歌の歌詞が一番好きでね」

田代は静かにそういうと少し置いて、車窓に映りこんだボク、――もしくはその向こう側の風景に向かって言葉をつむいだ。

「どうしようもないくらい絶望していたときにね、この曲を聴いて、なんだか少しだけ立ちなおれたんだよ」

(――絶望か、)

ボクは、田代の横顔に笑顔を向ける。

「へぇ、だったら是非オレも聴いてみてぇな。いま、ちょうどいい感じに絶望してる最中なんでね」

ミチコは黙ったままでボクを見つめ続けていたが、ボクは彼女のほうを振り向くことができなかった。――やはり、どうしても話しかけるきっかけとなるべき最初の言葉が見つからない。

藤沢駅を降りると、同じ電車に乗ってたんであろう同じ学年のヤツらがやたらと目についた。
車内ではぐれたメイたちが改札から出てくるのを待っていると、

「あれ? シーナ君」

と、うしろから声をかけられる。――ボクは振り向く。竹内カナエが長い黒髪を風になびかせボクを見ていた。

「あぁ、竹内さんも同じ電車だったんだね」

そういうと、カナエはミチコの姿を見て、

「ん? ミチコも一緒だったんだ。つうか、なんで一緒にいるの?」

と、小声で耳元に訊ねてくる。ボクは慌てて彼女の肩を押していき、少し離れて、背の高いミチコの横顔を見つめながら答えた。

「小山さんね、どうやら川上さんのグループにマかれちゃってさ、鎌倉の寺を、ひとりで歩いてたんだよ」

「それでシーナ君たちのグループに入れてあげたの? はぁ~、しっかし、まったくしょうがないねぇ、ナオたちも」

と、カナエは苦笑した。そして、ちょっと真顔になって言葉を続けた。

「でもさぁ、昼くらいだったかな? 鶴岡八幡宮の近くでナオたちと偶然会ったんだけどね、なんか、ほかの中学の不良たちにカラまれて、栗原君と佐藤君、ナオたちのことを置いたまま走って逃げちゃったんだって。――ナオたちは結局、ソイツらには手を出されなかったみたいだけど、なんだかすごい怒ってたよ。『女の子を置いて逃げるなんてホント最低だ』って」

(Dt中の連中だな、昼ってことは、ヤツらが建長寺にくる前か、……)

「いや、栗原たちが逃げたのは仕方ないでしょ。だって、アイツらって超最低なヤツらだもん」

そういってボクは笑った。ようやくメイたちが人混みのなかから姿を見せる。

「で、そっちはどうだったの? 楽しかった?」

カナエが一重の瞳を向けながらボクに訊ねる。――ボクは少し笑ってつぶやいた。

「そりゃもう、半年分くらいの出来事が一気に起こったような、すんごく充実しまくった長い一日だったねぇ。――」



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.06.17 記事原文】

今まででボクが一番カラオケで歌った長渕剛氏の楽曲は
多分1980年リリースの3rdアルバム『乾杯』 に収録の「顔」ですね・・・
※邦楽の中で、ものすんごく好きな曲なのですわ♪


この曲は若い頃よりも今聴いてこそ何となく納得できるんですよねぇ。
※男ってぇのは、いくつになっても常にレジスタンスでなきゃぁねぇ・・


特に2番の歌詞なんてホントにスゴと思いますねぇ・・・
思わず泣けてきます・・・

さて。
Yにオリジナル音源はありませんので、ラジオでの弾き語りver.をリンクしましたが、
石野真子さんと離婚後の西武球場Liveのver.もあったんで一応こっちもリンク!
歌前の離婚に関するMCがウケます(笑

でも・・・ホントギターが上手いですなぁ・・・



↑ ライブverも宜しい☆


顔 - 長渕剛
3rdアルバム『乾杯』 1980年





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【Re-Edit】 Lost In Your Eyes - Debbie Gibson 【80年代バラード】

【Re-Edit】【80年代洋楽バラードの名曲】


Lost In Your Eyes





1983年9月13日(火)

涼風彷徨(さまよ)える初秋の宵闇は、過ぎゆく晩夏の燐光(りんこう)を、ひっそりと藍染めするよう、深紫(ふかむらさき)の黄昏色に包んでいった。輝きはじめた星たちが、月光を湛(たた)えた濃い碧色(へきしょく)の波の彼方でキラキラ踊る。

七里ガ浜の駅へと向かう道すがら、隣を歩く李メイがボクに、そっと訊ねた。

「シーナ君、彼女とは、――川澄さんとは、もう別れてしまったの?」

薄暗い駅前通りを歩きながら、ついボクはそんな夜空を見上げた。――そしてつぶやく。

「そうだね、正しくいうなら離れてしまったのかな。きっと距離も、……心も」

枯れた落葉の湿り気が仄(ほの)かに香る坂道を、「ポツリポツリ」と照らしてる水銀灯の淡白く冷たい灯(あか)り、――映し出される林ショウカや小山ミチコの華奢(きゃしゃ)な影、――路面たゆたうそんな二つのシルエットを避けるよう、ボクたちは、ゆったり歩調を合わせていく。

「心も、――」

メイがボクの言葉を繰り返す。

「まぁ、オレが悪いんだけどね。――実は彼女のお母さん、ずっと鎌倉の病院に入院してたんだ。……そしたら、なんだか昏睡状態になっちゃったみたいで、意識が戻らなくなってね。そんなお母さんのこと、毎日看病して、辛く悲しい気持ちをひとりで抱え込んでた彼女の気持ちを一番知ってたはずなのに、……

『彼女をどうにかしてあげたい』って本気で思ってたはずなのに、――オレはね、全然いいたくもない言葉ばかりを彼女に吐き出してしまったんだよ。本当にいいたかった言葉はすべて心に残したままで、……いわなくてもいいような、……絶対、彼女にいっちゃいけないような言葉ばかりを、ね」

こんなこと、メイにいう必要もない話なんだろうだとは思ってたんだ。けれど、彼女はどんな苦しみも哀しみも、すべて受け入れられるほどに深い闇色の翳(かげ)りを、絶えず心に秘めている。――だから、きっとメイになら話してもいいような気がしたんだ。なにも慰めて欲しいだなんて思っちゃいない。気休めの言葉なんて、――いまはいらない。

「ワタシのお父さん、――」

メイが、キレイに整った薄い唇を静かに開く。

「ワタシが生まれる前から、いろんな仕事をしてたみたいなんだけど、なにをしてたのかは、お母さんも教えてくれなかったし、ずっとワタシにもわからなかった。ワタシが小学校に入った頃からね、ウチは生活が苦しかったの。……だから、誕生日にどれだけ欲しいものがあったとしても、『別に欲しいものなんてない』って、気づいたときには、毎年そうやって答えるようになっていた」

ショウカとミチコ、それに、うしろからボクらを追い越していった田代が、ホームの先のほうへと歩いていく。ボクたちは駅員のいないホームの手前で立ち止まる。

「けれど本当は、小学校に入ったときからワタシはピアノが欲しかった。でも、そんなもの買ってもらえるはずがないことなんてわかってたの。――小学校2年のとき、学校で七夕の短冊に願い事を書かされたことがあったんだけど、……そのときワタシは、生まれてはじめて自分の本当の気持ちを、――ずっと抱え続けてきた夢をね、その短冊に込めることができたの」

「ポツポツ」と、高校生らしき数名の学生が佇むだけの、七里ガ浜駅のホームを照らす蛍光灯が、向こうのほうでこちらを振り返ったショウカとメイの小さな顔を映し出す。ボクたちはゆっくり歩きはじめた。

「――その七夕の願い事がね、文集になって参観日のとき配られた。ワタシ、本当はお母さんにそんなもの見られたくなかったんだけど、けっきょく見られてしまったの。その夜、――お父さんが帰ってきてからワタシのことを呼んでね、『お前にピアノを買ってあげる』って、いきなりそういったの。ワタシ、本当に信じられないくらい嬉しくって、その日は全然眠れなかった」

メイは一瞬、黙り込む。ボクは彼女の横顔を見つめた。

「――2週間くらいしてから、ウチの応接間にピアノが届いた。ワタシ、本当に嬉しくって何度もお父さんに抱きつきながらお礼をいったの。お父さんは笑って『お前には、いままでなにも買ってやれなかったから』ってね、ずっとあたまを撫でてくれていた。――

でも、それからしばらくして、ある朝早く、ウチに男の人たちが3人きてね、そのままお父さんは連れて行かれてしまった。ワタシがビックリして玄関のほうへ出ていこうとすると、お母さんがね、『大丈夫、すぐ戻ってくるから』って、ワタシの腕を掴みながら笑った。――だけど、何ヶ月経ってもお父さんは戻ってこなかった。『お父さんはいま、海外で働いてるから』って、お母さんはいったけど、ワタシには、なんとなく嘘なんだろうってことはわかってた。たぶん警察に連れてかれたんだろうなって、とっくにわかってたの」

ボクは、なにもいわずに彼女の横顔を見つめ続けていた。

「あのとき、『ピアノが欲しい』だなんて七夕の短冊に書いてしまったから、お父さんは捕まってしまったんだって、ずっと後悔してきたの。……それが理由だったんだって、思い込んでしまったの。――ワタシはね、本心じゃない気持ちをいってしまったことで後悔し続けているシーナ君とはまったく逆でね、本当の気持ちを言葉にしてしまったことを死ぬほど後悔し続けてきた。――ワタシはもう、なにも望んじゃいけないんだって、そのとき思ったの」

そういって、メイは口元に、哀しくなるほど儚(はかな)い笑みを浮かびあがらせた。

そう、――彼女のほうがボクなんかよりも遥(はる)かに深い哀しみを抱え続けて生きてきた。――そんなこと、中3になってメイの瞳をはじめて教室のなかで見たときから、とっくにわかってたんだ。

【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.21 記事原文】

デビー・ギブソンちゃん1989年の全米NO.1アルバム『Electoric Youth』
からシングルでもNO.1を獲得したやさしいナンバー「Lost In Your Eyes」を選曲♪
しかし…可愛かったなぁ。。。


何かの映画のエンディングにでも使えそうな曲ですよね。





Lost In Your Eyes - Electric YouthLost In Your Eyes - デビー・ギブソン
2ndアルバム『Electoric Youth』 1989年



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God Will Make A Way





I chose "God Will Make a Way" of the title song from the album
"God Will Make a Way" which Don Moen released in 2003.



1983年9月13日(火)


稲村ガ崎の駅を過ぎると、江ノ電は緩やかに右のほうへとカーブしながら海岸線へと向かう。そんな江ノ電のうしろ姿を、ボクたちは線路沿いの住宅街の路地から見送った。しばらくは線路に沿って進んでから交差点を左に折れ、国道134号線へ出る。すぐ目の前には、藤色に染まりゆく波紋を岸辺へ寄せる鎌倉の海原が広がっていた。

「うわぁ! すごいキレイだね」

と、ショウカが思わず感嘆の声を海へと投げかける。――

「オレ、ちょっと次の稲村ガ崎で降りるから、みんなは帰っていいよ」

暮れゆく山影に抱かれた極楽寺駅のホームで電車を待ちながら、さっきボクがみんなにそう告げたとき、李メイがいった。

「ワタシも、一緒に行ってもいいかな?」

って。――
それを聞いて、ショウカは、

「だったらさぁ、みんなで行こうよ」

と、田代ミツオヤや小山ミチコに同意を求めた。―――まぁ、さすがにメイと2人っきりにはさせてくれないだろうとは思ってたけど。

――去年、川澄マレンの誕生日に、葉山の海で一緒に流れ星を見たあの日より、江ノ島は、遥か沖合いに淡い墨色(ぼくしょく)のシルエットを浮かばせている。鎌倉の海岸を国道と並走する江ノ電が、内陸のほうへと折れていく腰越駅手前の小動岬(こゆるぎみさき)と江ノ島のちょうど真ん中には、あまりにも美しい富士山の輪郭が描き出されていた。

「本当に、すごくキレイ」

琥珀に黄昏(たそがれ)ゆく海の向こうに、そんな幻想的な風景を見つめ、ミチコも小さくつぶやいた。

ボクたちは砂浜へとは降りず、国道沿いの歩道を歩いた。7月にマレンと見つめた七里ガ浜の海岸が、だんだんと近づいてきている。薄明の空に浮かぶ葡萄(ぶどう)色した雲の端から、筋状の光芒(こうぼう)が無数に降り注ぐ。気つけば、ボクの左隣をメイが歩いていた。

「天使のはしご、――」

ふいにメイは柔らかく、そうささやいた。

「ん?」

ボクは彼女の横顔に目をやる。まどろんだ寝息のように、穏やかな波音を湛(たた)えて揺らぐ薄紫の海を背に、メイは微笑む。

「あの光の筋はね、そういわれてるの。『天使のはしご』って」

彼女の瞳に映し出されている空を、ともに見上げてボクも微笑む。

「へぇ、なんだかいい響きだね」

「ワタシ、あの光が照らし出す場所にね、子供の頃からずっと立ってみたいって思ってたの。そうすれば、『きっと願い事が叶うんじゃないかな』って信じてたから」

そんなメイの優しい言葉の余韻に、ボクは問いかける。

「えっ、李さんの願い事ってなに?」

するとメイは、少し恥ずかしそうにはにかんだ。ボクは、そんな彼女の表情をいままで一度も見たことがなかった。

「シーナ君、――ノストラダムスの予言って知ってる?」

意表を突いたそんな彼女からの質問に、ボクは一瞬、首を傾げながらも、

「あぁ、1999年に人類が滅ぶとかなんとかっていうヤツね」

と、笑う。メイは、はにかんだままでボクを見つめた。

「1999年って、ワタシたちがちょうど30歳くらいでしょ? ワタシね、そのとき人類が本当に滅んでも構わないって思ってるの」

江ノ島の灯台に明かりが灯され、瑠璃色の海にはほんのり街灯りが揺らいでいる。
メイは灯台の光が一周するのを待ってから、途切れた言葉をつむぎ合わせた。

「――その瞬間だけは、好きな人と一緒にいたい」

考えてみれば、彼女はまだ中学3年の女の子なのだ。だから、そうしたロマンティックな願い事を持ってたからって、なにも特別驚くような話ではない。――

けれど普段、透き通るほどの涼やかさをその身に纏(まと)い、ひとりだけボクらとは違う、まるで氷の世界に住んでるようにも感じられてた彼女から、そんな言葉を聞くだなんて思ってもみなかった。

「おかしい?」

そのとき、ボクがどんな顔をしてたかはわからないけど、きっとメイがそう質問したくなるような顔だったんだろう。

「いや、ぜんぜんおかしくないよ。きっと、みんなそう思うんだろうしね」

彼女の向こう側に、七里ガ浜の海が広がっていた。

(人類最後の瞬間、いちばん一緒にいたい人、――)

ボクの口からは自然と言葉が滑り落ちていく。

「オレの願いはね、――もう一度、2ヶ月前のこの場所に戻ること、かな」

たぶんさっきのボクと同じように、メイは不思議そうな顔をして涼やかな視線を向けた。

(失ってしまったものの大切さに気づかなかったあの日に、もう一度戻ることができるなら、きっともう手放すことはないのだろう。マレンも、――マレンと過ごす人生も)

「マキコから聞いたんだけど、――もしかしたら鎌倉に転校した彼女のこと?」

メイが、静かに問いかける。

「後悔っていう気持ちってね、時間とともに消えてくもんだと思ってたんだけど、なんだか違うみたいだ。――別に大きくもならない、……けれど決して小さくもなってくれない。いつだって勝手に心を連れ戻そうとするんだ。その気持ちが生み出されてしまった場所と時間まで」

「もう暗いからさぁ、とりあえず七里ガ浜の駅に向かうよ?」

前を歩くショウカが振り返ってボクらに訊ねる。
大きな声でボクは答えた。

「あぁ、もう帰ろう」

そして小さくつぶやいた。

「――こんな場所にきてみたところで、なにも変わらない」

気づくと、メイの右手がボクの背中に、そっと触れていた。

「よかった」

そんなメイの言葉に思わず振り向くと、彼女は口元にうっすら微笑みを湛(たた)えながら

「――最後にシーナ君の悩みが聞けて」

と、いいながらボクを見つめた。
西のほうから、秋めいた夜風が海辺を吹き抜ける。

「そりゃオレにだってさぁ、悩みくらいあるよ」

そういって言葉を風に投げかけて、ボクも少しだけ微笑んだ。



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.06.24 記事原文】

ボクは基本的には無宗教であります!

が。強いていうならカトリック系のゴシックデザインは好きです。
教会建築も絵画も彫刻もロザリオも好き!
さらに、身に着けるのは常にクロスのペンダントです☆

さて。
ドン・モーエン氏と聞いて分かる人は一般的には少ないでしょうね。
おそらく日本で知ってるとすればクリスチャン系で音楽好きな人くらいでしょう。

彼は俗にいう「クリスチャンミュージック」系SSWで御座います。

彼が2003年にリリースしたアルバム『God Will Make a Way』 ☆
タイトルソングとなった「God Will Make A Way」は、Wikiると
彼の「子供三人が自動車事故で重傷を負い、一番上の息子を亡くした」
際に作られた歌であるということ。

まぁ内容を踏まえると、
哀しみを乗り越えて、これから生きていくための道を神はきっと示してくれる!
ということでしょうか。。。


とても優しいメロディですが、そういう背景を知ると哀しさが漂っているようにも感じます。
思想や宗教を超えて、何か哀しいことがあったときに聴いてみてはいかがでしょうか?






God Will Make a Way - God Will Make a Way: The Best of Don MoenGod Will Make A Way - ドン・モーエン 
アルバム『God Will Make a Way』 2003年




The title song was written for his wife's sister and her husband,
who lost their oldest son in an auto accident while three other children were seriously injured.
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【Re-Edit】 Wind Beneath My Wings - Bette Midler 【80年代バラード】

【Re-Edit】【80年代洋楽バラードの名曲】


Wind Beneath My Wings





1983年9月13日(火)


ボクの隣のベンチでは、ミチコが破れた田代の制服を一生懸命縫い合わせている。田代は、ミチコの細い指先を、ただぼんやり見つめていた。

ふと、ショウカが訊ねる。

「あっ、そういえば、メイがいつも一緒に帰ってる車椅子の子って、今日って鎌倉にきてるの?」

メイは一瞬、間をあけて、やがて静かな口調でささやいた。

「ユカはねぇ、結局こなかったの。『同じグループの人に迷惑がかかるから』って、遠慮して」

「ふぅ~ん、そうなんだ。でもさぁ、もしアタシたちと同じルートを、その子が一緒にきてたんなら、ほとんどの場所に行くことができなかったかもね。だって、そもそも鎌倉なんて石段と坂道ばっかだし、それに建長寺の山の上になんて、車椅子じゃ絶対に行けなかったでしょ?」

と、ショウカはさらりといった。メイはなにもいわず、口元に小さな笑みを浮かべた。

(そういえば今年の夏、マキコと盆踊り大会に行った日、寂しそうにメイを待ってたその車椅子の女の子を見かけたな。たしかにショウカのいうとおり、今日、ボクらと同じルートをその子が辿ったとすれば、彼女はほとんどの場所を見てまわることなんてできなかったろう。

もし彼女と一緒なら、きっと段差のないようなお寺ばかりを選ばなきゃいけなくなるんだろうな。――けど、そんな場所なんてあるのか? 京都に修学旅行へ行ったって、たぶん同じことになるんじゃないかな、――彼女は、ちゃんとみんなと一緒に行動できるのだろうか?)

「これでいい?」

ミチコは縫い終えた制服を田代に手渡す。

「あっ、ありがとう」

それを受け取ると、田代が恥ずかしそうにお礼をいった。

ボクは、ふと思い出す。

「あのさぁ、そういえばね、結局、お前がDt中のヤツらに取られた金って、取り返せないままで終わっちゃったじゃん。そう考えると、なんとなくオレって殴られ損な気がするんだけど気のせい?」

相変わらず目つきの悪い視線をボクのほうに向け、田代は、

「あぁ、なんだか悪かったね。意味のない喧嘩をさせてしまって」

と、申し訳なさそうにつぶやく。

するとメイが穏やかな口調で、そんな田代の声をやんわり否定した。

「暴力がいいことだとは思わない。――けどね、ワタシは今日、2人が喧嘩したことに意味がなかったなんて、ぜんぜん思わないの。――ショウカのことを助けるために、そしてミチコの尊厳を守るために、シーナ君も田代君も、たった2人であれだけの人数を相手に戦ってた。『勝てやしないかもしれない』っていう、怯えた素振りなんていっさい見せず、誰かのことを、……その誰かが持ってるものを守るため、必死になって戦っていたことに意味がないわけなんてない。お金を失ってしまうことよりも、遥(はる)かに大切なものをね、きっと2人は守ろうとしたんだと思う」

ボクは、メイの横顔に目を向ける。

田代はしばらくうつむいていたが、やがて顔をあげ、ミチコを見つめた。

「小山さん、――いままでなにもしてあげられなくて本当にゴメンね。……小学校のときから小山さんがイジメられてるのを毎日ずっと見てきたくせに、ボクにはキミを助けてあげることができなかった。……自分を守ることばかりで精一杯だったんだ。だけどね、自分では絶対にできないだろうなって決めつけていたことを、やってみたら今日、ボクにはできたんだよ。――なんで、いままでそれをしなかったんだろうって、思うけど」

そういうと田代はボクのほうへと目を向け、さらに語り続けた。

「ボク、ようやくわかったんだよ。――『ずっとひとりだったから、なにもできなかったんだ』ってことを。……でも、さっきシーナがたったひとり一緒にいてくれただけで、ものすごい勇気を得ることができたんだ。不思議なくらい安心できたんだ。――

ボクはもう、来月にはこの学校から転校してしまうけど、でも、ここにいるみんなは、これからもキミと一緒にいてくれるんだって、なんだかボクは信じられるんだ。今日、みんなと一緒にいて、なんとなくそう思えたんだよ。だからキミにもね、勇気を持って欲しい。難しいことかもしれないけれど、……いままでの自分を大きく変えていこうとするための勇気を、小山さんにも持って欲しいんだよ」

ミチコは黙ったまま、つぶらな瞳で田代が吐き落としてゆく言葉を見つめ続けていた。

静かに暮れる秋空を覆った葉々の透き間からこぼれ落ちてく、まばらな陽射しを浴びながら、メイは瞳をうっすら細め、静かに唇を動かした。

「大丈夫、きっとミチコは変わっていける。――アナタの心の優しさが、やがていろんな人の優しさを引き寄せていくんだと思う。さっきミチコも感じたでしょ? ずっと感じることさえも許されなかった希望を、ふたたび抱かせてくれる優しさが、すぐそばにあったんだってことを、――田代君たちがね、さっき守ってくれたんだよ。――きっとアナタが失くしかけていた、幸せを願おうとする心、そのものをね」

ミチコは、天然カールの黒髪に西陽をほんのり浮かびあがらせ、小さく頷き、そっと指先で涙を押さえた。――
ボクは、田代の肩を指で突っつき、笑いながらいった。

「やっぱ、いいヤツなんじゃん。お前って。――でもさぁ、ちゃんと返せよな。オレが貸した2000円は! オレはお前や林さんとは違って、金持ちのボンボンなんかじゃねぇんだからな」

口元を微笑ませ、田代は小さく頷いた。そしてつぶやく。

「さっき半増坊でアイツらと喧嘩し終えたあと、李さんのいってたことが、なんとなくボクにもわかるような気がする。シーナ、――お前はさぁ、たぶん、誰かが心に隠し持つ、本当の顔に気づいてやることができる人なんだと思う。そして、その誰かが本当に苦しんでるときは、絶対その人のために、なにかをしようとするヤツなんだろうってね」



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.21 記事原文】

女優としても高い評価を受けているベット・ミドラー。
彼女が出演した映画『フォーエバー・フレンズ』のエンディング曲
「Wind Beneath My Wings」です。


映画の一番ラストで、親友と出会った頃に2人で撮った写真が映るのだが…
いやいや。。。泣けました。。。






Wind Beneath My Wings - The Best BetteWind Beneath My Wings - ベット・ミドラー
サウンドトラック『Beaches: Original Soundtrack』 1988年

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Still They Ride






1983年9月13日(火)


思いのほか小さな極楽寺の駅舎が、暮れかかる夕陽の影に浮かんでる。――その様(さま)が、あまりに侘(わび)しく見えたので、ボクは少しだけ感傷的な気分になってしまった。――いや、この街の佇(たたず)まいそのものが、どことなく鎌倉の栄華なる面影を敢えて拒絶する潔い静けさに満ちているようにも思う。時代によってもたらされる利便性を良しとせず、時を止め、不自由さのなかに美徳を見出す精神的風土に包まれているような、――なんだかそんな気がしたんだ。

――きっと、もう時間が遅いせいもあるのだろうが、ひとつ手前の長谷駅で降りた十分の一ほども、この駅を降りる観光客の姿はなかった。そのほとんどが、おそらくこの地で暮らす人たちなのだろう。いずれにしたって、閑寂(かんじゃく)なこの街の裏路地を、大勢の観光客が行き交うほうが明らかに不自然なんだろう。

寺院の小さな山門は、江ノ電の線路のすぐ傍らに見えてるけれど、駅舎からダイレクトに極楽寺のある側へと出ることはできない。ボクたちは、いったん逆側の線路沿いを鎌倉方面へと少し戻る。

谷間を走る線路の上に渡された朱色の小さな橋の欄干からは、ちょうどトンネルを抜け出てくる江ノ電が絶好のアングルで望める。田代はなんとなく、その風景が気になっているようだった。――

「『極楽寺に行きたい』っていったのって誰だっけ?」

誰に、というわけでもなく、ひなびた小径(こみち)を歩きながらボクはそう訊く。

「あぁ、ワタシがいったの、『行ってみたい』って。――観光ガイド読んでてね、なんとなく静かでいいとこそうだったから」

ボクの少しうしろから、メイの声がした。
だんだんと西に傾く陽射しの色は、この極楽寺の茅葺きの山門を照らし出すにちょうどよい風味に、淡色の黄(き)いろみを帯びはじめてきている。程よく手入れが行き届いた細い参道を囲う草木の陰を踏みしめてボクらは静かに山門のほうへと歩んでいった。

「でもさぁ、あんまりお寺にいられる時間ないよ。……たぶんもう40分くらいしか」

ショウカが右隣からボクを見つめる。極楽寺は、どうやら閉門時間も早いみたいだ。

「まぁ、そんな大きな寺じゃないみたいだし、そんなに長居はしないでしょ」

ボクはそういいながら、山門脇のくぐり戸から境内へ入る。深々とした葉々の茂みに覆われたほかの寺院よりも、極楽寺は陽射しが眩しく感じられた。

中低木を中心に植樹され、桜のほかに、背の高い木がほとんど見受けられないひっそりと静まり返った境内のなかは、なんとなく雑多で、どことなく無造作にさまざまな草木が植樹されてるようにも思えるが、それはそれで、それなりにひとつの寂寞(せきばく)たる風情を醸(かも)し出していた。

本堂を参拝し終え、山門のほうへと戻る途中に置かれていた木製ベンチの休憩所でボクらは一息入れる。鉄の支柱が頭上の格子状ルーフを支え、その上に両側から伸びた木々の枝葉が木陰をつくり出していた。

「たしかに静かなお寺だねぇ」

そういってショウカは笑う。

「まぁ、嫌いじゃないけどね、こういう感じも」

木陰の枝葉をこぼれ落ちる光の行方を足元に見つめながら、ボクも少し笑う。

「でもさぁ、そもそも今回の鎌倉の課外授業って、来月行く修学旅行のための予行演習なんでしょ?」

ショウカがそういうと、静かにメイが唇を動かした。

「そうね、修学旅行で京都に行くときも、また同じような予定表を作らなきゃならないから」

「もしさぁ、またグループ分けするんならさぁ、今日と同じメンバーで行きたいよね? あと、可哀想だから、今度はマキコとかも入れてあげてさぁ」

と、またショウカが笑う。

「マキコ、本当に寂しがってたからね。別のグループになっちゃったこと」

そういって、メイも、うっすら口元を微笑ました。

(そういえば、本当ならば佐藤マキコも、最初のグループ分けのときは同じ班だったんだよな。結局、今回はマキコって誰と一緒のグループだったんだ?)




【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】




【2012.03.18 記事原文】

ジャーニー1981年発表のアルバム『エスケイプ』。


前作『ディパーチャー』の代表曲「Any Way You Want It」
あたりからのキャッチーな路線を因襲し、ハードロックと呼ぶには
難があるものの、まぁいわずもがなの名盤である。


この作品も、自分のおこずかいで最初のほうに買ったアルバム。


いまだにCM等で使用されている珠玉バラード「OPEN ARMS」も良いけど、
とりあえず当時A面?に入っていた「Still They Ride」を選んでみました。



当時聴いていた音楽を、こうして30年後に聞いてみると、
懐かしき中学時代の風景が、まるで先週の事だったかのように
浮かび上がってくるのである。



ちなみに…
ジャーニーは、ボクが初めて武道館コンサートに行った
記念すべきバンドでもある。

日本では、1983年発表の「セパレイト・ウェイズ」あたりから
彼らの認知度が増したものと思われます。






Still They Ride - EscapeStill They Ride - ジャーニー
7thアルバム『Escape』収録曲 1981年
アルバムお薦め度 「☆名盤です☆」



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最後の言い訳





1983年9月13日(火)

「また、さっきの中学のヤツらと会ったらどうする?」

本宮での参拝を終えたあと、大石段を降りながら、そびえ立つ大銀杏(おおいちょう)の木を眺め、ショウカは、ふとそんな心配を口にする。

けれど、もしDt中学の連中に会ったとしたって、きっと今日はもう、ヤツらはなにもしてこないだろう。メイの兄貴、「リケン」の名には、聞くものすべてを震撼(しんかん)させ、容易く畏敬の念を抱かすほどの厳威(げんい)が漂っている。

鶴岡八幡宮の境内には、同じ中学の生徒たちも数多くきているようだった。途中で2グループくらい同じクラスのヤツらともすれ違ったけれど、ボクたちと一緒にミチコがいるってことに驚き、彼らはみな一様に首を傾げ、不思議そうな顔をしてこっちを見ていた。

ミチコはそのことをなんだか恥ずかしがってたようだけど、メイに、「別に気にする必要なんてない」っていわれると、小さな顔に少しだけ安堵の表情を浮かべた。

八幡宮の参道入口に造営されている三の鳥居を抜ける頃、時刻はちょうど午後3時になろうとしていた。――由比ガ浜の海へと延びる若宮大路を中央で分離するよう築かれた「段葛(だんかずら)」と呼ばれる土の参道を歩きながら、ボクたちは鎌倉駅へと向かう。この参道と、八幡宮の太鼓橋だけは、七五三のとき、ボクがこの地を訪れたすべての年代の記憶に、その風景が残されている。

石積みされた段葛の両側を、植樹された桜の樹々が海のほうまで立ち並ぶ。きっと春には、見事な桜のトンネルがこの参道を包み込むよう、人々が、心で感じる新たな季節の暦(こよみ)を変遷(へんせん)させてくことだろう。

あまりもう時間もなかったので、最後に鎌倉駅から江ノ電に乗り、極楽寺を参拝し、そこでボクたちの、この小さな旅を終えることにしたんだ。――「小さな旅」と、いったって、かなり濃密な一日だったことは間違いないだろう。
さまざまなアクシデントに見舞われながら、みながそれぞれ心に隠し持っていた、そのあまりに深い愁傷(しょうしゅう)の想いをありのままにさらけ出したとき、ボクははじめて知ったんだ。彼らがずっと抱えてきた、心の闇の深遠を。――

けれどメイだけは、いっさいみずからの過去を悲嘆することもなく、ずっとみんなを励まし続けていた。あまりにも彼女の言葉が超然とし過ぎてて、ボクには到底理解できないところもあったけど、なんとなく、普段ずっと閉ざされている彼女の心のなかを、僅(わず)かながらに垣間見ることができたような気がする。

――江ノ電の車内は、帰宅する観光客で混雑しはじめていた。そんな人の波にボクとメイは、ほかのみんなとは分断され、体を寄せ合うようにして、目の前の横座りシートに腰掛けた中年女性たちのひざとひざの間に、みずからの足の置き場所を探していた。ゆっくり走し出すその車中、ボクらにはひと言の会話すらなかった。

肩が触れ合うこの距離で、メイの涼やかな瞳を見つめることなんて、ボクには絶対、不可能なことだ。―― 一瞬、彼女が横目でボクを見つめる、――ボクは、そのくすぐったいような視線のせいで、さらに言葉を失ってゆく。

今回、鎌倉に行こうと思った一番の理由は、この機会に一度、メイとゆっくり話してみたかったからだ。けれど、もしその成果を誰かに問われたならば、お世辞にも目的が果たされたとはいい難い。――

メイにせよ、ミチコにせよ、まぁ田代にしたってそうだけど、いままで彼らの声を、日常のなかではっきり聞いた覚えなど、正直なところほとんどなかった。そう考えれば、中3になってからの半年間で、時折、教室内で耳にしてきた、その何倍もの彼らの言葉を、たった一日で聞くことはできた。――

だからって、ちゃんとみんなと会話が成立したってわけでもない。メイがどう思ってるかわからないけど、たとえばボク自身、いきなり「明日から教室でミチコと仲良く話せるか」っていわれても、まだなんともいえない。いままでみたく、「いっさい話さない」ってわけではないだろうけど、そこまで打ち解けたってわけでもない。

それにきっとメイとも教室内でときどき、ひと言ふた言、ありきたりな挨拶を交わす程度の、いままで通りの感じのままなんだろうな。――田代に関しては、「なんとなく少しは仲良くなったかな」って思うけど、コイツも来月には転校してしまう。だから、きっと今日一日、みんなと一緒にいたからって、明日からのボクらの関係は、ほとんどなにも変わらないんだろうなって思うんだ。――



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.11.30 記事原文】

別にそういうシチュエーションになったからという訳ではないんですが。。。

何故か昨日あたりから妙に聴きたくなった徳永英明氏の「最後の言い訳」。
当時、この曲が聴きたくて5thアルバム『REALIZE』を買いました・・・

この頃の徳永氏の歌声はスゴイですね☆
もともと高音域を活かした楽曲が多い彼ですが、
特にこのセンチメンタルなメロディに切ない想いを込めた「最後の言い訳」。

抑え目なAメロからサビで解き放たれたときの彼には
なにやら情念のようなプラスアルファのパワーを感じます。。。
※特にエンディングのサビのリピートは圧巻☆

・・・しかし・・・あまりにも心が痛くなる曲です・・・





最後の言い訳(Los Angels Mix) - REALIZE最後の言い訳 - 徳永英明 
5thアルバム『REALIZE』 1989年

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【Re-Edit】 Your Song - Elton John 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


Your Song






1983年9月13日(火)

――建長寺の外門を出ると、ボクたちは鎌倉街道を鶴岡八幡宮のほうへとのぼっていった。「巨福呂坂(こぶくろざか)」と呼ばれる、この切通しをしばらく行くと、道はやがて緩(ゆる)やかに下りはじめる。この坂道も午前中に比べれば、だいぶ観光客で賑わい出していた。

「結局さぁ、なんだかんだで結構いい時間になっちゃったわよねぇ」

山々の深緑が、背後のほうへ遠ざかっていくのを眺めながらショウカはつぶやく。
午前中、ボクたちが建長寺を訪れてから、すでに4時間近く経っていた。

隣で田代は制服を脱ぎ、さっきDt中学のヤツらと交戦したとき、できたのであろう肩口に開いた裂け目をぼんやり見つめている。ボクは、右の耳にヘッドフォンを差したままうしろを振り返り、並んで歩くメイとミチコを確かめた。

さっきカセットはオートリバースされ、ヘッドフォンからは、B面一曲目に録音されたエルトン・ジョンの「僕の歌は君の歌(Your Song)」が流れている。この曲のピアノを何度か弾いてみたことがあるけれど、延々、アルペジオ状態で和音コードを弾かねばならない右手のパートが、思いのほかにシンどい曲だ。けれど、その旋律の美しさは、70年代初期のバラードのなかでも群を抜く。とりわけ抑え目に重なるストリングスの音色が、ものすごく心に染み渡る。――

坂道は右のほうへとなだらかにカーブしており、正面には鶴岡八幡宮を囲う樹々の枝葉が生い茂る。今日、すでに二度もDt中のヤツらと喧嘩したせいだろうけど、なんだかこの坂道を歩くのもだんだシンドくなってきた。きっとボクのカラダは、明日には全身アザだらけになってることだろう。

ふと、うしろからミチコが近寄ってきて、田代のずんぐりした背中に声をかける。

「あの、……ワタシ、たぶんお裁縫セット持ってると思うから、あとで縫ってあげる」

田代は、じっと制服の穴を見つめていたが、やがてミチコのほうへ肩越しにつぶやく。

「あっ、ありがとう。……でも、いいよ。ウチに帰ってから自分で縫うから」

「お前さぁ、女の子に縫ってもらったほうがいいに決まってるだろ?」

と、横目で田代を見ながらボクは笑う。

「もし嫌じゃなければ、ワタシ縫うよ」

ミチコにそういわれ、やがて田代は、

「あ、……それじゃぁ、お願いしようかな」

と、照れながらいった。

「とりあえず八幡宮、行ってみようよ」

鎌倉街道沿いの専用駐車場を過ぎて、その先にある小さな鳥居をくぐり、ボクたちは鶴岡八幡宮の裏手側、「裏八幡」の石階段をのぼった。

うっそうとした老木の陰を抜けると、朱色を基調とした雅やかな本宮の社殿が見えてくる。やがて境内に入り、女の子たちは売店を覗きながら、お守りなどのお土産を選びはじめる。ボクは本宮を眺めながら、7年前、おそらく最後にこの場所へきたんであろう七五三のときの記憶を思い出そうとしたけれど、せいぜい、「千歳飴の先をどれだけ細くできるか」を、妹と競い合って舐めてたことくらいしか思い出せなかった。

(いや、――両親たちと『どこかへ出掛けた』という記憶自体、ほとんど思い出すことができない。最後に家族で行った場所って、いったいどこだったんだっけな?)

本宮の正面からうしろを振り返る。大石段のすぐ下に「舞殿」と呼ばれる舞台が建ち、その向こうには広々とした参道が、ずっと赤い鳥居のほうまで延びていた。この参道のもっと先には鎌倉の海がある。

――そのときボクは思い出していたんだ。最後に会った、マレンのお母さんが入院している病院近くの海ではなくて、その前週、彼女と2人でお墓参りに行った帰り、なんとなく江ノ電を降りた七里ガ浜の海岸の風景を。

【もしさぁ、川澄のお母さんが元気になったらね。2人でさぁ。一緒に暮らそうか……】

あの日、ずっと霧雨を降らし続けていた雲間から、ようやくこぼれ落ちてきた7月の太陽が、彼女の髪を夕暮れ色に染めてゆくのを見つめながらボクは、そんな決意の言葉を口にしたんだ。――けれど、その後、親から現実を突きつけられ、ボクの描いた夢物語をさんざん罵られた挙句、自暴自棄になったボクは彼女に別れ話を口走ってしまう。

(その結果、いまのボクに、いったいなにが残ったというのだろうか? たしかにマレンと過ごした日々の記憶は、苦しくなるほど大量に心のなかへ残された。けれど、どれだけ笑顔のマレンを思い出しても、いつだって最後には、失意に震えた彼女の瞳を思い出してしまう。――ボクを見つめるその大きな瞳から、静かに溢れ落ちていった透明な涙を思い出してしまう。――その涙の色を忘れようとボクはまた、笑顔のマレンが映し出される光景を必死になって思い出そうとする。――そんなことばかりが、ただ毎日、ひたすらに繰り返されてゆく)

もう潮の香りなんてほとんど感じられない鎌倉の風が心に吹き込んできて、どれだけ閉じようとしてみても、マレンの泣き顔が残されたページばかりを「パラパラ」と、勝手にめくり続けてくんだ。――いや、違うな。この風のせいじゃない。――そんなの最近、いつものことじゃんか。




【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.17 記事原文】

エルトン・ジョンの代表曲の「Your Song」
1970年つうことは、ボクが2歳の時の曲か?
ん?42年前ってことかぁ?
いやいや。。。

歌詞も素晴らしいが、この当時のバラードの中で
何よりもピアノやアコギ、そしてストリングスのアレンジが際立って良い。
紛れもないバラードの傑作である。






Your Song - Elton John
Your Song - エルトン・ジョン
2ndアルバム『Elton John』 1970年


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【Re-Edit】 白線流し(サウンドトラックより) - 岩代太郎 【インストルメンタルな名曲】

【Re-Edit】【インストルメンタルな名曲】


白線流し(サウンドトラックより)






1983年9月13日(火)


「テメェ!」

さっき押し倒された飯島ってヤツが、怒りをあらわに起き上がるとそう叫び、正面から田代に躍(おど)りかかった。――Dt中の何人かの生徒たちが田代の制服を四方から引っ張っている。――ボクは一番手前にいたヤツの襟足をおもいきり鷲づかんだ。――が、両側から誰かに肩口を押さえつけられると、掴んだままのソイツの髪の毛を数本引きちぎりながら、うしろ向きに土の上へと引き倒されてしまう。

(あーぁ、ヤベェなぁ)

ひたすら、ひじであたまを抱え込むボクは、3人の男どもから、わき腹や胸元を蹴られたり踏みつけられたりしていた。――一度地面に倒されてしまえば、もはやどうすることもできやしない。起き上がるチャンスなんてものは、ほとんど与えてもらえやしない。

(朝、田代のことを殴ったせいで、まだ右手首が痛くってまったく使えねぇしなぁ)
そんなことを考えながら、ボクはじっとあたまを抱え、断続的に繰り返される衝撃に耐え続けていた。

そのときだ。――
地面に仰向けになったまま、田代の大きな叫び声をたしかにボクは聞いたんだ。――おもわず、声するほうを振り返る。――田代は飯島ってヤツと組み合って、何人かの不良どもを背中に抱えながらも、その視線だけは、しっかりとミチコのほうへ向けられていた。

「小山さん!」

田代は何度もミチコに叫ぶ。

「小山さん! ボクだって変われたんだ! ボクにだってやれるんだ!」

飯島が、よそ見をしている田代の大きな顔面を正面からフック気味に殴り飛ばす。

「――小山さん! ボクにだって、やろうとおもえばできるんだよ!」

殴られても、田代は決して言葉を失わなかった。――彼はただ、何度も繰り返し、ミチコだけに叫び続けている。

「――だからキミにだって、絶対できる。――絶対キミだって変われるんだ!」

「ギャーギャーうるせぇ、テメエはよぉ!」

そう声を荒げた飯島の右目尻に、田代は振り向きざま「おもいきりお辞儀をするように」、その重たいあたまを振り下ろした。ここから見ていても、その衝撃の凄まじさは十分にわかるほどだった。一瞬、力の抜けた飯島の眉間(みけん)に、ふたたび田代の巨大なあたまが、反動をつけて打ち込まれる。――

それを見て、背中に纏(まと)わりついていた不良たちも、一斉に彼の体から離れて数歩、距離を置く。田代はふたたび、うしろを振り返るとミチコに叫んだ。

「――自分で自分のことをちゃんとわかってるヤツなんて誰もいないんだ! 誰かに教えられなきゃ、誰も本当の自分になんて気づかないんだよ。――だからもし、それを教えてくれる人に出会えたならば」

あらん限りの大声を振り絞り、田代は、鎌倉の澄んだ青空へと言葉を解き放つ。

「――絶対にキミだって変われるんだよ!」

ボクは土の上に寝転びながら、ぼんやりミチコのほうへ目を向けた。ひざの上にランチボックスを抱えたまま田代を見つめているミチコのつぶらな瞳は、ただただ湧きあがる涙によって満たされている。――


ずっと夏空を支配し続けていた太平洋高気圧が弱まり、朝晩は、めっきり秋めいてしまったけれど、まだ昼間のあいだはほんの少しだけ、夏の名残りが陽射しに溶け込む。ボクはレジャーシートの上で仰向けになったまま、なんとなく、そんな霧状に白ずんだ晩夏の残照を浴びている。――

「もし、オレらがヤバそになったら大声で叫んでくれ。――『この子は、李ケンイチの妹よ』って」――

さっき、Dt中学の連中とヤり合う直前、ボクはそう、ショウカに告げていたんだ。メイの2学年上の兄貴である李ケンイチこと、通称「リケン」。――この界隈の誰もが恐れる彼の名前を出す以外、もはや収集がつかないだろうと思ってた。もしそれでダメなら仕方ないな。って、……

「さすがに、メイのお兄さんって、そっちの人たちのあいだじゃぁ超有名人なんだね。さっきの人たち、みんな本気でビックリしてたじゃん」

ショウカが嬉しそうにそういうと、メイはなにもいわずに、うっすら微笑む。
ミチコの隣に座ってる田代が、はたしてどの程度アイツらに殴られたのかまではわからなかったが、「パッ」と見たところ、多少、赤いミミズ腫れや擦り傷が、その大きな顔のなかに数ヶ所残されてるくらいで、あとは大した外傷もなさそうだ。

ボクはといえば、さんざん上から踏みつけられ、そのあいだじゅう、ずっと腹筋や上腕などに力を入れ続けていたせいで、それが打撲の痛みなのか、筋肉痛なのか、まったくわからないような鈍痛が、カラダの至るところで、「ジンジン」と疼(うず)いている。

「でもさぁ、まぁ結果は別にして、Dt中のヤツらと喧嘩しちゃうんだからさぁ。すごくカッコよかったよ! やっぱ2人とも男だよねぇ」

なんだかショウカは、ずっと嬉しそうだった。

「――シーナ君、大丈夫?」

ミチコが、レジャーシートに寝転ぶボクの顔を覗き込むようにしながらそう訊ねる。

「まぁ、大丈夫なんだけどね、オレは田代ほど頑丈じゃねぇからなぁ」

ボクは無理やり笑みをつくって、ミチコの小さな顔の向こうに広がる空の色へとつぶやいた。
そして、押し黙ったままの田代を見上げ、うっすら言葉を吐き出していく。

「お前、なにかいいたいことあるんなら、……ちゃんと自分でいえよ。小山さんにさぁ」

ボクは、さっき彼がいっていた小学校時代のサドル事件の話を、ちゃんと本人の前でいうべきだろうと思った。けれど、田代はそのことについてはあまり触れたくないみたいだった。だから、ボクもそれ以上、なにもいわなかった。

やがて田代は、違う話を重たい口調で語りはじめる。

「小山さん、――ボクね、来月、転校するんだ」

「えっ、そうなの?」

と、ミチコではなくショウカが代わりに驚きの声をあげる。ミチコは、「ハッ」とし、田代を見つめた。

「もし、今日こうしてみんなと一緒にいなかったら、――それに、さっき小山さんとも会わなかったならば、きっとこんなこと、キミにいわないままで転校しちゃったんだと思うけど、――小山さんには諦めないで欲しいんだ。『自分なんてこんなもんだ』って、勝手に自分で決めつけないで欲しい」

そんな田代の言葉にミチコは、しばらくなにもいわなかったけど、やがて小さな唇を静かに動かした。

「ありがとう、……でもワタシ、もう、いろいろ慣らされてしまってきたからね、だから、なにをされても、なにをいわれても大丈夫。だから心配しないで。――さっき、林さんも、田代君もいってくれてたけど、『ワタシが変わる』ことに意味なんてないの。今日、こうしてみんなと一緒にいれたってことだけで、ホントにそれだけでワタシは十分嬉しいんだから」

するとボクの右隣にいたメイが、柔らかなトーンでささやく。

「さっき、田代君が殴られながらいってた言葉、ミチコにも聞こえてたでしょ? 『誰かに教えられなきゃ、誰も本当の自分になんて気づかない』――たしかにそうなんだと思う。ワタシたちの心のなかにはいろんな自分が居過ぎてて、『どれが本当の自分なのか』なんて、ワタシたち自身にはわからない。『自分のことは自分が一番よくわかってる』って、いう人もいるけど、それは単に『普段、心のなかに隠してる別の顔が、自分のなかにどれだけあるのか』ってことを、ただ知ってるだけ。そのなかのどれが本当の自分なのかをわかってるわけじゃない。それを教えてくれるのはね、……その人の心のなかのほうまで、ちゃんと見ようとしてくれる誰かだけ」

メイは、細めた視線をゆっくりミチコへ向ける。

「アナタ自身は、自分がどういう人間だと思ってるの? みんなからヒドいことをされ続けられるような人間だと思ってる? そうされることが当たり前だと思ってるの? もしミチコが本当にそう思っているのなら、ワタシが間違ってたってことになる。ワタシは、アナタが誰かに嫌われるような、そんな子だとは思わない」

ミチコはうつむき、ひざの上へ「ポツポツ」と、言葉をこぼした。

「だったら、……なんでワタシはずっと、みんなから嫌われてきたのかな? なにも理由がないならば、なんでワタシはイジメられてきたの?」

「そもそもイジメられることに理由なんてものはないの。もしあるとすれば、イジメる側の理由。――ただそれだけ。……シーナ君は違うけれど、ワタシを含む、ここにいるほかの4人は、それぞれの些細な理由によって、幼い頃から、そういう辛い思いを心のなかに受け入れ続けきた。けれどそんな理由にしたって結局は曖昧なもの。――人は誰に教わるわけでもなく、小さな頃から残酷な感情をすでに持っている。つまり人は、生まれたときから、わがままで残酷な生き物なんだってこと。――強いていうなら、それがイジメる側の理由」

メイは、静かな口調でそうささやく。

「じゃぁ、……なおさらワタシになんて、どうすることもできないよ、……」

と、ミチコは、儚(はかな)げに口ごもる。――メイはその声を瞬く間に否定した。

「いえ、――ミチコのために誰かと戦ってくれる人が、この世にひとりでもいたってことに気づけただけで、――たったそれだけのことでも、アナタにとってはいままでと、なにもかもが違うはず。もし、そういう人が誰ひとり、いままでまわりにいなかったとするなら、なおさらのこと。……シーナ君にせよ、田代君にせよ、さっきはミチコのためだけに戦っていたのよ。それがなぜだかわかる?」

ミチコは顔を上げ、メイを見つめた。ボクにもメイがいおうとしているその答えがわからなかった。メイは口元に穏やかな笑みを浮かべ、そして優しく言葉をつむぐ。

「田代君はね、すでにもう、ずっと前から『本当のアナタ』がどんな子なのか、ってことに気づいていたから。――そしてシーナ君はね、……いずれはそのことに気づける人だったから」

まるでドングリのようにつぶらな瞳で、ミチコはメイを見つめ続けている。――メイは、静かに言葉をささやき続ける。

「それからね、……なにより2人とも、本当に優しい人たちだったから。――そんな小さな優しさがひとつ生まれるとね、だんだん大きくなって、やがて自然とアナタのことを変えていってくれる。ううん、……アナタ自身も変わっていくけれど、アナタのまわりの風景が、そういう小さないくつもの優しさによって知らず知らずに変えられていくんだと思う。どれだけ残酷な現実であろうとも、優しさにだけは絶対に敵わないもの。……そして、アナタはその優しさを得ることができたんだと思うの」

「ワタシが、……優しさを得ることができた?」

ミチコは、レジャーシートで仰向けになっているボクのほうへと、まず視線を落とし、そして隣に座る田代の横顔へと目を向けた。メイはそんなミチコを優しげに見つめたままでいう。

「――ワタシやショウカはね、それを得ることができなかった。――ワタシたちは、そんな優しさを得る前に、歪んだ別の力によって守られてしまったから。――だから、ワタシたちの心は、小学校のときからずっと変わることができないままなの。……だから『本当の自分』を、いまだにワタシやショウカは知らないままなの。……けれどミチコは違う。アナタは、そうしたいくつもの優しさによって、いずれ『本当の自分』に気づくことになると思うの。たぶんね」

きっと、ボクにもミチコにも、メイがいった言葉の意味など、あまりよくわかってなかったんだろうと思う。そんな実感などまだ、はっきり得られることなどできなかったんだ。――そう、このときはまだ。――

ふと、ショウカがつぶやいた。

「アタシの台湾のおじいちゃんがね、むかし、いってたんだ。『男がこの世に生まれてきた理由はただひとつ、命を賭けてあらゆるものから、か弱き女性を守るため』って、……それって、『なんだか女性蔑視じゃん』とか、『それって戦争中の話でしょ』って、ずっとバカにしてたけどね、でもさぁ、いわれてみればその言葉ってなんとなく、すごいカッコいい気がするよね。――さっき2人がアイツらと戦ってたときってさぁ、ミチコのことを必死になって守ろうとしてるようにしか見えなかったもん。――うん、……あれは絶対、アタシやメイのことを守ってるんじゃなかったわよねぇ。田代君なんか、特に、ね」

ショウカにそういわれ、田代は、岩のような顔のなかに少しだけ恥ずかしそうな表情を浮かべた。

(男がこの世に生まれてきた理由、――)

しばらくは、そんなショウカの言葉がなんとなく、こころのなかで響いてた。

たしかに、ボクはさっき思ってたんだ。

(これ以上、ミチコから小さな喜びを奪うな)

って、――それが、メイのいう優しさなのかどうかはわからない。けれど、あのときのボクには、それ以外の感情なんてものはなかったような気がする。まぁ「命を賭けた」ってほどではないけれど、それなりにカラダを張ったのは確かだろう。

それにもし、力強い確信に満ち溢れたさっきのメイの言葉が正しいとするならば、ボク自身が気づいてないだけで、「小山ミチコの心のなかまで、ちゃんと見ることのができる優しさを持っていたから、彼女のことを守ろうとし、さっきDt中のヤツらと殴り合った」ってことになる。

ボクにはあまり実感などないけれど、きっとメイのいう言葉に、間違いなんてないんだろうなって、なんとなく思える。いつだって深い哀しみ色を宿している彼女の瞳は、これまでいろんな人からさんざん裏切られ、人間がひた隠しながら心に備え持つ残酷な側面ばかりをずっと見つめ続けてきたような、――なんだかそんな気がするんだ。そして、そんな彼女自身、幼い頃からずっと誰かの優しさに焦がれ続けてきたんだろうなって思うんだ。

――ボクはレジャーシートから上体を起こすと、つぶらな瞳に涙を潤ますミチコのほうへ笑いかけた。

「そういえば、いい忘れる前に、ちゃんといっとかなきゃね。――『御馳走さま、お弁当、美味しかったです』ってさぁ、小山さんのお母さんに伝えといて。――」

黙ったままでボクの目を見つめ返したミチコは、ただ一度だけ、「コクッ」っと小さく頷く。――そして、口元に微(かす)かな笑みを浮かべた。

ボクは、ゆっくりメイのほうへと視線を向ける。――メイは秋色に揺らめく鎌倉の風のなか、その身に纏(まと)う、冷たいほどのせつなさを、少しづつ溶かしていきながらボクを見つめて微笑んでいた。






【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】




【2012.05.02 記事原文】

まぁ。
当然ながら、いくつか名作と言われているドラマは御座いましょう。

ちなみに・・・
ボクが名作だなぁ~と思うドラマって、決まって設定が「冬」だったりする。
※「BEACH BOYS」は別物ですが・・・

ドラマや映画の場合、ストーリーに寄り添うBGMの果たす役割は実に大きい。
もし音楽がダメだと、シーンそのものの世界観が壊れてしまうからだ。


そんな中で最も印象に残っているドラマが『白線流し』。。。


丁寧に作りこまれた脚本も無論良いのだが、何よりも松本市を舞台とした
冬独特の「静けさ」や「空気感」が見事に演出されていたからであろう。

また、主題歌であるスピッツの「空も飛べるはず」もさることながら、
ドラマ音楽を担当した岩代太郎氏の、繊細な風景描写をそのまま
音にしたかのようなBGMがものすごく秀逸だった。


そんなドラマ「白線流し」で挿入されたBGMが2(3か?)曲セットになっている
お得なパッケージを見つけました☆

どちらの曲も、ドラマ内で多く描かれた「冬の夜のシーン」を
思い起こさせる名曲だと思います。


白線流し(オリジナルサウンドトラックより) - 岩代太郎




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Year Of The Cat






1983年9月13日(火)

「……ワタシ、さっきは本当に嬉しかったんだ」

そういって田代のほうへと視線を移し、口元に喜びを湛(たた)えたままで、彼女は嬉しそうにささやいた。

「山門でね、田代君がワタシの名前を呼んでくれたから。――」

田代は割り箸を持ったまま、ずっとミチコの小さな顔を見つめ続けていた。


「ワタシもこんなに食べきれないから、シーナ君も食べない?」

ふいに、白いプラスティックで編み込まれたサンドイッチケースをボクのほうへ向け、斜め前からメイが訊ねる。

「あっ、じゃぁ」

ハムと卵が入った長方形のサンドイッチをひとつ手に取り、ボクは、それを一気に口のなかへと押し込む。

「そんなに慌てなくてもいいのに」

ほおばるボクを見つめて、穏やかにメイは笑った。

――うっとしくなるような奇声を時折、山中に響かせて、大騒ぎしながら石階段をのぼってくる複数の若い男の声が下のほうから聞こえてくる。ショウカは顔をしかめて立ち上がると、石塀の向こう側、声するほうを見下ろした。

「あっ、どうしよう! さっきの連中があがってくるよ!」

振り返ったショウカが、おもわず大声でボクらに叫ぶ。ゆっくりボクも立ち上がり、彼女の隣で長い階段の先を見つめる。たしかに今朝、円覚寺を出たあと、駐車場で殴り合った不良学生たちが、こっちに向かって石段をのぼってきていた。

しかも、あのときはまだ5人だったが、どうやら途中でほかのヤツらも合流したらしく、いまでは10人程度にその人数は増えてるみたいだ。

そのうちの2人、――ボクに滅多打ちを食らった坊主あたまと、田代が鼻っ面に頭突きを叩き込んだ男子学生は、もはや原形をとどめぬほどに大きく顔を変形させている。

「あっ! おい! ほら、あそこに『サウス』の野郎がいるぞ」――おそらくは今朝いた5人のうちの誰かが、石塀から彼らを見下ろすボクの姿に気づいたらしく、いきなり大声を張りあげた。

ボクはうしろを振り返り、なんとなく座ったままの田代の顔に目を向ける。

「どうするの? シーナ君」

隣でショウカが不安そうに声を漏らす。

「どうするもこうするもねぇだろうな。こういう場合って」

やがて、その不良連中は、半僧坊の境内へ上がってくるなり、ボクらが陣取るレジャーシートのまわりを「グルッ」と列をなして取り囲んだ。怯えるミチコのほうへ、メイはうっすら細めた視線を送る。田代はうつむき、ひざのうえに置かれた弁当箱ばかり見つめている。ボクはたじろぐショウカの隣で石塀に寄りかかって腕を組み、その連中たちを睨みつけていた。

茶髪をチックみたいなもので固めた一番体格のいい男子生徒が、ボクのほうへと鋭い視線を向けながら荒っぽい言葉を投げ放つ。

「オメェよぉ、『サウス』のメンバーらしいな。オレ、Dt中の飯島ってんだけど、ウチの後藤、――名前くれえは知ってんだろ? 後藤たちとな、ちょうど、オメェらをシめに行こうと思ってたとこなんだよ」

(後藤? あぁ、Dt中の番長ってヤツか、――)

Dt中学、――ボクたちの地元では、やたらと不良が多いことで、湘南界隈にその名が知れ渡っている学校だ。

「お前ら、Dt中のヤツら?」

ボクがそうつぶやくと、

「なに余裕かましてんだ、テメエはよぉ! 女と仲良くメシなんて食ってる場合じゃねぇんだよ! コラ」

今朝、駐車場で揉(も)めた男のひとりが怒鳴り声をあげる。そしてレジャーシートの手前に座り込むと、ランチボックスを抱えて震えるミチコの顔を覗き込んだ。すると、ソイツは「ニヤリ」と笑い、

「おっ! ここにもひとりいるじゃん。Rs小の『ゴミ女』だろ? お前ってさ。おぉ、すげぇな! なんだか有名人だらけじゃん」

と、ミチコの横顔にあざけりの言葉を吐きかけた。
ミチコはじっとうつむいたまま、両手でしっかりランチボックスを握り締めていた。彼女の細い肩の周辺には、教室で時折見かける溜め息色の失望感が、ほんのり浮かびあがっている。

メイは鋭い眼差しを、その男のほうへと向ける。――彼女も、どことなくいつものメイではない。この状況にも一向に動じる気配を見せず、よりいっそう氷のような冷酷さを体全体に浮かびあがらせている。――ボクは、隣で小さな体を強(こわ)ばらせるショウカの耳元にささやいた。

コイツらにはもう、『サウス』とか『ホワイト・クラッシュ』という程度のハッタリじゃあ、まったく効果はないってことだろう。だから、もし本当にヤバそうになったときは、『ある言葉』を大声で叫ぶように、――と彼女へ伝えたんだ。ショウカは一瞬考えたあと、ボクを見つめて小さく頷く。

「後藤」とかっていう、Dt中学現役番長の名前を聞いた途端、やたらと戦闘意欲を満ち溢れさせはじめた、こんな連中とヤり合ってみたところで絶対勝てやしないのはわかりきっている。――だけど、ボクは思い出したんだ。さっき田代がいってた言葉を、――

【彼女を守ってあげれるのはもう、ウチの学校で、……お前だけしかいないんだよ】

さっきまでは、普段、教室で一度も見せたことのないような笑顔をミチコは口元に浮かべてたんだ。メイも、ショウカも、そんなミチコのことを、なんとなく受け入れはじめてたんだ。――

コイツらがここにくるまでは。――そうやってほんの少し心のなかで膨らんだ、風船にも似た小さな喜びを、いつだって必ず誰かが無理やり萎(しぼ)ませていく。理由はよくわからないけど、きっとミチコはそうやって、小学校のときから、ずっといろんなヤツらに心を萎(しぼ)まされ続けてきたのだろう。

別に、彼女を守る義理なんてものはボクには最初からありゃしない。だけど、なんで彼女が安らげる時間や空間ばかりを、どいつもこいつも奪っていこうとしやがるんだ。彼女がいったいお前らになにをした? これ以上、彼女からなにかを奪っていこうってんならよぉ、義理も理由もそんなもん関係ねぇ。お前ら全員、ボクが、――

突然、田代が立ち上がり、ミチコの脇にしゃがみ込んでニヤけてる男の鼻先を、正面から両手で「掌底(しょうてい)打ち」のように突っ張り、押し倒す。そして制服の肩越しに横目でうしろを振り返り、震える声でボクに訊ねた。

「本当なんだよな、――シーナ、さっきの言葉、……」

(さっきの言葉? あぁ、――『もし本気でヤったら、オレなんかよりぜんぜん強い』って話か?)

ボクは田代を真剣な瞳で見つめ返し、頷き、そしてつぶやいた。

「あぁ、間違いねぇよ。オレなんかよりも、ぜんぜん、……」

その言葉を背中で聞くや、躊躇(ちゅうちょ)なく田代は、鼻を押さえて倒れ込む男子生徒の胃袋のあたりを踏み台にし、うしろで腕組む飯島ってヤツ目がけて駆け出すと、おもいっきりその分厚い胸板を突き飛ばす。――上背のある飯島だったが、ポケットに両手を突っ込み、ぼんやり突っ立てた2人の不良学生ともども「富士見台」があるほうへ折り重なって、ひっくり返った。

その瞬間、ボクはレジャーシートに座ってるメイとミチコのあいだを飛び越え、すぐ手前にいた男子生徒の爪先を、かかとで上から踏み潰す。そのまま下腹部に右ひざを深々と突き刺した。――前のめりになったソイツのうしろ襟を引っつかみ、地面にあたまから引き倒すと、その背後に隠れてた、今朝、駐車場でヤり合ったばかりの坊主あたまと、ふたたび視線を交わした。

「久しぶり!」

と、叫ぶなり、ボクは正面から頭突きを食らわす。――坊主あたまが鼻を押さえるとほぼ同時、――すぐ隣に立っていた男子学生の右ひざを外側から、かかとでおもいきり蹴りつけ、「くの字」にかがんだソイツの顔面をさらに右足の甲で蹴りあげる。――そこで一呼吸入れた。

(あと7人、――か)

「テメェ!」

さっき押し倒された飯島ってヤツが起き上がり、そう叫ぶと正面から田代に躍(おど)りかかった。――Dt中の何人かの生徒たちが田代の制服を四方から引っ張っている。――ボクは一番手前にいたヤツの襟足をおもいきり鷲づかんだ。――が、両側から誰かに肩口を押さえつけられると、掴んだままのソイツの髪の毛を数本引きちぎりながら、うしろ向きに土の上へと引き倒されてしまう。

(あーぁ、ヤベェなぁ)

ひたすら両ひじであたまを抱え込むボクは、3人の男どもから、わき腹や胸元を蹴られたり踏みつけられたりしていた。一度地面に倒されてしまえば、もはやどうすることもできない。ほとんど起き上がるチャンスなんてものは与えてもらえやしない。



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.20 記事原文】

名曲の定義は個々さまざまであろう。


しかし、大別すれば2種類。
聴いた瞬間に感動をもたらす「即効性」のある名曲。



そして聴き終わった後、
しばらく頭からフレーズやメロディが離れなくなる「持続型」の名曲。


アル・スチュワートの「Year Of The Cat」は、
間違いなく後者に該当する名曲である。


儚くも力強いピアノのイントロは、
今もなお、ボクの心の中に留まり続けている。


※テンポは違うが、ピアノ・イントロの感じは、
サカナクションの「ネイティブ・ダンサー」っぽい。

サカナクションは、最近の邦楽アーティストのなかでは、
音楽を良く知っているなぁと感じた…余談ですが。。。






Year of the Cat - Year of the CatYear Of The Cat - アル・スチュワート
7thアルバム『Year Of The Cat』 1976年
アルバムお薦め度「持っていても良いでしょう」


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Myself~風になりたい - 徳永英明 【バラードの名曲】

【邦楽バラードの名曲】


Myself~風になりたい






1983年9月13日(火)

「――しばらくして、学校でメチャクチャにされた彼女の自転車が見つかった。でも、結局、犯人は見つからなかったんだ。それどころか『小山さんが自分で自転車を壊した』ってことにされてしまっていた。――クラスのみんなは、犯人が誰かなんてこと、とっくにわかってたけど、誰もそのことを先生にいわなかった。そしたら、それから数日後、――ボクの机の下に、自転車のサドルが置かれてたんだ」

うつむく田代の大きな顔を、ボクは黙って見つめていた。

「ほら、ちょっと早く! 2人とも! もう置いてくよ!」

遠くからショウカの甲高い声が聞こえてくる。――けれど、まるっきりそんな彼女の声が聞こえなかったかのようにして田代は、おそらく小学校の頃からずっと心に押し留め続けてきた後悔の言葉を、ただ、ひたすら吐き出していった。

「――ボクは、慌ててそのサドルを学生カバンに押し込んで、廊下のロッカーのなかへ隠した。『ボクが犯人にされる』と思って、怖くなって、ついそれを隠してしまった。――そのとき何度も先生にいおうとしたんだ。本当の犯人の名前を、――でも、どうしてもいえなかった。その日の学校帰り、彼女のサドルをどこかに捨てようとも思ったけれど、誰かにその現場を見られるのが怖くって、それを家に持って帰って、庭にあった物置の奥のほうへ隠してしまった」

「仕方ねぇよ。お前がそうした気持ちは、オレにもなんとなくわかる」

ボクは、静かにそうつぶやく。――ふと見ると、田代は大きな肩を微(かす)かに震わせていた。

「ボクならば、あのとき小山さんを助けられたはずだったんだ。……もし、犯人の名前を、勇気を出して先生にいってたとすれば、――そのサドルを持って、ちゃんと先生に話をしたのであれば、少なくとも小山さんが『自分で壊した』なんて犯人扱いされることもなかった。――けれど怖かった。サドルを隠してしまったことで、ボクも犯人のひとりになってしまったかもしれないという事実が、ものすごく怖かったんだ。――そしてなにより、……小山さんの悲しみを一番わかってたはずなのに、彼女のことを見放してしまった自分自身のことが、ものすごく嫌になった。どうしようもないヤツだって思ったんだよ」

ボクは、田代の大きな背中を軽く叩くと、横顔に小声でささやいた。
「はぁ? 『どうしようもないヤツ』? どこがだよ! いいヤツなんだな。――お前って、――」

――建長寺の半僧坊まで戻ってくると、そこにはまだ、それほど観光客の姿はなかった。なぜか田代がレジャーシートを持ってきてたので、ボクたちは、長い石階段を挟んでベンチが置かれた休憩所とは逆の平場にそれを広げ、お弁当を食べることにしたんだ。

「お坊さんとかに怒られないかな?」

ミチコが、小さな声でそういうと、

「まぁ、そんときはみんなで謝ればいいんじゃない?」

と、ショウカが笑った。メイは、半僧坊の本殿のほうを見つめ、

「そういえば、ワタシたち、まだちゃんとお参りしてないね」

と、つぶやく。

「それじゃぁ、食べる前にお参りしとこう」

と、いって、すぐさまショウカは立ち上がる。ボクたちも彼女の背中に続いた。――

おのおの小銭を投げ込むと、5人並んで賽銭箱の前に立ち、そして静かに手を合わせる。目を閉じてみれば、この場所の静けさをさらに実感することができた。――鳥のさえずり、虫の鳴き声、無限の枝葉をざわめかす風の音、――そうしたなんら雑味のない自然界の音色がもたらす静寂だけが、ただこの場所には響き渡っている。

ボクが目を開けたときには、すでにショウカはレジャーシートに向かって歩き出していた。まだ願い事をし続けている田代とメイ、そしてミチコのうしろ姿を見つめながら、ボクは心のなかでつぶやいた。

(どうか、みんなの願いを叶えてやってください)

って、――

どうやら、奥のほうに「富士見台」と、いう小さな見晴らし台があったので、時折、そこを訪れる参拝客やハイカーたちが「チラチラ」視線を送ってきたけれど、特にボクらは気にもせず、その場でお弁当を広げ続けていた。ショウカは手書きの予定表を眺めながら、爪楊枝でミチコの弁当箱のなかからウインナーを一本拾いあげる。

「どうしようか? この予定通りだとさぁ、建長寺を出たあとは鶴岡八幡宮に行って、それから江ノ電乗って、極楽寺を見て終わりなんだけどね。まぁ、さっき2つお寺に行きそびれちゃったんだけどねぇ」

そういってウインナーをかじるショウカに、メイは静かに笑いかける。

「浄智寺くらいなら少し北鎌倉のほうへ戻れば行けるんでしょ? いずれにしてもこのお寺に、だいぶ長居し過ぎてるような気もするけどね。……でもワタシ、このお寺、好きだな」

ミチコに手渡されたおにぎりを一口かじり、

「まぁ、予定なんてもんはさぁ、もう別に気にしなくてもいいんじゃん。たぶん、オレの記憶だと、建長寺より面白いと思った場所なんて、ほとんどない気がするしね」

と、いってボクは笑った。そして、ひざのうえに置かれた色身の薄いおかずが乗った弁当のほうばかりを見ている田代に向かって、笑ったままでつぶやく。

「お前もさぁ、もらえばいいじゃん。 小山さんのお弁当。美味しいよ」

田代は顔をあげ、ミチコのほうへ目を向けた。

「もしよければ田代君も、いっぱい食べてね」

色とりどりの惣菜が詰め込まれた大きなランチボックスを差し出し微笑むミチコにそういわれ、

「あぁ、……ありがとう」

小さくつぶやくと田代はランチボックスから、から揚げをつまみあげた。ふいに、ショウカが言葉を滑らす。

「でもさぁ、ミチコのお母さんも、ずいぶんとおかずを作ったわよねぇ。もしアタシたちと会わなかったら、ミチコひとりじゃ、こんなに食べきれっこないのにねぇ」

なんらかの悪意があったわけでもないだろうが、誰も、そんなショウカの話題を広げることなどできなかった。ミチコは微笑み、小さな声でショウカへささやく。

「そうね。食べきれるわけなんてないのにね」

すると、大きな瞳を曇らせながらショウカは慌てて弁解しはじめた。

「あっ、違うよ! 別に変な意味でいったんじゃないんだからね」

「わかってる。でも、それは本当のことだから。もし、今日、建長寺でみんなと会わなかったとしたら、ワタシ、ひとりでお弁当を全部食べることなんてできなかったんだし。――だからね、本当によかったって思ってるの」

ミチコは、静かな微笑みをショウカへ向ける。

「……ワタシ、さっきは本当に嬉しかったんだ」

そういって田代のほうへと視線を移し、口元に喜びを湛(たた)えたままで、彼女は嬉しそうにささやいた。

「山門でね、田代君がワタシの名前を呼んでくれたから。――」

田代は割り箸を持ったまま、ずっとミチコの小さな顔を見つめ続けていた。




【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】






Myself~風になりたい - 徳永英明 
5thアルバム『REALIZE』 1989年

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【Re-Edit】 Company - Rickie Lee Jones 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】

Company





I selected "Company"
from 1st album "Rickie Lee Jones"
of Rickie Lee Jones released in 1979.



1983年9月13日(火)

遠くにくゆる鎌倉の海の蒼さを見てるうち、なんとなく、以前どこかで同じ景色を見たことある気がしてきたんだ。

(そうか、……マレンと一緒にお墓参りに行った寺からの風景に、なんとなく似てるのかもしれないな)

ボクは、ふと2ヶ月くらい前、マレンと、母方のご先祖さまのお墓参りに行った山寺の風景を思い出す。――あの日、小雨があがったあと、僅(わず)かに見えた鎌倉の海は、曇り空の色を水面(みなも)に満たし、真夏の風に吹かれ、やんわり揺らいでいた。

(マレンと最後に別れたあの海が、いまもこうして遠くのほうで揺らいでいる。本当はこんな景色なんてまだ見たくなかった。じゃぁ、なんで今日、ボクは鎌倉になんてきてしまったんだろう? それは、……きっと李メイがいたからだ。メイと一度、ちゃんと話してみたかっただけなんだろう。――『好き』とかって感覚とは、どこか違うような気もする。けれど、彼女が常にその身に纏わす、決して何事にも動じることのない憂いを秘めた氷の如き冷淡さに、間違いなくボクは惹かれているのだ)

南からの海風に、茶色い髪を肩先でそよがせるメイの横顔をボクは見つめた。その視線に気づいたからかもしれないけど、メイもボクのほうを静かに振り返る。少しだけ目を細めた彼女の涼やかな瞳の色を、ボクはしばらく見つめ続けていた。――

きっともう昼の12時くらいなんだろうか? 急に気温があがったように感じられる。けれど、逆に朝よりも湿度はだいぶ下がったみたいだ。

「なんだかさぁ、お腹空いてきちゃったね」

ボクたちが、十王岩から鎌倉の街並みを眺めていると、突然、林ショウカがそういって笑い、横に並んだみんなのほうへ訊ねてきた。

「あのさぁ、みんな、お弁当持ってきてる?」

「ワタシは持ってきたけど」

メイはそうつぶやき、ミチコの小さな顔を横目で見つめた。

「ワタシも、……持ってきた」

と、つぶらな瞳を伏せたミチコが恥ずかしそうに答える。

「シーナ君たちは?」

乾いた風に、長い黒髪をうしろから巻きあげられて、ショウカがボクと田代のほうへ横髪を押さえながら訊いてくる。

「ボクは持ってきた」

そう答える田代の言葉と半分重なるようにして、ボクは「持ってきてないよ」って、つぶやいた。ショウカは可愛らしいえくぼを浮かべて微笑む。

「なんだぁ! じゃぁ、お弁当持ってきてないのって、アタシとシーナ君だけじゃん!」

するとミチコが、その小さな唇をそっと動かす。

「あの、――実はお母さんがね、『男の子たちも一緒にいるのなら、みんなにも食べてもらいなさい』って、いってね、ワタシ、おかずとか一杯作ってもらってきたんで、もしよかったら、――」

と、いって、上目遣いにボクのほうを見つめた。

(あぁ、きっとミチコのお母さんは知らないんだ。彼女が『学校でみんなから嫌われてる』ってことを)

「ありがとう。じゃぁ、……オレ、もらおうかな」

ボクがそういうと、ミチコの瞳にほんのりと喜びの色が灯されたような気がした。

「じゃぁ、アタシもご馳走になろうっと」

そういって、ショウカはミチコに笑いかけた。

――ボクたちは建長寺へと戻りはじめていた。もしこのままハイキングルートを辿っていったとしても、おそらく山中を2時間は、さ迷うことになるだろう。だから十王岩の展望台で、「天狗の像がいた、さっきの休憩所でお弁当を食べよう」と、ショウカがいったとき、ボクらは黙ってそれに従ったんだ。

ふたたび深緑の杜のなかを歩きながら、ボクは田代につぶやいた。

「さっきの話、――オレが小山さんを守るだのどうこうって話だけどな。オレがこないだ谷川たちのことをシめたのは、別に小山さんが可哀相だと思ったからだけじゃねぇんだよ。たしかにそれもあったけど、イラついてたんだ。あの日はなんだかな。――それに、もし小山さんのことをアイツらから守りたいんなら、お前が谷川たちをヤっちまえばいいじゃん」

「ボクが?」

と、田代は一瞬、驚くと横目でボクを見つめた。

「あぁ、お前さぁ、たぶん自分じゃ気づいてないかもしれねぇけどな、もし本気でヤったら、オレなんかよりぜんぜん強いと思うよ。谷川なんかよりも、絶対にお前のほうが強いよ」

ボクがそういって笑うと、田代は独り言みたく、みずからの口のまわりに言葉をくゆらす。

「ボクが、……強い――」

「だってよぉ、さっきの不良連中だって、ぜんぜんお前を押し倒すことなんてできなかったじゃん。お前ってすげぇ腰が重いしよぉ。だから簡単には倒されないし、それにきっと殴られ慣れてるから打たれ強い。もし、お前が格闘技やってたら、相当強くなってたハズだよ。なんか、そういう格闘技向きの骨格してるみてぇだからな」

と、ボクがいうと、田代は足元をぼんやり見つめた。

「そうか、――だったら、やっとくんだったな。小学校のとき、空手とか柔道なんかを」

土色にくねった道の向こうのほうに、やがて勝上献(しょうじょうけん)展望台が見えてくる。すると、田代は突然立ち止まり、振り向くボクを上目遣いに見ながら「への字」に下がった唇を微(かす)かに動かした。

「小学校四年のとき、ある日学校へ行ったら、ボクの机の足元にね、自転車のサドルが置いてあったんだ」

「サドル? 椅子のとこか?」

ボクは、意味もわからぬままにそう訊ねる。田代は頷き、さらに話し続けた。

「数日前、小山さんが親に買ってもらったばかりの自転車を誰かに盗まれたってことは知っていた。いつもはほとんど教室で誰とも話をしない小山さんが、そのときだけはね、いろんな生徒に聞いてまわってたんだ。『私の自転車、誰か知らない?』って、――きっと、すごく大切だったんだと思う。彼女にとって、その自転車は、――」

田代は大きな背中に、海からの南風を受けていた。もしかしたら、その風に押され、彼は言葉を吐き出しているようにも思えた。

「――しばらくして、学校でメチャクチャにされた彼女の自転車が見つかった。でも、結局、犯人は見つからなかったんだ。それどころか『小山さんが自分で自転車を壊した』ってことにされてしまっていた。――クラスのみんなは、犯人が誰かなんてこと、とっくにわかってたけど、誰もそのことを先生にいわなかった。そしたら、――その数日後、ボクの机の下に自転車のサドルが置かれてたんだ」



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.09.28 記事原文】

「カンパニー」繋がりで・・・


今年の3月、当ブログの開設当初にご紹介した
リッキー・リー・ジョーンズ女史の「Company」ですが。。。
当時Yにオリジナルなかったのでダイアン・リーヴス女史の
カヴァーVerをリンクしておりました・・・

が。なぜか2年前のUPねたがYで見つかりましたんで
オリジナルVerもご紹介♪※つうかそれが普通かぁ(笑

1979年リリースの1stアルバム『Rickie Lee Jones』は
何度聴いても名盤中の名盤ですわいな☆☆☆

彼女ってかなりジャニスと似たような人生を送っておりますケド・・・
ボクの個人的嗜好でいえばリッキー・リー・ジョーンズさんの歌声のほうが
ググっと心に響きます。。。
でもアルバムリリース当時はまだ25歳くらいですねぇ。。。
シノマリより若いのかい!!

う~・・・しかしながら。。。
まさに極上の大人サウンドですわねぇ☆






Company - Original Album Series: Rickie Lee Jones

Company - リッキー・リー・ジョーンズ
1stアルバム『Rickie Lee Jones』収録曲 1979年
アルバムお薦め度 「☆名盤です☆」

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【Re-Edit】 Glory Of Love - Peter Cetera 【80年代バラード】

【Re-Edit】【80年代洋楽バラードの名曲】


Glory Of Love





1983年9月13日(火)

「彼女とは一度も話したことはないけど、――でも、ボクはずっと見てきた。いままで彼女がどんなことをみんなからされてきたのか、を。――でも、変わると思ったんだ。中学校に入れば、きっと、そんな生活も終わるんだろうって思ってた。けど、――もっとヒドくなった。それに彼女は、もうすぐ本当にひとりぼっちにさせられてしまうんだ」

ボクには、そのとき田代がなにをいおうとしているのか、まだよくわからなかった。

「まぁ、なんとなくは聞いてるよ。小山さんが小学校のときから、中3になるまで、ずっといろんなヤツにイジメられてきたってことはね」

小声でボクはそういって、前を歩く小山ミチコの細い背中を見つめた。しばらく風の音を聴きいていた田代が、「ポツリ」とつぶやく。

「――ボクね、来月、東京に転校するんだよ」

「えっ! マジで?」

と、ボクは驚きながら問いかける。

「お父さんが、小学校のとき交通事故で死んでから、ずっとお母さんと暮らしてきたけど、来月、お母さんの実家に帰るんだ。――ボク、来年、都内の高校を受験するからね」

田代は、そびえる老樹たちの太い幹のすき間から、遠くの山並みを見つめた。

「――ウチのお父さんさぁ、結構大きな病院を開業してたから、そのときの預金とかもあったし、生命保険で相当な金額入ってたみたいで、変な話、お父さんが死んでも、生活はさほど困らなかった。まぁ、お母さんがいまでも病院のオーナーやってるし」

「へぇ~、じゃあ、お前んとこも相当に金持ちなんだな」

ボクは、「フッ」と笑って田代に目を向ける。

「今朝、円覚寺で不良にお金を取られたとき、林さんは、そのことを怒ってくれてたけど、ボクにとっては、別にいつものことだったし、本当はなんとも思ってなかった。

それに、――林さんは小学校のとき、上級生にお金を渡して、その人たちから守ってもらってたみたいだけどボクは違う。――ボクは、みんなから暴力を振るわれないために、ずっとお金を払い続けてきたんだ。暴力が振るわれるのが本当にイヤだったから、お金を払って、どうにかそれを避け続けてきたんだ」

弱々しく吐きこぼされてゆく田代の言葉が、「チクチク」と、やけに心へ突き刺さる。ボクは足元の小石を蹴飛ばした。――淡々(あわあわ)しい声色のままで田代は続ける。

「――けど、ある日、いつものようにタンスにしまってあったお母さんの財布から、新札のお金を盗ろうとしたとき、お札の手前に手紙が入ってたんだ。――たぶん、それはお父さんの字だった。――

『お前がどんな理由で、このお金を持っていくのかについてはなにも聞かない。けれど、そのお金がお前に役立つことに使われているものだと、私たちは信じている』ってね、そう書いてあった。

ボクはそれを読んで、はじめて両親を裏切っていた自分の罪の重さを知ったんだ。それにね、そのときはじめて見たんだ。お父さんの書いた字を、いや、――それが、最後に読んだお父さんの字だった」

ボクは、横目で田代を見つめると、一番先を歩くショウカの小さな背中のほうへと視線を移していった。

「だからお前、林さんにいってたのか? 『そのお金は林さんが自分で稼いだものじゃない。林さんのお父さんが稼いだお金だ』って、――まぁ、お前と林さんとじゃ、そもそも理由が違ってたんだな。誰かに金を払うことの理由が、さ」

田代は、相変わらずの鋭い視線をボクのほうへ向けてきた。細くてよくわからなかったけど、その瞳の奥には、李メイと同じ儚(はかな)さが、なんとなく漂っているように思えた。

「それ以来、ボクはクラスのヤツらや上級生たちに、お金をいっさい渡さなくなった。だから、毎日、暴力を受けるようにもなったんだ。でもね、――殴られてても、なぜだか少し安心できてたんだ。

だって、小山さんも、毎日、ボク以上に、もっとひどいイジメを受けていたからね。『ボクだけじゃないんだ』って、――そんな彼女を見て安心できてたんだ。おかしいと思うだろ? でも本当に『ひとりじゃないんだ』って、安心できてたんだよ」

――やがてボクらは、苔むした岩肌が荒々しく隆起するその場所へと辿りつく。
「十王岩」と呼ばれるその奇岩の脇からは、波打つ山の深緑と、霞(かす)みのなかを、煌(きら)めく水面(みなも)に囲われた鎌倉の街並みを、ほぼ真正面に一望することができた。

「うわぁ! やっぱさぁ、さすがにガイドブックに載ってるだけのことあるわよね」

と、ショウカは体を浮かすようにし、思わずそう叫ぶ。
木立の影に遮られないこの場所を、白い陽射しが柔らかく包み込む。ショウカに続いて岩の上をあがっていく、メイとミチコのうしろ姿を見つめながら、さっき田代がいった言葉をボクは思い出していた。

【――もし、ボクが東京へ転校してしまったら、小山さんはクラスのなかで安心できるものが、なにもなくなってしまう。ボクが谷川たちにイジメられてたことで、彼女が安心できてたかどうかはわからないけど、……来月からは、イジメの対象が彼女ひとりきりになってしまう。――

でも、こないだシーナが谷川のことを殴ったんで、もしかしたら、ヤツらのイジメも少しはおさまるのかもしれない。けれど、彼女はボクと違って、ほかのクラスのヤツらからもイジメられてるだろ? ――

だからシーナ、ボクがこんなこというのはおかしいし、お前が迷惑なのもわかるけど、少なくとも、谷川たちからだけでも守ってやって欲しいんだ。彼女のことを、――だって、お前にしかできないだろ? アイツらから彼女を守ってあげれるのはもう、ウチの学校で、……お前だけしかいないんだよ】


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.21 記事原文】

シカゴを脱退し、ソロとなったピーター・セテラ。
デヴィッド・フォスターをプロデュースに迎えた
2ndアルバム『Solitude/Solitaire』から
彼の代表的ヒットナンバーとなった「Glory Of Love」をチョイス♪

映画『ベスト・キッド2』主題歌です。






Glory Of Love - ピーター・セテラ
2ndアルバム『Solitude/Solitaire』 1986年

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【Re-Edit】 If I Don't Have You - Orleans 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


If I Don't Have You





I selected "If I Don't Have You"
from 4th album "Waking and Dreaming"
of Orleans released in 1974.



1983年9月13日(火)

鎌倉市北部と横浜市南部との境に位置する、標高約160メートルの大平山(おおひらやま)から、少し低い約140メートルの天台山(てんだいさん)を結ぶルートは、通称「鎌倉アルプス」と呼ばれ、鎌倉市内にいくつか定められたハイキングコースのなかでは、最長となる天園(あまくさ)ハイキングコースが、その山中の尾根筋に沿って整備されている。

建長寺で、もっとも高台にある半僧坊は、このハイキングコースへの入り口にもなっていた。――

【せっかくここまできたんだから、十王岩まで行ってみようよ】

天狗たちの見つめる長い石階段を、ボクたちが山門のほうへ、くだっていこうとしかけたとき、ショウカが急にそんなことを提案しはじめ、ボクたちは黙ってそれに従った。そしていま、時折、血管のように太い木の根がうねりながら足元に露呈した土褐色のダート路を、こうして歩いている。

「十王岩」――そう呼ばれる巨石の近傍(きんぼう)からは、どうやら鎌倉市内が、もっともキレイに一望できるらしい。

――半僧坊の本殿裏から、細い石段をしばらくのぼっていくと、「勝上献(しょうじょうけん)展望台」に到着する。この場所から、今日はじめてアクアブルー一色で満たされた湘南の海の青さを目にしたとき、なんだか少しだけ「ホッ」としたように思う。

ハナウタを歌いながら先頭を行くショウカの少しうしろを、メイとミチコが並んで歩く。そんな2人の背中を見つめるボクの数歩うしろを、田代はゆっくりついてくる。

高木に繁る緑の葉々の隙間から、眩輝(グレア)によって拡散させられた放射状の光輝が燦々(さんさん)と溢(あふ)れ返っている。その木漏れ日の眩(まばゆ)さは、この山に繁茂(はんも)する無数の樹々が吐き出す霧状の吐息を、ほんのり乳白色に霞(かす)ませているように感じられた。――

たしかにそれは、天から降り注がれた一瞬の微笑みのように神々しくもあり、何百年もの長きに渡って、この場所に棲み続けてるのであろう精霊たちの口元からこぼれ落ちた、淡い息吹きのようでもある。

(しかし、もしこのグループに林ショウカがいなかったら、ほとんど会話なんてものは成立しなかったんだろうな。――まぁ、メイと田代が、極端に無口過ぎるだけなのかもしれないけれど)

さんざめく葉々の揺らぎを木漏れ日の下に聴きながら、ボクは急に立ち止まり、うしろを歩く田代が隣に並ぶのを待つ。――怪訝(けげん)そうに、横目で視線を投げかける田代へ向かってボクは微笑んだ。

「――お前ってさぁ、普段、どんな音楽聴いてるの?」

別にそんなことを知りたかったってわけじゃない。本当は、さっき山門の楼上(ろうじょう)から小山ミチコを見つけたとき、どうして田代がいきなり彼女の名前を呼んだのか、――そっちのほうの真相が知りたかった。しかし田代は、そのとき意外なアーティスト名を口にする。

「ボクは、高中正義が好きかな」

「高中?」

高中正義の代表曲、「ブルーラグーン(Blue Lagoon)」くらいなら、なんとなく知っていたけれど、アルバムを聴いたことは一度もなかった。思わずボクは訊ねる。

「お前、エレキが好きなのか?」

すると、田代は口元にほんの少しだけ笑みを浮かべながらいった。

「高中の『虹伝説』ってアルバムが好きでね。ボク、いつかハワイに行ってみたくって、――このアルバム聴いてると、なんとなく浮かぶんだ。そんなハワイの情景が」

田代が笑顔を見せたことにも驚いたけれど、なにより彼の口から「ハワイ」という言葉を聞かされて、つい、ボクは田代の横顔に微笑みながら告げたんだ。

「オレもね、いつか行きたいなって思ってるんだよ。――ハワイにね」

ボクは田代と並んで落ち葉に埋もれた土肌の上を歩く。――なんの気なしに訊いた音楽の話が、ボクらの関係をうっすら変化させたのかもしれない。やがて、本当に訊きたかったほうの質問をボクは口にする。

「お前さぁ、さっき小山さんを見つけたときにさ、なんで彼女の名前を呼んだんだ? 別に変な意味じゃねぇけど、彼女と話したことなんてないんだろ?」

田代はじっと黙り込み、前を行くミチコの背中を見つめた。そして風のせせらぎのなかへ、やんわり言葉を溶け込ませていった。

「ボク、小山さんとは小学校の三、四年で一緒のクラスだったんだ」

「えっ? あぁ、そういえば同じ小学校だったな、お前たちって」

うつむく田代の横顔に、ボクはつぶやく。

「彼女とは一度も話したことはないけど、――でも、ボクはずっと見てきた。いままで彼女がどんなことをみんなからされてきたのか、を。――でも、変わると思ったんだ。中学校に入れば、きっと、そんな生活も終わるんだろうって思ってた。けど、――もっとヒドくなった。それに彼女は、もうすぐ本当にひとりぼっちにさせられてしまうんだ」

ボクには、そのとき田代がなにをいおうとしているのか、まだよくわからなかった。



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.10.09 記事原文】

オーリアンズって世間的にはほとんど評価されてないバンドですケド。。。
個人的には好きなんですよねぇ♪

何とな~く自分たちの出来る範囲で音楽を作ろう!みたいな
ある種「収まり感」のあるサウンドが心地よいのですね☆

そんな彼らが1974年にリリースした4thアルバム『Waking and Dreaming』から
ほのぼのとした温かみを感じられる優しいバラードナンバー
「If I Don't Have You」をチョイス♪

ちょっと人恋しくなる肌寒い秋の夜更けには。。。
ジワジワと効いてきますなぁ。。。






If I Don't Have You - Waking & DreamingIf I Don't Have You - オーリアンズ
4thアルバム『Waking and Dreaming』 1974年

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【Re-Edit】 The Water Is Wide - Karla Bonoff 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


The Water Is Wide






1983年9月13日(火)

すでに昼の11時を少し過ぎていた。――
ボクたちは、背の高い樹々に左右を囲われた、建長寺の長い石階段をのぼりきった最奥部にある、「半僧坊」と呼ばれる高台から、幾重(いくえ)にも重なった、色深き樹林の枝葉の向こうに建ち並ぶ山門や仏殿の屋根を見下ろしている。

(ずいぶんと高いとこまで登ってきてたんだな。――そういえば、この天狗像たちが参拝客を出迎えている展望台からの眺めこそ、唯一、ボクの幼い記憶のなかに残されていた、この寺の風景だったはずだ。だけどその当時、これほど高いとこまで登ってきたっていう覚えがまったくないし、……それに、こんなにいっぱい天狗がいたっけなぁ?)

眼下の崖に転々と佇む小さな天狗像たちを見つめながら、多少、曖昧な記憶と乖離(かいり)していたそんな景色をぼんやりと眺め続け、ふとボクは、山間に響く蝉の鳴き声がすっかり小さくなってしまっていたことに、いまさらながら気づかされる。

「このペースだとさぁ、予定のコースを全部まわるのは絶対無理だよね?」

と、林ショウカが小さな顔を少し曇らす。
本当であれば円覚寺を出たあと、鎌倉街道を向こう側へと渡り、源氏山の麓(ふもと)にある「縁切寺(駆け込み寺)」として有名(らしい)な東慶寺と、そこから鎌倉街道を少しのぼった先の浄智寺を訪れる予定だった。

けれど、今回の先導役を買って出たショウカが、ボクたちを先に建長寺へと案内してしまったことで、その手前にあった道向こうの2つの寺院を素通りしてしまっていたようだ、

「でもまぁ、いまさら戻るのもなんだか面倒くさいしね」

と、ボクは小天狗たちの背中の羽を見つめながら笑う。そして「半僧坊大権現」と書かれたのぼりが無数にはためく、コンクリートで塗り固められた石塀から、建長寺の全景の向こうに広がる鎌倉の山々を見つめ続ける李メイの横顔に目をやる。

一見、クールに思えるメイの瞳はいつだって『なにか』によって曇らされてる。それがなんなのかはボクにもよくわからない。けれど、もし深い哀しみ色したせつなさを、心に抱え込んだとするならば、人はみな、誰もがきっと彼女と同じ翳(かげ)りを瞳のなかに宿すことになるはずだ。――なんとなく、そんな気がする。

「あぁっ! 忘れてた!」

突然、ショウカがそう叫ぶ。

「そういえばさぁ、すっかり忘れてたけど、発表会のときの写真を撮らなきゃいけなかったんじゃん! 田代君、カメラ持ってきてるんでしょ?」

ショウカに問い詰められると、田代ミツオはうなずき、カバンのなかからカメラを取り出す。

「もう! だったらなんで、『写真は撮らなくていいの?』って、教えてくれないのよ! さっき円覚寺の写真、撮り忘れちゃったじゃん!」

続けざま甲高い声でショウカにそう怒られて、田代はずんぐりした背中を小さく丸め込む。

「けどさぁ、さっきは写真どころじゃなかったじゃん。だって、いきなり2人で、あの不良連中を走って追いかけていっちゃったんだから」

そういってショウカをなだめると、ボクはカメラを手にしょんぼりうつむく田代に笑いかけた。

「まぁ、せっかくだから、記念にここで一枚くらい写真でも撮るべか」

田代は、なにもいわず少し歩いて距離を取ると、展望台の石塀に沿って並んでいるボクらのほうへとカメラを向ける。慌ててファインダーの外側へ逃げ出そうとする小山ミチコをメイが呼び止めた。

「ミチコ、――別に誰かに見せるわけじゃないんだから、みんなで一緒に撮ろう?」

穏やかな口調でメイがそういうと、ミチコは少しはにかみながらボクらのほうを振り返った。ふたたびメイが、薄紅色した唇を微(かす)かに開く。

「こうしてみんなと一緒にいるんだから、一緒に撮ろうよ。ね?」

優しく諭すようにそういわれると、ミチコは下を向きながら戻ってきて、細い体をボクのうしろ側へと隠すよう、一番後方の場所をみずから選ぶ。ボクは彼女を肩越しに見つめ、

「オレのほうがキミより背が高いんだからさぁ、オレの前にくれば?」

と、いって、右ひじを柔らかく掴むと前へと引っ張り、その細い背中を軽く押す。
ボクに触れられたとき、一瞬「ビクッ」としたけれど、ミチコはそのままボクのすぐ前に立ち、カメラを構える田代を見つめた。

するとミチコの少し前にいたメイが「チラッ」と振り返り、すぐ右隣までうしろ向きに二、三歩さがってくると、やがてミチコの細い両肩にそっと手を置いた。ショウカはそんな2人の前に笑顔でかがみ込んだ。

「カシャッ」――田代がシャッターを押す。するとショウカが大きなアニメ声で笑う。

「あのさぁ田代君、もし撮るならさぁ、なにかいってくれないとダメじゃん。はい! じゃぁもう一枚ね!」

ショウカにそういわれ、田代は、やや思い悩んだような素振りを見せたが、

「じゃ、じゃぁ、……撮るよ。――さん、はい、――」

恥ずかしそうに掛け声をかけ、シャッターを押した田代が、ゆっくりファインダーから目を離す。――彼はそのままなにもいわずに、じっとミチコのほうを見つめていた。ボクも、すぐ目の前にあるミチコのうしろ姿を、ただぼんやりと見つめていた。――細い肩を細かく上下に震わせながら、彼女はメイに、そっと背中を撫でられ続けていた。

(もしかしたらミチコにとって、これが、中学校に入ってからの3年間で、はじめて、ほかの誰かと一緒に彼女の姿が写し出された写真だったのかもしれない。――)

やがてボクは、田代がいるほうへと歩いていき、大きな声で彼にいう。

「そんじゃぁ、今度はお前もみんなのほうへ行け! オレが撮るから。――」



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】


【2012.03.20 記事原文】

誰が歌っている曲かは知らなくても、
一度は聞いたことがある歌っていうのは結構多いだろう。

この「The Water Is Wide」は、CM等で良く使われるが、
実際、カーラ・ボノフというアーティストを知らない人が多い。


そんなカーラの2ndアルバム『Restless Nights』から
「The Water Is Wide」を選曲♪

透明感のあるヴォーカル、歌詞、メロディ♪
三拍子揃った、まさに永遠の「ヒーリング・ソング」といえよう。

個人的に、彼女は70年代女性シンガーの中では最も好きですね。






The Water Is Wide - Restless NightsThe Water Is Wide - カーラ・ボノフ
2ndアルバム『Restless Nights(ささやく夜)』 1979年
アルバムお薦め度「持っていても良いでしょう」



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【Re-Edit】 Honesty - Billy Joel 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


Honesty






1983年9月13日(火)


すべてのことを観念するよう、自嘲(じちょう)気味に吐き出されてくミチコの儚(はかな)いため息が、ほんのりと風に交わるその様(さま)をボクは見ていた。

すると、メイの隣で高欄(こうらん)の丸太に寄りかかっていたショウカが、少し泣き腫らした大きな瞳をミチコのほうへと向ける。――そして静かにささやきかけた。

「こないだ、シーナ君が谷川たちのことをやっつけたでしょ? だからもう、いままでみたくアイツらがミチコを教室でイジメたりすることもないんじゃない? だとすればさぁ、それだけでもきっと少しは変わると思うよ。ミチコがそうやって『すっかり慣れてしまってきた日常の風景』がね。これから少しずつ変わっていくと思う。――」

「ワタシの日常の風景が、……変わる?」

つぶらな瞳でショウカを見つめ、ミチコは独り言のようにそうつぶやく。しばらく黙り込んだまま、彼女は小さくカールした髪を肩のあたりでつまんでいたが、やがて「ポツリ」と、最後にひと言ささやいた。

「変わったらいいな。――本当に」

おかしないい方だけれども、いまこの回廊に座り込んでる5人の、ボク以外のみんなは、過去にイジメを受けてきた2人と、現在進行形でイジメを受け続けている2人とにちょうど分かれて座っている。ボクは林ショウカ以外の李メイ、田代ミツオ、小山ミチコの3人とは、中3で同じクラスになってから、この半年ものあいだ、ほとんど会話を交わした覚えなどはない。

けれど唯一、教室内で何度も話したことのある林ショウカと、今日はじめて一緒に過ごしてみて、彼女が抱え持つ心の複雑さをつくづく思い知らされたんだ。――おそらく彼女はむかしから他人のことを慈しみ、そして思いやることのできる優しくて清らかな心を持っていたのだろうとボクは勝手に判断している。

けれど、それに二律背反し、時折、どこかしら他人を見下し蔑(さげす)むような、すさんだ感情を心のすき間に浮かびあがらすことがある。

そのどちらの自分も、肯定も否定もできないままに、ショウカの心のなかでは絶えず、本来あるべきピュアな自分と、いくつもの辛い現実によってあとから生み出された、歪んだ別の人格とのあいだでせめぎ合いや葛藤が繰り返されてるのだろう。――

すでにショウカはそのことに、みずから気づいているのだ。――にもかかわらず、よこしまな感情をすべて消し去ることができないのは、彼女がそれほどまでに深い傷を心に背負ってしまっているせいなのかもしれない。

いずれにしたって、そのどちらの自分もショウカは正直に、あっけらかんと表へ出しちゃうものだから、よりいっそう捉えどころのない性格を、多くの人に印象づけてしまっている。――

なんとなくそんなことをぼんやり考えているうちに、やがてショウカが寄りかかる高欄の向こうから、バスガイドに先導された団体客たちが「ゾロゾロ」近づいてくるのが見えてきた。

「ぼちぼちこの寺も混んできたみたいなんで、そろそろ移動するか? きっとあの連中も、ここにのぼってくると思うからね」

と、ボクは石畳を迫りくる長い行列を見つめながらいった。――

楼上(ろうじょう)の二階から、回廊をうしろへまわり込み、狭くて急な階段を降りきると、山門のすぐ脇に吊り下がってる古さびた「梵鐘(ぼんしょう)」に目が止まる。ボクたち順々に靴を履くと、そちらのほうへと近づいていった。

「これって国宝なの?」

手前に掲げられた立て札を読みながらショウカがそういう。

そこには、一番上に横書きで「梵鐘(ぼんしょう)」、そして二行目に「重さは2.7t 国宝」と記されている。

「なんか、あまり目立ってねぇな。一番重要な『国宝』っていう部分が、――それになんだか書き方おかしくない?」

そういって、ボクは、まだらに黒ずむ青銅色の吊り鐘を見つめた。

「う~ん、これって、たしかに古いんだろうけどさぁ、だったら、絶対に、いまの山門のほうがスゴいよね。でも、あっちは、『重要文化財』なんでしょ? なんでかな?」

そういって、ショウカは「クスッ」と笑う。

やがて、ボクたちは参道を山へと向かって歩きはじめた。建長寺は、この参道に沿って主要なお堂や社殿が配置されている。柏槙(ビャクシン)と、いう巨大な古木が参道両側の植樹帯にそびえ立つその正面には、石階段三段分ほど、「ぐるり」外周を石組みされた「基壇(きだん)」と呼ばれる基礎台座に、どっしり構える寄棟造(よせむねづくり)の仏殿が見えている。石畳の参道は、シンメトリーな輪郭を美しく纏(まと)う、その荘重な社殿によって行く手を塞がれていた。

上空からは太陽が、青銅色(せいどういろ)した屋根瓦と、社殿を支えるコンクリートの基礎台座の表面を、ムラなく白一色に染めあげている。開け放たれた仏殿の正面扉の向こう側には、漆黒の陰影が凛然(りんぜん)と揺らめくように漂っていた。

それらのコントラストにつくり出された明暗の境界に、ボクはふと、歴史の折り目を垣間見たような気がしたんだ。


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.22 記事原文】

ビリー・ジョエル1978年のグラミー最優秀アルバム賞受賞
の『52nd Street(ニューヨーク52番街)』から
誰もが知っているバラードナンバー「Honesty」をどうぞ♪


日本でのビリーの知名度は、
ネッスルのCMで使われたこの曲に拠るところが大きい。


なんなんだろうか?
この歌が放つ圧倒的に哀愁漂う空気感は。。。


名バラードは世にいくつもあるが、
哀愁を切実に痛感させるような曲は、
今でもなかなか出現していない。


当然ながら、ボクが最初に買ったビリーのアルバムも
『52nd Street(ニューヨーク52番街)』である。






Honesty - 52nd StreetHonesty - ビリー・ジョエル
6thアルバム『52nd Street(ニューヨーク52番街)』 1978年



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【Re-Edit】 Diary - Bread 【70年代ポップス】

【Re-Edit】【70年代洋楽ポップスの名曲】


Diary






1983年9月13日(火)


メイに見つめられ、ショウカはうつむく。――そして、ひざのあたりへ小さく言葉をこぼしていった。

「そうだね、中学に入って、アタシたちがイジメたりされなくなったのは、結局、アタシは上級生たちにチヤホヤされながら、ずっと守られてきたからで、メイは、――」

ショウカの言葉を引き継ぐようにメイは青空へささやいた。

「そう。アタシには、――お兄ちゃんがいたから」

その小さな足音は、やがて回廊の角で止まった。――ボクは静かに振り返る。――そこには小山ミチコが恥らいながら立っていた。

メイは手招きするよう、右手の指先を微(かす)かに動かす。そして微笑みながら、そっときれいな薄い富士型の唇を開いた。

「おいで、ミチコ」

メイにそう促され、ミチコがゆっくり歩いてくる。
ボクはうしろを振り返り、ミチコと逆側の柱の角に立っていた田代へ向かって叫ぶ。

「お前もさぁ、いつまでも、仏頂面してそんなとこに突っ立ってねぇでこっちこいよ」

田代は、相変わらず鋭い視線を「チラッ」と向け、やがてうつむきながら「のそのそ」と近づいてきた。ショウカだけは、まだなんとなく納得できないような表情を浮かべている。――

「ほかのみんなとは? はぐれちゃったの?」

高欄(こうらん)を背に、脚を斜めにしながら座り込むメイが、ミチコのほうへ涼やかな視線を向ける。ミチコは少しだけ躊躇(ためら)ってから、その小さな唇を動かした。

「さっき、鶴岡八幡宮を出るときに、『ちょっと待ってて』っていわれて、ワタシずっと待ってたんだけど、みんな戻ってこなかったから、――だから、グループで行く予定だったお寺をね、ひとりでまわりながら、みんなのこと探してたんだけど」

彼女がグループのほかのメンバーたちから『置いてけぼりにされたんだろう』ってことは、ボクらにも容易く想像がつき、そして、なによりミチコ本人も、はっきりわかっていたんだろうとは思う。

一階の基礎から天井へと伸びる円柱にもたれたボクは、壁板に施された「火灯窓(かとうまど)」と、いわれる格子状の桟(さん)が巡らされた木窓の手前に正座を崩して座ってるミチコに訊ねた。

「小山さんのグループって、ほかに誰がいたの?」

ミチコはふわりと、ボクのほうを振り返り。そして、

「ワタシのグループは、女の子が3人だったから。女子が池山さんと川上さん、それに男子が、栗原君と佐藤君」

と、小さな声で答える。

(ミチコのグループに川上ナオもいたんだ、――)

すると、うっすら口元に笑みを浮かべ、ミチコはみずからのつま先のほうへ小さく言葉を吹きかけた。

「たぶんね、置いてかれたんだと思う。ワタシ、――電車のなかで、ずっとみんなが小声でなにかを耳打ちしてたからね。きっと、そういうことを話してたんだろうなって思ってた」

ボクの左隣でひざを抱えていた田代が、ミチコの横顔を見つめた。ひとしきり、ミチコはただぼんやりと、つぶらな瞳でつま先を見つめてたけど、回廊をそよぐ清涼な風の影を目で追うと、また小さな唇をうっすら開いた。

「きっと、……『そうなるんだろうな』ってことはわかってたんだけどね、行く前から、――だからぜんぜん気にしてないの。そんなのいつものことだから、――」


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.24 記事原文】

こちらもブレッド4枚目のアルバム『Baby Im a Want You』から
得意のフラワーちっくなアレンジ「diary」をどうぞ♪
どことなく初期のオフコースっぽいメロですね☆






Diary - Baby I'm a Want YouDiary - ブレッド
4thアルバム『Baby Im a Want You』 1972年



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【Re-Edit】 Falling - Le Blanc & Carr 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


Falling





I chose "Falling" from Le Blanc & Carr's 1st album
"Midnight Light" released in 1978.



1983年9月13日(火)


ショウカの肩を、そっと抱きしめ続けるメイの姿をしばらく見つめていたボクは、何気なく、楼上(ろうじょう)の上から、建長寺の総門のほうへと目を向ける。すると、石畳の向こうから歩いてくるウチの制服を着たひとりの女子生徒の姿を高欄(こうらん)の、丸太の透き間に見つけだす。

(小山――ミチコ、か?)

山吹く風に、少しだけ天然パーマのかかった黒髪をゆるがせ、こちらのほうへ向かってくるミチコが、石畳の通路にそびえる山門の上層を見上げたとき、――楼上の回廊から彼女のことを見つめていたボクと目が合う。おもわず立ち止まり、驚きの表情を浮かべたミチコの小さな顔に、ほんのりと安堵の色が灯されたような、――なんとなくそんな気がしたんだ。

隣に座っていたメイが、ボクの僅(わず)かな顔色の変化に気づく。やがて彼女は、ずっとボクが見下ろし続けてる視線の先を、みずからの肩越しに辿っていった。

「ミチコ?」

メイがそうつぶやくとショウカも顔をあげ、瞳を潤ませたまま山門の下に佇むミチコのほうへ視線を落とした。


「ミチコたちのグループも、北鎌倉のほうへきてるのかしら」

静かにメイは、そうつぶやく。

「でもさぁ、ほかのヤツらがひとりも見当たらないんだけどね」

と、いって、ボクは立ち上がり境内を見渡した。

山門の上からずっと見られていることに、とうとう堪えきれなくなったのか、やがてミチコはうつむくと、ふたたび足早に歩きはじめた。楼上にいるボクらのちょうど真下をミチコが通り抜けようとしたとき、――

「小山さん!」

と、いきなり田代がミチコの名を大声で叫んだ。「ハッ」とミチコは驚き、おもわずその声を見上げる。いままでほとんど言葉を発することなく、ひとり離れて回廊の角に立っていた田代がミチコに声をかけた。――そのあまりに予想外な出来事にボクたちも驚き、みな一斉に田代の顔を見つめた。

「あのさぁ、……ダメかな。彼女をここに呼んだら」

と、田代は小さな声でいいながら上目遣いにボクらのほうを見返してきた。

「えぇっ! 別にほっとけばいいじゃん。ミチコのことなんて」

まだ、鼻をぐずつかせながらショウカがそう口を開くのと、ほとんど同時に、

「小山さん! ひとりなの? よかったらこっちにきなよ」

ボクは高欄(こうらん)から身を乗り出すようにし、ミチコに向かってそう声をかけた。

「ちょっ、ちょっとシーナ君、ミチコのことなんて、――」

まぁ、ショウカにしてみれば、中学に入ってから、ずっと学年中のヤツらにシカトされ、教室では毎日のように谷川らにイジめられ続けてるミチコのことなんて、『いまさら自分たちが気にする必要なんてない』と思うのは、当然のことなのかもしれない。そのことは否定しやしない。けれど、ボクはショウカの涙色に染まった瞳に、微笑みながらいったんだ。

「オレはね、もしかしたらキミにならわかると思ったんだけどね。『小山さんがどういう気持ちで、毎日学校に通っているのか』ってことをさ」

そして、なにもいわず、押し黙ったままボクらを見上げているミチコに向かってふたたび笑いかけた。

「キミさぁ、どうせ、ほかのみんなとはぐれちゃったんだろ? だったらオレらと一緒にくればいいよ。別にいまさらグループなんて関係ねぇんだから」

するとメイが立ち上がり、高欄(こうらん)に手をつくと、躊躇(ためら)うミチコを見つめた。そして、そっと唇を動かす。

「こっちにおいで。――ミチコ」

そう呼びかけると、古寂びた板張りの回廊に座り込むショウカの横顔にささやく。

「ショウカ、――ワタシたちが、もし同じことをしてしまったら、――ショウカが小学生の頃、クラスメイトたちからされたのと、まったく同じようなことをね、もし、いまワタシたちがほかの誰かにしてしまったとするならば、きっと『本当の正しさ』なんてものは、どこにもなかったってことになっちゃう」

メイの口調はいつもの通り冷静だった。だけど、微(かす)かな優しさを端々(はしばし)に漂わせている。

「ワタシたちが小学校の頃、学校でされてきたことを、もし『みんながしていたことのほうが正しかったんだ』って、肯定しちゃったら、ワタシたちが毎日、感じ続けてきたあの哀しみや悔しさを、『ホントはそんなこと感じちゃいけなかったんだ』って、否定しなければならなくなる。そんなの絶対に間違ってるでしょ? ワタシやショウカ、それに田代君がね、いまのミチコの気持ちをわからないはずなんてない。――あの頃、みんながワタシたちにしてきたことを、ワタシたちが誰かにしてはいけないと思う。――違う? ショウカ。アナタはあの頃、みんながアナタにしてきたことを肯定できるの?」



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】


【2012.06.25 記事原文】

「レニー・ルブラン」と聞いて知ってる人は結構なAORツウですね。

彼が70年代後半にピート・カーと組んだデュオ「ルブラン&カー」名義で
リリースした唯一のアルバム『Midnight Light』は、AORファンのあいだで
非常に評価の高い1枚とされております。

彼はソロ転向後、クリスチャン系ミュージックを中心とした
楽曲をリリースしていくことになります。

ボクは、昨日あたりからすっかりソッチ系の癒しサウンドに
浸っておりますです。。。まぁ、クリスチャン系SSWの作品には、
素人に毛が生えた程度のものも多いのですが、彼のサウンドは、
かなり高いクオリティを維持しておりますです。

さて。ひとつの謎がありまして・・・
ネット上でこのアルバムを紹介してる多くの方々が、リリース年度を
1977年としております。しかし、Wiki、Amazon、さらにはオフィシャルサイトでも
リリース年度が1978年となってますので、そっちを信じることにします☆
何が原因なんでしょうかね???

と思ってWiki読んでたら。。。
シングルヒットした「Falling」のリリースがきっと1977年なんですね。
ですんでアルバムリリースが翌年だった!ということならば納得です☆


ではルブラン&カーのアルバムから、まるで刹那に浮かび上がる愛の灯火のように
淡い涙を誘うメランコリックなバラードナンバー「Falling」をチョイス♪
なんでこんなにも切なくなるんだろう・・・と思ったらシチュエーションが冬だからか?



Falling - ルブラン&カー
1stアルバム『Midnight Light』 1978年
アルバムお勧め度「持っていても良いでしょう」

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【Re-Edit】 She's Out Of My Life - Michael Jackson 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


She's Out Of My Life





1983年9月13日(火)

決して気のせいなどではなく、このひと気のない小高い山門の楼上(ろうじょう)に佇んでいると、なんだかすごく心の内側がしっとり癒されていくような気がした。学校帰り、たまにボクが立ち寄っていた地元の神社より、遥(はる)かに燐(りん)とした濃厚な威風が、この建長寺の境内には漂っているのだろう。

かつて小学生の頃、この場所を訪れたときにはまったくわからなかったけれど、いまのボクは、心でその厳(おごそ)かな空気を、はっきり感じ取ることができるんだ。

古(いにしえ)の時代より、海と山に囲まれたこの鎌倉の風物のなかを、たゆらに継承され続けてきた、みやびやかな和らぎ。――そうした風雅な芳香(ほうこう)を宿した浦山風(うらやまかぜ)に、ふうわり黒髪を撫でられて、やがてショウカは、だんだんと落ち着きを取り戻しはじめていく。

「さっき田代君からね、アイツらに『お金を取られた』って、聞いたときにね、アタシ、小学校時代のこと急に思い出しちゃって、そうやって簡単に人のお金持っていく人たちのことがどうしても許せなくなったの」

ショウカはため息をひとつ吐き、そして続けた。

「だけど、……そのあと、田代君がシーナ君に『お金を貸して欲しい』っていったときはね、誰にでも簡単にお金をあげていたアタシ自身のことなんて、すっかり忘れてしまってた。――あのとき田代君のいってた通り、いままでアタシがいろんな人にあげたりしてきたお金は、アタシが稼いだものなんかじゃない」

吐露(とろ)されてゆくショウカの真情を、メイはその胸元で受け止め続けている。
ボクはショウカの言葉を聞きながら、優しげに瞳を閉ざすメイのことを見つめていた。

「きっと癖になっちゃってたんだね。小学生のときからずっと、人の心を買うために、好き勝手にお父さんのお金を使い続けてきちゃってたから。――それに、きっとどこかで優越感があったんだと思う。それを与えることで、みんながアタシのことを『特別なんだ』と思ってくれることに、……だからすごい矛盾してるんだよ。きっとアタシ。簡単になにかを得ようとする人のことを否定しながら、誰かにお金を与えて優越感に浸る自分のことは、ずっと肯定してきたんだから」

和らぎを運び続ける初秋の風に、そっとささやくようにして、ショウカはひたすらメイの胸のなかで、途切れ途切れに小さな声を響かせ続けた。

(まぁ、たしかにさっきショウカの話を聞いた限りでは、――いままで、まわりの友達にいろんなものを買い与えてチヤホヤされてた外国人の女の子が、過剰なリクエストに応じられなくなったからって、ある日突然、みんなからシカトされ、そしてイジメられて、その復讐のために、さらにお金を使って上級生の用心棒を雇った。――

っていうような話だった。無論、大いに同情はするけれど、自業自得と思えなくもない。けれど、――じゃぁ、もし小学校2年のとき転校してきて、流暢に日本語の話せなかったショウカの家が大金持ちじゃなかったとしたら、果たして彼女はどうなっていたんだろう?)
 
さっきメイは、『ワタシにはわかる。アナタの気持ちのすべてが、――』と、いっていた。同じ外国籍のメイになら、きっとわかっていたのだろう。

もしショウカの家が裕福じゃなかった場合、いや、――きっと、もっと単純なことだ。もし彼女が、クラスのみんなにいろんなものを買い与えられてなかったとしたら、学校でどんな過酷な仕打ちが待ち受けていたのか? ってことの、その答えを。――

ショウカは自分の身を守るためにお金を使い、そして自分の尊厳を守るために、さらにまた、お金を使ったってことだったのかもしれない。

それを「間違っている」と否定するのは簡単なことだ。けれど、ショウカがそうしなければならなかった本当の理由を、「ワタシにはわかる」ってメイは、いってたんだろう。本当ならば、できればショウカも「そんなことなんかしないで、普通にクラスのみんなと仲良くなりたかった、――」のだということを、きっとメイは察していたんだと思う。――




【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.27 記事原文】

マイケル・ジャクソン&クインシー・ジョーンズがタッグを組んだ
1979年のアルバム『Off the Wall』から、
ボクが一番好きなマイケルのバラードナンバー
「She's Out Of My Life」をチョイス♪


妙に情感を込めて歌い上げるマイケルの声。

なぜか聴いていて、とても切なくなります!





She's Out of My Life (Single Version) - Off the Wall (Special Edition)She's Out Of My Life - マイケル・ジャクソン
5thアルバム『Off the Wall』 1979年
アルバムお勧め度『一度聴いてみては?』



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【Re-Edit】 The Last in Love - J.D. Souther 【70年代バラード】

【Re-Edit】 【70年代洋楽バラードの名曲】


The Last in Love





1983年9月13日(火)

「――アタシに『欲しい』っていえば、なんでも買ってくれるって、――だから、みんなアタシのまわりに集まってきてたんだってこと、ぜんぜん気づいてなかったわけじゃないんだ。だけど、『きっと、それだけじゃないんだろうな』って思ってた。たったひとつ、なにかを買ってもらえなかったからっていうだけで、いままで買ってもらったものまですべてが清算されちゃうなんて誰も思わないでしょ?」

ショウカは、右手人差し指で涙を押さえ、潤んだ瞳をボクへと向ける。

「さらさら」と、たゆたい続ける艶(つや)やかなショウカの長い黒髪に、プラチナのティアラを冠しているような白銀色(しろがねいろ)した反照がぼんやり浮かびあがっている。そんな眩(まばゆ)い光輪の輝きに、ボクはおもわず心を奪われた。――

『人間は、みずから宿した色味だけで、これほどまでに美しい光彩を放てるものなんだ』ってことを、きっと、いままで知らなかったせいなんだろう。竹内カナエも、艶(つや)やかで長い黒髪だけれども、ショウカほど明瞭な「天使の輪」を頂(いただ)きに浮かばせていた、――と、いうような記憶はない。

「それで、結局どうしたの? 林さんは、その子に自転車を買ってあげたの?」 

ボクは、涙の雫(しずく)が順番に、ショウカの丸いあごの先端あたりで水滴を溜め込んでいく様(さま)を見つめながら静かにそう訊ねる。――あとから頬を伝ってきた涙に押され、先にあごにとどまっていた哀しみの結晶がティアドロップ状に、ショウカのスカートの上へと「ポタリ」こぼれ落ちてゆく。

「ううん、……アタシ、結局、親にはお願いできなかった。もし、買ってもらったものを友達にあげてたってことがバレちゃうと、次から、なにも買ってもらえなくなっちゃうって思ったから」

ショウカはそういって、また右手人差し指で涙を押さえた。ボクらが座り込む回廊の影を、しとやかにお香の匂いを漂わす南風が吹き抜けていく。ショウカは、ゆらぐ前髪をかきあげると、頭上にせり出した扁額(へんがく)の文字を見上げた。――そしてつぶやく。

「――でもね、次の日から『もう、アタシと話するのはやめよう』って、なんだかみんなのあいだで、すっかり決まっちゃってたみたいでね。それからは、もう誰も話しかけてくれなくなった。――ううん、一方的にいろんなことはいわれてたけど、それはもう会話じゃなかった」

その言葉が風にさらわれていくのを見届けると、メイはショウカを見つめながら、小声でささやきはじめる。

「辛かったでしょ? まだ小学校2年生だったとすれば、なおさらのこと、――」

メイの言葉に促されるようにショウカは、声をあげて泣きはじめた。

「だって、アタシはみんなのために、――みんなが喜んでくれると思ったから、……それなのに、なんで『ドケチな外国人女』とか、『とっとと国に帰れ』とかっていわれなきゃならなかったの?」

メイは静かに立ち上がり、泣きじゃくるショウカの前にかがみ込む。そして、優しくショウカの長い黒髪を胸のなかへと抱き寄せた。

「ワタシにはアナタの気持ちがよくわかるの。きっと、ワタシだけにしかわからない。ワタシたちが、いままでどれほどの哀しみを心に溜(た)め続けてきたのかなんて、きっとほかの誰にもわからない」

メイは、一途なほどに心情を込めた慰めの言葉で、ショウカが抱える心の傷をいたわるように癒そうとしている。
ショウカはメイの胸に抱かれながら、そっと唇を動かす。

「でもね、メイ、――アタシは、きっとメイとは違うと思うよ。だってアタシ、どうしてもみんなのことが許せなくってね、だから上級生たちにお金をあげてお願いしたんだよ。『みんなのことをおもいっきりイジメて』って、――だからアタシも同じなんだ。ホントは、みんなのことをどうこうなんて、絶対いえないんだよ」

その言葉を聞いて、メイは一瞬黙り込む。――回廊に佇むボクたちを柔らかく包むよう、また少しだけ南風がそよぐ。――やがてメイは、ほんのりと香煙(こうえん)くゆる、その風のなかで静かにつぶやいた。

「ワタシにはわかる。アナタの気持ちのすべてが、――だから、いまショウカが、ものすごく後悔してるってことも、――『上級生にそんなこと頼まなきゃよかった』ってね、アナタが、ずっと後悔し続けてきたってことも、ちゃんとワタシにはわかってるからね」

ショウカはメイの顔を見つめ、彼女の胸に寄りかかり、子供のように泣き崩れた。
回廊の角に立ちながら、田代は、そんなショウカが細かくゆらす背中のあたりを見つめていた。



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.05.04 記事原文】

J.D.サウザーの最も有名なヒットナンバー「You're Only Lonely」・・・
が入っている3rdアルバム『You're Only Lonely』から、
敢えて今回はソッチをはずして、ニコレット・ラーソンに提供した
バラードナンバー「The Last in Love」をチョイス♪

いいメロだぁ。。。ニコレットver.のほうがピアノアレンジが好きだけど☆
ご本人ver.のほうが歌声にハマってる気がする☆☆







The Last In Love - You're Only LonelyThe Last in Love - J.D.サウザー
3rdアルバム『You're Only Lonely』 1979年





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【Re-Edit】 Just When I Needed You Most - Randy VanWarmer 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


Just When I Needed You Most






1983年9月13日(火)

「うわぁ! 『すご~い』――とまでは、いわないけどね」

ショウカは、「高欄(こうらん)」と呼ばれる太い丸太の手すりに手を置いて、山門の楼上(ろうじょう)を「グルッ」と一周している回廊から、さっきボクたちが辿ってきた石畳のほうを見下ろしている。

まばらに観光客の姿はあるものの、建長寺の広い境内には、いまだにほとんど人の気配は感じられない。山寺を覆うように森羅(しんら)する、老木たちの枝葉の隙(すき)を縫いながら、緑々しいほど鮮度を保った濃厚な空気を街のほうへと運び続ける海風が、山門の回廊に描き出された陰影のなかを、時折、激しく吹き抜けていく。

ボクのすぐ目の前に立ち、山門の正面に広がる音のない、ゆるやかな時間の流れを眺め続けているショウカは、霊験漂う鎌倉の、厳(おごそ)かで芳醇(ほうじゅん)な南風に、制服のスカートを、ひざのあたりでそよがせる。

ずっと胸元のウォークマンが再生してるバラードばかりを集めて作ったカセットテープは、A面最後に録音されたランディ・ヴァンウォーマーの「アメリカンモーニング(Just When I Needed You Most)」に差しかかっていた。清々しいアコースティックバラードの音色に重なる甘い歌声が、ここから眺める早秋(そうしゅう)の青空の色とほどよく似合う。

山門の二階を囲う回廊の正面側中央に設けられた「桟唐戸(さんからど)」と呼ばれる観音開きの木製扉に背中をもたれかからせてボクは座っていた。そんなボクの左側、メイは細い両脚を伸ばしたままで、長月(ながつき)にゆるぐ風を見つめる。田代はその向こうの角に立ち、ぼんやり下を覗き込んでいた。

何気なく見上げたボクの頭上には、四方を波模様の縁で装飾され、右側に「建長興」、左側に「国禅寺」と三文字づつ立体的に金色の文字を浮かばせる巨大な扁額(へんがく)が、ほんの少し斜め前方に傾いて、せり出すように掛けられている。

その扁額上部の両端が固定されている、ボクらを深い影で包み込むこの山門の巨大な屋根の軒下には、外周を二重に取り囲むよう、無数の垂木(たるき)が等間隔でビッシリと並んでいた。

そして壁面と軒とが交わる接合面には「斗栱(ときょう)」と呼ばれ、軒裏を水平方向にはしる横柱の荷重を受けるための四角い三つの斗(ます)と、その台座となる両端がカーブした肘木(ひじき)が組み合わさった部材が三組づつ、下から段々状に外側へと向かって組み込まれていた。その幾何学的な構造形状が、なんだか「ものすごく美しいな」と思った。

ボクのほうへと、しばらく小さな足の裏を見せていたショウカが、やがてこちらを振り返る。彼女の長い黒髪は、回廊の影を吹き抜けていく南風に撫でられながら、「ゆらゆら」そよぎ続けていた。

「さっき、田代君が『お金を取られた』って、いってたときにね、なんだか思い出しちゃったんだ。――むかしのこと」

ショウカは、突然、口元に小さなえくぼを浮かばせながらそういった。
ボクは右耳のヘッドフォンを外し、彼女を見上げた。そしておもわず、

「むかしのこと?」

と、聞き返す。
ショウカは、脚を斜めに折りながら回廊の上に座り込み、肩ひざを立てながら寝そべるように座っているボクの顔を見つめた。

「うん、アタシ、小学校2年のとき、横浜から転校してきたんだけど、それまでは、ずっとアメリカンスクールに通っててね、だからあまり日本語とかうまく話せなかったの。最初の頃は、『いい方が変だ!』とか『話し方がおかしい』ってバカにされてたんだけど、ある日、いっぱい集めてたキティちゃんのシールをね、クラスの女の子にあげてから、みんなアタシと仲良くしはじめてくれるようになったの」

そうささやくショウカを見つめ、ボクはなんとなくメイのほうへと視線を向ける。メイも座ったままで、ただ黙ってショウカの話を訊いている。

「――それからね、学校帰りに、よくみんなで文房具屋さんとかに行ったりしてね、アタシ、ほんとにいろんなものを買ってあげてた。――みんなすごく喜んでくれてたんで、アタシもすごい嬉しくなっちゃってね。けど、そのうちだんだんと要望がエスカレートしはじめて、『ぬいぐるみが欲しい』とか、『靴が欲しい』とかって、いい出してね。……そのたんびにお母さんにいって、それを買ってもらってから、友達にあげたりしてた。だって、みんなの喜ぶ顔を見るとね、アタシ、本当に嬉しくなれたから」

ショウカは懐かしむようにそういいながらも、小さな2つの瞳に寂しさを漂わせていく。

「――でも、ある日、友達が『自転車が欲しい』って、いってきて、アタシ、『さすがに自転車は、いま自分も持ってるから、すぐには買ってもらえないよ』って、笑いながらいったの。――そしたらね、『だったらアンタとはもう友達やめる』って、……いきなりその子がね、おっかない顔していってきた。アタシ、そんなの嘘だと思った。だって、いつもあんなに喜んでくれてたのに、たったそれだけのことで、……アタシが自転車を買ってあげないってだけのことで、『友達をやめる』って、いい出すなんて考えもしなかったから」

やがて、その小さな瞳にショウカは透明な涙を湛(たた)えはじめる。

ボクは、寝そべっていた状態から身を正し、ショウカの前であぐらをかくよう座りなおした。少し離れたところにいるメイは、なにもいわずに、うっすらと目を細めながらショウカの横顔を見つめていた。

【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.05.13 記事原文】

「ランディ・ヴァンウォーマー」って言われても「誰だっけ?」となるでしょう。
「アメリカン・モーニング」って言われて「ん?何だっけ?」くらいですかね?

まぁ、聴けば「あっ!コレね!」という感じでしょうか?
たしか何かのCMで流れてましたね♪


ランディ・ヴァンウォーマーが1979年にリリースした
1stアルバム『Warmer』 から、爽やかな初夏にピッタリのナンバー
「Just When I Needed You Most」をチョイス♪

何故か邦題は「アメリカン・モーニング」ですケド・・・
歌詞の内容からすれば、全くそんな抽象的なイメージを歌ってませんが・・・
単に「ものすごく一緒いて欲しいのに、ある朝、彼女が出て行った」というだけの話です☆

ボクはこのアルバムを持ってないので、
さっきAmazonで視聴しましたが、
まぁソコソコな作品ではないでしょうかね?






Just When I Needed You Most - Just When I Needed You MostJust When I Needed You Most - ランディ・ヴァンウォーマー
1stアルバム『Warmer』 1979年




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【Re-Edit】 Still - The Commodores 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


Still





1983年9月13日(火)


マレンと過ごした日々の記憶は、日常のほんの些細な光景さえも、ほとんどすべてが薄いフィルム状に記録され、一枚一枚積み重りながらボクの心のどこかにしまわれている。

きっといままで生きてきた14年間の人生で、心に焼き付けられたありとあらゆる彼女以外の想い出なんかより、マレンの面影が映し出されるたった一年分の記録映像のほうがはるかに膨大で、ときどき心のなかで勝手に再生されはじめてしまうそれらの映像は、いつだって、なんだかやけに青みがかって見えるんだ。

その青さは、そのときボクが彼女に抱いた感情をあらわしている色なのだろうか? 
青、――はたしてボクはあの頃、心でなにを思いながら彼女と過ごしていたのだろう?

(そういえば、すっかり蝉の声がしなくなったな)
ほんの数週間まで街の空気を振動させ続けていた「夏の風物詩」が、潔く鳴りやんだ深緑の影をボクは見上げた。――

やがて鎌倉学園の正門の奥に、カーキ色した壁に囲われた建長寺の外門(天下門)が見えてくる。ほとんど記憶にないだけのことで、実際、ボクは小学校の遠足や、七五三ついでに何度か鎌倉の寺院巡りをしてはいる。

記念写真に残された鶴岡八幡宮と鎌倉大仏以外、ほかの寺院のことなんて、本当によく覚えてないけれど、唯一、建長寺だけは、うっすらと記憶のどこかに、その映像が残されてたんだ。たしか、長い石階段があって、そのずっと上のほうに天狗だかの彫刻みたいなのがあったような、――

ウォークマンからは、ライオネル・リッチーがソロに転向する前まで所属していたソウルグループ、コモドアーズの「スティル(Still)」が流れている。

70年代の終わりにリリースされたこの曲をボクは、リアルタイムで聴いたことがないけれど、ダイアナ・ロスとデュエットし、数年前に大ヒットしたバラードナンバー「エンドレス・ラブ (Endless Love)」にも通じる、美しいストリングスのアレンジが印象的なソウルバラードだ。

最近は、すっかりシンセサイザーでストリングスみたいな音を鳴らすような音楽ばかりが目立つようになってしまっているけれど、そうした奥行きのない音楽に、本当の弦楽器が奏でる強弱やビブラートなんてものは当然ながら表現できるはずもない。つまり所詮はまったく情感が篭っていない、単なる機械の音なのだ。そんな平べったい音になんて、人の心は決して動かされやしない。――ボクは、「スティル」を聴いてるうちに「いつか、この旋律をピアノで弾いてみたいな」と、なんとなく思った。


外門を通り抜けると、そこは建長寺の専用駐車場になっていた。すでに何台かの観光バスが停車している。

「なんかさぁ、なんとなく興醒めしちゃうわよねぇ。この人工的な景色、――」

そういって、林ショウカは口元にえくぼを浮かべた。

「まぁ、仕方ないんじゃない? 北鎌倉あたりは、そもそも駐車場なんてほとんどないような場所だからさ」

と、いって、ボクはヘッドフォンを外す。すると、――

「シーナ」

と、うしろから、田代が小さな声でボクの名を呼んだ。おもわず振り返ると、

「悪いんだけど、……いくらか貸してくれないか? 必ず明日返すから」

田代はそういって、ボクの顔を一瞬、「チラッ」と見つめた。

「あぁ、そういえば、結局、アイツらから金を取り返せなかったんだもんな。まぁ、オレもそんなに持ってないけど、別にいいよ」

ボクが制服の内ポケットを探り、財布を取り出そうとした、そのとき、――

「いいよ、シーナ君。アタシが出すよ」

ボクの隣でショウカが笑った。そして田代の前まで歩いていくと、

「さっき、あの不良たちからお金を取り返せなかったのは、半分、アタシのせいなんだし、それに今日、お母さんから、かなりお小遣いもらってきてるからさ」

驚く田代を見つめながら、ショウカは微笑み、カバンから茶色いブランド物の財布を取り出した。そして一万円札を引き抜くと、

「別に返さなくてもいいよ」

そういって、田代のほうへそっと差し出す。ボクとメイは黙ったままで、そんな2人の姿を見つめていた。すると、田代が小さな声でつぶやく。

「いや、――いいよ、林さん」

そしてボクのほうへと、相変わらずの鋭い視線を送るなり、

「シーナ、2000円くらい貸してもらえるかな?」

と、ふたたび小声で頼んできた。ボクはなにもいわず、財布のなかから2000円を抜き出して、田代に手渡す。札入れを覗き込むと、残りもちょうど2000円しか入ってなかった。

「えぇ? なんで? 別にアタシが払うっていってるんだから、いいでしょ?」

ショウカは、少しだけ「ムッ」としながらそういう。

すると、田代はショウカを見つめ、珍しくはっきりとした口調でつぶやいた。

「林さん、……そのお金は林さんが自分で稼いだものじゃない。林さんのお父さんが稼いだお金だ」

「それってさぁ、どういう意味なの? だからなによ! せっかくアタシが、――」

と、おもわずショウカが顔色を変えた、すると、――

「ショウカ、――田代君のいってることは間違ってるの?」

メイは切れ長の二重まぶたを細め、静かにその薄い唇を動かす。その涼やかな瞳を、少し唇を尖らせながら見つめ返したショウカに、メイはそっと優しく微笑みながら、

「ショウカが善意でそういってるのは、ちゃんとワタシにもわかってる。けれど、そんなふうに軽々しく誰かにお金をあげてはいけないと思うの。そんなふうにして、なんの理由もなくお金をもらっても、相手の人は決して喜んだりしない」

メイが静かにそういうと、しばらくショウカは黙っていたが、やがて右手の細い指先で風にひらめく一万円札紙幣をじっと見つめ、

「じゃぁとりあえず、ここの拝観料くらいはみんなの分を払わせて。さっき、アタシのせいでみんなに迷惑かけちゃったんだから、……そのくらいならいいでしょ?」

と、いい残し、そそくさと総門のほうへと駆け出した。ショウカのうしろ姿を見つめるメイと田代の横顔にボクはささやく。

「まぁ、いいんじゃないの? 拝観料くらいだったらさ。オレも一応、さっき林さんのことを助けたんだしね」――

総門をくぐり、すでにみんなの拝観料を支払っていたショウカから拝観券を手渡されると、左右にさほど背の高くない中低木の樹々が植えられた石畳の通路をボクらは歩きはじめる。両側の桜の木立に茂る枝葉の向こうには巨大な山門(三門)の屋根が見えている。建長寺の山門は、さっき円覚寺で見たものと比べ、構えも造りもどことなく重厚で、ひとまわり以上大きいようにも思えた。

何本もの円柱状の支柱で支えられ、吹き抜けとなっているその山門一層目を見上げつつ通り抜けると、左側奥の四本の支柱で囲われている部分から上階へと、急な『のぼり階段』が続いていることに気づく。

この山門一階吹き抜け部の支柱構造は、縦方向へ伸びる円柱のあいだを、ボクの背丈ほどの高さで横方向へとはしらされた横柱が補強材としてつないでいる。――

「楼上(ろうじょう)」と呼ばれる、山門の二階へ行くためには、まず、その横柱に渡されている床板に、『茶室のにじり口』程度の四角く開けられた開口部から、垂直に近い角度の階段を数段のぼる。そして、わずかなスペースしかない床板から、さらに上階へと続く、手すり付きの階段をのぼっていくみたいだった。

「これって、上にあがれるのかな?」

ショウカは山門を見上げながらつぶやいた。

「まぁ、階段があるってことは、のぼれるんだろうけどね」

ボクがそう答えると、

「じゃぁ、ちょっとのぼってみようよ!」

そういってショウカは、ボクらのほうへ「ニコッ」と微笑み、両頬にイタズラっぽいえくぼを浮かばす。ボクがメイに目をやると、メイはひとりで山門の濃墨(こすみ)色した影のなか、白く掠(かす)れた枯れ色の支柱を覆う染みを見ていた。――






【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.19 記事原文】

最近、問題児な娘ニコールが大いにハリウッドゴシップ誌を賑やかしている
ライオネル・リッチーがメインヴォーカルを務めていた「コモドアーズ」。
彼らの1979年のシングルヒット「Still」をご紹介。


ソウルバラードを代表する珠玉のナンバーです。






Still (Single Version) - Lionel Richie: The Definitive CollectionStill - コモドアーズ
アルバム『Midnight Magic』 1979年



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【Re-Edit】 Hard To Say I'm Sorry - Chicago 【80年代バラード】

【Re-Edit】【80年代洋楽バラードの名曲】


Hard To Say I'm Sorry




1983年9月13日(火)

ボクたちは結局、円覚寺には戻らずに、坊主あたまたち5人の不良学生と決闘を繰り広げた駐車場を出ると、そのまま横須賀線の線路を右手に見ながら鎌倉駅のほうへと向かう。このまま行けば、やがてその細いわき道は、交通量の多い「鎌倉街道(県道21号線)」と丁字(ていじ)状にぶつかるはずだ。

子供の頃、七五三で鶴岡八幡宮へ行った帰りなど、何度かこの道を車で通った覚えはあるが、海沿いの国道134号線から鶴岡八幡宮の参堂に沿って北上し、北鎌倉駅前で横須賀線と並走するように大船駅方面へと通じる鎌倉エリア随一の主要道路ということもあって、当時からこの鎌倉街道は週末などには大渋滞することで有名な道だった。

左右に歩道を配した、さして広くもない二車線道路に突き当たると、ボクたちは鶴岡八幡宮の裏手のほうまでなだらかに続いてゆく、そんな鎌倉街道の坂道をのぼりはじめた。いまはまだ平日の午前中ということもあり、この坂道にそれほど多くの観光客の姿は見受けられない。

林ショウカと李メイは、ボクの少し前を並んで歩き、ボクの数歩うしろを田代ミツオがついてきていた。山向こうの海から鎌倉街道を這うようにして穏やかな南風が絶えず吹き流れてくる。

さっきの駐車場を出てからしばらく経つが、4人のあいだで会話らしい会話などは、その後、ほとんど交わされていない。ただ、ときどきショウカがうしろを振り返っては、ボクのほうへ何度か微笑みかけたりしている。そのたびに、メイもボクのことを涼やかな眼差しで見つめた。ボクは、ショウカの長い黒髪と、メイの肩先で揺れる少し茶色いうしろ髪がふんわり風にそよぐさまをぼんやりと見つめながらウォークマンを聴いていた。湿度が低いせいもあり、木陰に入るとそんな柔らかな南風さえも、なんとなくひんやり感じられる。

基本的には左右ともに一般住宅が建ち並ぶこの通り沿いにも、小さな店舗が「ポツポツ」と点在してはいたけれど、北鎌倉の駅のほうから鎌倉方面へ向かう観光客で連日賑わう目抜き通りのわりに、飲食店や土産物を売ってるようなお店の数があまりにも少ないように思える。

そういえば、さっきは、不良連中に走って逃げられてしまったので、結局、田代が取られたお金を取り返すことができなかった。ボクがサシでやり合った坊主あたまの野郎には、負けこそしなかったものの、最初に蹴られたわき腹がまだなんとなく痛むし、それ以上に田代の大きな顔面を殴ったときの右手首が「ジンジン」と疼(うず)いている。なんだかものすごく無駄なことをしたような気分だった。ショウカはときどきうしろを振り返り、ボクに微笑みかけていた。そのたびに、メイもボクのことを涼やかな眼差しで見つめた。

ヘッドフォンからは、去年、アメリカのロックバンドのシカゴがリリースし、大ヒットした「素直になれなくて(Hard To Say I'm Sorry)」が流れている。――心の奥底をくすぐられるような、この淡くノスタルジックなピアノの旋律を、中2の夏休みに入る少し前まで、ボクは学校から帰ると、よく応接間で弾いていた。そして、この曲をなんとなく弾きこなせるようになった頃、ボクは川澄マレンと付き合いはじめたんだ。

いつだったかな。――学校帰りにマレンがボクの家へ遊びにくるようになった、とある土曜日の午後。両親が留守のあいだに、ボクはこの「素直になれなくて」を彼女の前で一度だけ弾いたことがあるんだ。そのときマレンは大きな瞳を輝かせ、大喜びでその演奏を褒めてくれてたな。たかだか一年ちょっと前の出来事なのに、なぜだろう、――なんだかあの日の情景が、青い靄(もや)が揺らめくような時間の流れの、ずっとずっと遠くのほうで、映し出されているように思えてしまう。

マレンと過ごした日々の記憶は、日常のほんの些細な光景さえも、ほとんどすべてが薄いフィルム状に記録され、一枚一枚積み重りながらボクの心のどこかにしまわれている。

きっといままで生きてきた14年間の人生で、心に焼き付けられたありとあらゆる彼女以外の想い出なんかより、マレンの面影が映し出されるたった一年分の記録映像のほうがはるかに膨大で、ときどき心のなかで勝手に再生されはじめてしまうそれらの映像は、いつだって、なんだかやけに青みがかって見えるんだ。

その青さは、そのときボクが彼女に抱いた感情をあらわしている色なのだろうか? 
青、――はたしてボクはあの頃、心でなにを思いながら彼女と過ごしていたのだろう?

(そういえば、すっかり蝉の声がしなくなったな)
ほんの数週間まで街の空気を振動させ続けていた「夏の風物詩」が、潔く鳴りやんだ深緑の影をボクは見上げた。――



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】




【2012.03.21 記事原文】

さて。ピーター・セテラといえば、やっぱしシカゴの歴史的バラード
「Hard To Say I'm Sorry(素直になれなくて)」ですよね♪

ボクが中学生の頃の風景が鮮やかに蘇る名曲。


でも…シカゴは、さほど売れていなかった頃のほうが好きだな。






Hard to Say I'm Sorry / Get Away - Chicago XXVIHard To Say I'm Sorry(素直になれなくて) - シカゴ
アルバム『Chicago 16』 1982年



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【Re-Edit】 Have You Ever Seen The Rain? - Creedence Clearwater Revival 【70年代ロック】

【Re-Edit】【70年代洋楽フォーク・ロックの名曲】


Have You Ever Seen The Rain?






1983年9月13日(火)


よそ見をしていたボクのみぞおちに、正面から坊主あたまの右ひざが突き刺さる。さっき蹴られた肝臓の痛みが、まだ完全におさまってなかったところへ、不意打ちで胃を突き上げられ、おもわずボクは前かがみとなった。――が、すぐ目の前に見えた坊主あたまの左ひざにそのまま組みつくと、前傾姿勢のまま倒れ込むようにし、体当たりを見舞う。

うしろにひっくり返った坊主あたまの上にそのまま覆いかぶさると、ボクは両手を握り合わせるや、真上から顔面めがけて鉄槌を二度振り落とす。最初の一撃が、どうやらコイツの左眼付近に当たったらしく、坊主あたまは片目を何度も瞬(しばた)かせ、両手を交差させながら「X」を描くように、みずからの顔を隠した。

隠しきれずにむき出されたコイツのあごや唇あたりをめがけ、ボクは下からアッパーでえぐるように、――上から鉄拳を打ち下ろすように、左拳を何発も打ち込んでいった。

どうやらさっき田代を殴ったとき、右手首を傷めてしまったらしく、まだ左手しか使えなかったんだ。

やがて、坊主あたまからまったく戦意が感じられなくなると、馬乗りのままで、さっきショウカのまわりを囲んでいた2人の男子生徒を睨みつけ、

「おい! もし、その子になにかしたら、あそこにいる『サウス』の元リーダーが、今度は本気でキレるからな!」

そういって、ボクは鋭い目つきでこっちを振り返った田代のほうを指差した。

(しっかし、ホントに目つきだけは相当ヤバいな。アイツ、……)

はたして、『サウス』という響きにどれだけ神通力があるのかなんてわからなかったけど、一か八かでハッタリをかましてみたんだ。

坊主あたまにうしろから蹴られた、わき腹へのミドルキックが、なんだか思いのほか効いてるらしく、まだ、まともに呼吸すらできないほどのダメージが残っているうえに右手首も痛くて使えない。とてもじゃないけど、さらに残りの3人を、いまからボクひとりで相手にできるような状況ではない。田代にも少しは期待してみたけれど、おそらくアイツは専守防衛に徹し、さっき見舞った頭突きの一撃くらいしか繰り出せないような気がする。

すると、うしろでショウカが甲高いアニメ声で叫ぶ。

「そうよ! 『サウスのシーナ』を知らないの?」

(ん? それだとちょっと誤解を招くんだけど、……)

駐車場でうずくまる2人以外の無傷の3人が、一瞬、顔を見合わせる。
そして、誰かが小声でつぶやいた。

「『サウスのシーナ』って、『シロ(ホワイト・クラッシュ)』の清川とかとツルんでるヤツだろ?」

コイツらが清川のことを知ってたことにボクはなんだか「ホッ」とする。『サウス』のことはさておいて、少なくとも横浜のあたりまで『ホワイト・クラッシュ』の特攻である清川の名前は知れ渡ってる。こうして3人の男子生徒を少なからず狼狽させるだけの効果が、清川の名前の響きにはあったんだ。

けれど、田代を『サウスのシーナ』だと勘違いされてるってことには、ちょっとだけ不満が残った。まぁ、かといってこんな状況じゃぁ、いまさら訂正する気もないけれど、……

ボクは坊主あたまの体の上から離れ、動揺する不良学生の向こう側に立っていたショウカの右腕を引っ張った。彼女の小さな体をボクの背中へと隠し、ゆっくりと彼女を囲っていた2人の学生のほうへ近づいていこうとしかけたそのとき、――

突然、駐車場の裏手に建つ民家のガラス窓が開き、そこの住人らしきおばさんが怒鳴り声をあげた。

「あんたたち! いい加減にしないと、もうすぐ警察がくるよ!」

それを聞いた途端、無傷の3人は、慌てて坊主あたまたちを抱え起こし、そのまま足早に駐車場から逃げ去っていった。

(そんなにサツが怖いのかよ! ダセぇヤツらだな)

連中が去っていくうしろ姿を見つめながら、ボクは100メートル走を終えたばかりの選手みたいに両ひざを掴みながら前傾姿勢となり、肩で息をしはじめた。まだわき腹のあたりが疼き、呼吸もままならない。やがてゆっくりとメイがボクのほうへ近づいてくるのがわかった。前かがみのまま、わき腹を押さえて彼女のほうへ目をやると、メイは目を細めうっすら微笑んで、

「それじゃぁワタシたちも、――早く逃げよう」

と、ささやきながら、ボクの顔の前に、透き通るほど白い右手を差し出した。
少しだけ躊躇(ためら)って、ボクはその手をそっと握り締めたんだ。――



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.21 記事原文】

桑田さんのカヴァーといえば。。。
何かのCMで使われてたCCRの「雨を見たかい」は良かったね♪


KUWATA BANDもいろんなカバー歌ってたが、
この曲が一番だったかも???

ですので本家の「Have You Ever Seen The Rain?」を選曲♪♪






Have You Ever Seen the Rain - Chronicle - The 20 Greatest HitsHave You Ever Seen The Rain? - クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル
6thアルバム『Pendulum』 1970年




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【Re-Edit】 The Other Side - Aerosmith 【80年代ロック】

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The Other Side






1983年9月13日(火)

円覚寺の総門を出て、横須賀線の線路沿いまで石段を下りてくると、北鎌倉の駅のほうに目を向ける。けれど、そこにショウカと田代の姿はない。逆側を振り返ってみたけれど2人の姿は見当たらなかった。

「どこ行ったんだ? あの2人は」

とりあえずボクたちは、線路に沿って早足に、駅とは逆方向へ向かって歩き出す。しばらく行くと、左手に山を抱えて建ち並ぶ住宅のあいだに駐車場らしき空き地が見えてきた。

ボクとメイが、その入り口まで辿り着くと、駐車場の奥のほうで、こっちに背中を向けている別の学校の不良っぽい生徒たちに壁際へと追い込まれ、田代が肩をすぼめて縮こまっている。その隣では、ショウカが子犬のように「キャンキャン」と、可愛らしく甲高いアニメ声で相手の生徒たちになにかを叫んでいた。――

ボクは相手側の人数を目で数えた。どうやら向こうは5人いる。メイはうっすら瞳を細め、ショウカたちのほうへ涼やかな視線を向けていた。やがて、相手の不良学生のひとり、――坊主あたまをしたヤツが田代の襟を掴みあげると、田代は亀のように首をすくめ、詰襟(つめえり)に、下あごの肉を食い込ませた。

その坊主あたまの不良学生は、田代の寸胴な体をうしろへ押そうとしているようだが、見た目以上に体重があるせいか、田代はほとんど微動だにしないまま、あごで前襟を隠すようにひたすら首を縮ませ続けていた。

いずれにしたって相手は5人、――どいつもこいつもボクら以上に喧嘩慣れしてそうな雰囲気を背中に漂わす連中ばかりだ。それに田代が戦力になる可能性もほとんどない。ボクが、5人相手にやり合ったところで、絶対に勝てやしないだろう。

ボクはメイの色白の横顔を見つめた。きっと決めて欲しかったんだ、彼女に、――「あの連中と殴り合いをすべきかどうか」の決断を。もしここで、メイがどうしても「2人を助けろ」というのであれば、きっとボクは恐怖心などいっさい感じることなく、後先のことを考えることもなく、無心でヤツらに殴りかかれるような気がする。なぜなんだろう、……けれど、なんとなくそんな気がするんだ。もしメイが、そういうのであれば、――

2名の男子生徒がショウカを取り囲むように「ジリジリ」と彼女のほうへ近寄っていく。この場所から見ていても、ショウカの表情や口調にさっきまでの威勢は、もはやまったく感じられず、小柄な彼女の体がいっそう小さくなっていくのがわかる。

けれど、なぜかそのとき、ボクは相手の学生連中のほうではなく、押し黙ったまま、じっとうつむき、制服の襟をただ掴まれているだけの田代に対して激しい憤りを覚えはじめていた。

いや、――気づくと、すでにボクは田代に向かって駆け出していたんだ。走り寄るその大きな足音に振り返る不良学生たちの背中に向かってボクは叫ぶ。

「どきやがれ! テメェら」

まるで舞台の幕みたく、2人づつ左右へ分かれたその奥で、田代の前襟を掴んだまま、肩越しに振り返った坊主あたまの制服を、おもいきり両手で鷲掴みすると、ボクはそのまま一気にうしろへ引き倒した。

「なんだテメェ!」

ショウカを取り囲んでいた不良学生のうちのどちらかが、ボクの背中にそう叫ぶ。けれどボクはその声を無視し、肩をすくめて突っ立ている田代のほうへにじり寄る。

「なにやってやがんだ! おめぇはよぉ!」

と、叫ぶや、ボクはおもいきりその大きな顔面めがけて右拳を打ち込んだ。

田代は一瞬、右側へ少しグラついたが、直立不動の姿勢は変わらず維持されたままだった。逆にボクの右手首のほうへ、まるで巨大な岩石でも殴ってしまったかのような重たい衝撃が伝わる。その場にいた不良学生たちも、そんな予想外の事態に、一瞬、動きが止まる。

「シーナ君!」

ショウカの甲高い叫び声が聞こえた。

けれどボクは彼女の声すら無視し、田代の胸元を左手で掴むと、うしろのコンクリートブロック製の壁のほうへ、ひじであごを持ち上げるようにしながら押していった。

(しっかし……なんでこんなに重たいんだ! コイツ)

そうは思ったが、田代も抵抗することなく、そのままうしろへ一歩づつ後退していった。

目を伏せる田代の大きな顔を間近で睨み、ボクは小声で吐き捨てた。

「おめぇはよぉ、林さんのことを守りもしねぇで、さっきからその自分のデケぇ図体(ずうたい)ばっか守ろうとしてるみてぇだけどな、そんなもん守ったからって、なんか得することでもあんのかよ?」

相変わらず目つきだけは鋭いくせに、目力もなく弱々しい視線をボクへと送る田代に向かって、さらに顔を近づかせながら言葉を投げつける。

「彼女はお前のために、アイツらから金を取り返そうとしてくれたんだろうが! なのに、おめぇがなにもしねぇで、ただ『ボーッ』と突っ立てるだけでどうすんだよ!」

さっきボクに引き倒された坊主あたまの学生が、背後で立ち上がる気配がした。――と、同時に、

「クソガキがぁ!」

そういって、背後からボクの右わき腹へ、強烈なまわし蹴りを食らわせてきた。

無防備なまま、肝臓を直撃された痛みに苦悶し、呼吸も詰まったけれど、ボクは顔をしかめながら田代に告げた。

「――殴ろうとしなくていい。そんなもの、どうせまともに当たりやしない、……もし今度、襟でもつかまれたら、とにかくそのデケぇあたまをよぉ、おもいっきり相手の鼻先にぶち込め! 勢いよくお辞儀するように、な」

そういい終えると、ボクは反動をつけるように右回転し、握り締めた左拳をバックハンドブロー気味にぶんまわす。小指側の側面が水平チョップ気味に、坊主あたまの左即頭部をかすめた。けれど、大してダメージは与えられず、坊主あたまは左手でまゆのあたりを押さえ、

「おもしれぇ」

と、不敵に笑うや、すぐさま胸元に掴みかかってきた。

ショウカが立っているほうとは反対側にいた2人の不良学生が田代へ近づき、分厚い胸元を突き飛ばす。そのうちのひとりが田代の襟を掴んだ瞬間、――ボクは叫んだ。

「おもいっきりお辞儀しろ!」

「ゴッ」と、鈍い衝撃音をこもらせ、田代のデカいあたまが、真正面から相手の鼻骨あたりを直撃する。その男子学生はうしろへ大きく上体を仰け反らせたあと、鼻を押さえ、正座をする要領で両ひざから地面へ崩れた。

ここから見ていても、相手の鼻骨を叩き潰したのがわかるくらい、それはあまりにも凄まじいヘッドバットだった。きっと相手の脳にも相当なダメージを与えたことだろう。もうひとりいた学生は、田代のその強烈な一撃を目の当たりにし、完全に戦意を奪われしまっているみたいだった。



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.24 記事原文】

前作『Permanent Vacation』で、完全にメジャー返り咲きを果たした
エアロスミスの10thアルバム『Pump』から、
タイラーの唸りにジョー・ペリーのギターがねっとり絡む
イカしたロックナンバー「The Other Side」をどうぞ♪



ジョー・ペリーかっこいいなぁ。。。






Dulcimer Stomp / The Other Side - Pump (Remastered)
The Other Side - エアロスミス
10thアルバム『Pump』 1989年

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【Re-Edit】 I Might Lie - Andy Taylor 【80年代ロック】

【Re-Edit】【80年代洋楽ロックの名曲】


I Might Lie

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I selected "I Might Lie"
from 1st album "Thunder"
of Andy Taylor released in 1987.



1983年9月9日(金)

「おめぇよぉ! 早く食えよ。残すと先生に怒られるぞぉ」

そんな谷川の甲高いダミ声が、なんだかものすごく気に障った。クラスの何人かの生徒たちは、そんなミチコを見ながら「クスクス」と笑う。そう、――クラスのヤツからしてみれば、それは別になんら特別な光景などではない。多少、度が過ぎたかどうかという程度の、いつもと変わらぬ、ごくありふれた日常の風景なのだ。

「いいから早く食えよ! 『ゴミ女』よぉ、テメエはゴミだけ食ってりゃいいんだよ! ゴミが主食なんだろうがよぉ」

谷川グループの連中は、その言葉につられて一斉に大爆笑した。


小山ミチコは、そのつぶらな瞳から大粒の涙を流しはじめている。泣きながら、谷川たちに振りかけられたその鉛筆の削りカスを避けるようにし、震える箸の先を弁当箱のほうへと近づけていく。

「みんなも見とけよ! コイツがちゃんと食うとこをさぁ! おい、せっかく『ふりかけ』をかけてやったんだから、とっとと食え! この『ゴミ女』」

ふたたび谷川はそういって「ギャハハ」と笑った。
ミチコが白いご飯を、箸でほんの少しつまみあげる。彼女の頬を伝う大粒の涙は、一向にとどまる気配を見せぬままだ。

(やめろ! そんなもの食べるな!)

ボクはいままで彼女が泣いている姿を、この教室のなかで見たという覚えがない。谷川たちから、どれだけ毎回、ヒドいイジメを繰り返し受け続けようとも、彼女はいままで一度も泣いたことなんてなかったんだ。

痛々しいほどに嘆き哀しむ、そんなミチコの泣き顔を見ているうちに、なぜだかマレンと最後に会った日のことを急に思い出しはじめる。――薄曇りの鎌倉の海岸で、あの日、無意味な言葉をひたすら吐き出し、マレンを傷つけてしまったことに対する激烈な後悔の想いが、なぜか一気に心のなかで膨れあがっていったんだ。

――あのとき、ボクらの終焉を覚悟したマレンが、瞳に浮かべた哀願色のせつなさと、さっきからミチコがこぼし続けてる、秋時雨のように儚(はかな)げな涙の色とが、時空を超えてボクの心のなかで重なり合う。

(コイツら狂ってる、……お前ら、……いったい、――)

「おめぇら! いったい、なにがそんなに面白ぇんだよ!」

ボクはそう叫び、机を蹴飛ばし立ちあがる。すぐさま椅子をひっくり返すやスチール脚を握り締め、ゆっくり谷川たちのほうへと向かっていく。グループのメンバーたちが一斉にこちらを振り返った。やがて、斜(しゃ)に構えて座っていた谷川の前でボクが立ち止まると、

「なんだよ! おめえはよぉ」

そう篭(こも)った調子で脅すようにし、谷川は下品な怒鳴り声をあげた。
そう、――これが中学3年ではじめて一緒のクラスになってから、最初に面と向かってボクに対していい放った記念すべきコイツの第一声だ。

(相変わらず、気分が悪くなるような品のねぇ声をし出しやがる)

ボクは、椅子を両手で掴みなおすと、そのまま大きく振りかぶり、谷川の左肩あたりに横からおもいきり叩きつけた。その椅子を黒板のほうへ放り投げ、「ウワァッ!」と、大声をあげた谷川の襟首を右手で掴むなり、座ったままの状態で椅子ごとうしろへ引き倒す。

そして机のうえに置かれていた食べかけの弁当箱を手にすると、コイツの顔面めがけて力いっぱい投げつけた。顔から胸のあたりに、冷えて固形化したままの米の塊と、色味のないオカズが散乱する。

椅子ごと「九の字」にひっくり返っている谷川の右太ももをおもいきり蹴り飛ばし、さらにわき腹あたりにもサッカーボールを蹴るように何発かキックを放つ。悶絶するコイツの体へ馬乗りになると、制服の胸倉を掴みあげ、米粒だらけの顔を見下ろす。――そして小さく吐き捨てた。

「テメェ、なんならよぉ。いまから小学校の時のケリでもつけるか?」

まわりにいたグループのメンバーは、いったいなにが起こったのか、さっぱりわからないような表情を浮かべ、椅子に座ったまま動けなくなっている。米粒に顔を覆われている谷川も、ずっと苦悶の表情を浮かびあがらせ、押し黙ったままなにもいわない。両手で上から胸元を掴みあげ、谷川の上体を少し浮かせ、そのまま思いきり押しつけるように床へと打ちつける。

「ゴツッ」、――谷川の後頭部から鈍い音がした。さらにもう一度、コイツの上体を掴みあげ、背中を床へと激しく打ちつけた。顔をしかめる谷川の体の上からゆっくり離れて立ちあがり、ボクは無表情のまま、さっきまでこの連中が寄せ合わせていた机を次々と蹴り倒していく。

食べかけの弁当の中身が宙を舞い、床の上へと激しく飛び散る。床に転がるオレンジ色したウインナーを踏み潰し、ボクはつぶやく。

「あのよぉ、さっきオレのこと話してたのって誰?」

いまになって、メイのことを『アジアン』と呼んでたヤツのことが、なんだかどうしても許せなくなったんだ。

「お前か?」

慌てて椅子から立ちあがった谷川グループのメンバーのなかで、一番近くにいたヤツを睨みつけると、ソイツはすぐさま別の男子生徒のほうを指差す。

ボクは、その差されたヤツに近づいていくなり、間を置かず、真正面から鼻っ面を右ストレート気味に殴り飛ばした。首ごとあたまをうしろへ大きく反り返えらせると、その反動で男子生徒の体は前かがみに腰から折れ曲がる。「ポタポタ」床に垂れてきた鼻血を押さえて呻(うめ)くソイツの耳元で、ボクは、

「さっき寝てたんでよく聞こえなかったんだけどさぁ。もう一回いってくんないかな」

静かにそういい、さらに胸元のあたりを、おもいっきり左足の裏で蹴り飛ばした。

その男子生徒は、教壇の段差につまずきながら、もんどりうってうしろへひっくり返った。

「もう一回、はっきりいってくれよ。『アジアン君』――」

そういうとボクは、仰向けに倒れ込んだ男子生徒の右鎖骨のあたりを上から「グイグイ」踏みつけた。

「いえ、――別に」

その男子生徒は恐怖に顔を引きつらせ、床から「オドオド」ボクを見上げる。
うしろを振り返って、唖然とする残りのメンバーを眺めまわすと、ボクはふたたび口を開いた。

「あのさぁ、たしかもうひとりいたよな。さっきオレのこと話してたヤツが」

やがて彼らの顔からも一様に血の気が引きはじめ、だんだんと顔面蒼白になっていく。

「まぁ、いいや、――」

そうボクは、静かにつぶやくと、

「テメエらよぉ! 床の上の食いもん、ちゃんと残さず全部食えよな。残すと先生に怒られるんだろ?」

凍りつく谷川グループのメンバーたちに向かって大声で叫んだ。
さらに、起きあがろうとしている谷川を見下ろし、ボクは吐き捨てた。

「で、どうすんだ? いまから校庭でもいって、サシでケリつけるか? このクソ野郎!」

谷川は、上体を起こすと、しばらくは黙ったままでボクを睨みつけていたけれど、やがてうなだれ、わずかに首を一度だけ横に振った。

クラスのなかは「シーン」と静まり返ったままだ。
少し離れた場所に座っていた佐藤マキコや李メイたちも、おもわず驚きの表情を浮かべている。足元に転がっていたプラスティック製の弁当箱の蓋を蹴っ飛ばし、さっき、黒板のほうへぶん投げた椅子を手に、自分の席に戻ろうとしたとき、呆然(ぼうぜん)と、ボクを見つめる小山ミチコと目が合う。

自分の席に椅子を戻すと、座らずそのままミチコの横を通り過ぎ、ボクは廊下へ出て行った。――彼女の脇を通り過ぎたとき、ミチコが小声でなにかをつぶやいたようにも思う。

「ありがとう」――

なんとなく、そういってるようにも聞こえた。けれど、その声があまりに小さ過ぎたんで、もしかしたらボクの気のせいだったのかもしれない。
けれど別にお礼なんていらない。ミチコのためでもメイのためでもない。ヤツらのバカ騒ぎが、ただあまりにもウザかったから、――それだけのことだ。



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】


【2012.10.28 記事原文】

デュラン・デュランでのニューロマンティク系エレクトリック路線にちょい嫌気がさしたか、
ギターのアンディ・テイラー氏はベースのジョン・テイラー氏とともに「パワー・ステーション」
に参加し、「Some Like It Hot」や「Get It On」などのソリッドなロックナンバーに
おそらく従来から持っていたであろうロックスピリッツが触発されます。

その結果、アンディ氏はデュラン・デュランを脱退。
1987年にSexピストルズのギタリストであるスティーヴ・ジョーンズ氏をプロデューサーに迎え
ニューロマンティク系とは対極的なストレートなロックナンバーを散りばめた
1stアルバム『Thunder』をリリースするのですね☆

では、アルバムから最高17位を獲得した
メロディアス・ロックな名曲「I Might Lie」をどうぞ☆
スティーヴ・ジョーンズ氏とのギター競演がカッコいい!!

まさに80'sロックの流れを集約させたような1曲っすね☆
このサビのメロディラインは実に印象深いですなぁ・・・

アンディ氏のロックギタリストとしてのスタンスが見事に反映されたナンバーっす♪





I Might Lie - ThunderI Might Lie - アンディ・テイラー
1stアルバム『Thunder』 1987年




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Dont Stand In The Open






1983年9月9日(金)

川澄マレンがいなくなったこと自体、ボクの表面的な日常生活にはさほどの影響を与えていなかったように思う。けれど彼女がこの学校を転校してしまってからの空気の感触、――つまりはこの校舎のなかを漂う質量としての大気中の密度や、その重たさみたいなものには明らかな変化が生じていた。

夏休みが終わり、2学期が始まってからの、この学校を取り囲む空気感そのものが、なんだかやけに軽く感じられる。同時に、目に映る様々な風景のなかの色彩にもどことなく
輝度や彩度が欠落してしまっているような気がしてならない。

きっと普通に、竹内カナエや川上ナオなど、まわりの連中とは話をしていたはずだ。たぶん会話としてはそれなりに成立していたんだろうな、とは思う。けれど、なにを話していたのかまでは、まるっきり思い出すことができない。おそらくは、ほとんど思考を介すことなく、ただ反射的に最低限のコミュニケーションを、彼女たちとのあいだで成立させていただけに過ぎないのだろう。――

ボクのクラスには小山ミチコって女の子がいる。
背が高くて細長い手足の女の子だったけれど、肌の色は少しだけ浅黒く、髪の毛は天然パーマ。――まぁ大抵の場合、そういう子に付けられるあだ名は「黒人」だ。当然、彼女もクラスの連中からはそれに近いような感じでずっと呼ばれていた。

ボクは、中3で同じクラスになるまでの彼女のことはよく知らない。だけど中1のときから彼女が同級生たちに壮絶なイジメを受けてきたってことを、以前、誰かから聞いたような気がする。
別にイジメについては肯定も否定もしやしない。

ボク自身が、誰かをイジメたりしたってことは、少なくともこの中学に入ってからは一度もなかったように思う。だからといってイジメてる連中たちを注意したりもしない。
クラスの生徒たちにシカトされたり、男子生徒に蹴られたり、黒板消しをぶつけられたりしている小山ミチコのことも、ただ毎日なんとなく、ありきたりな風景のなかに透かしながらぼんやり見ているだけだった。


突然、うしろのほうで「ギャハハ」と、バカみたいにはしゃぐ大きな笑い声に、ぼんやりと机の上を見つめていたボクは、ふと我に返る。

「また谷川たちがさぁ。ミチコに水風船とかぶつけてるんだよ」

と、ボクの右隣で川上ナオが顔を近づけるようにしながら、そういった。
廊下側のほうを振り返ると、制服を水浸しにされた小山ミチコが、パーマのかかった前髪から水を滴らせてうつむきながら座っている。

ボクはしばらく彼女のことを、いつものように、ただなんとなく見つめていた。

このところボクは昼休み、ほとんどなにも食べていない。大抵の場合、ウォークマンを聴きながら寝ているんだけど、ついさっき、ボクのもっとも敬愛するロックボーカリストであるグラハム・ボネットが、おととしリリースしたソロアルバム『孤独のナイト・ゲームス(Line-Up)』を聴いている途中で電池が切れてしまった。

このアルバムには、史上最強のドラマーであるコージー・パウエルも参加しているけれど、正直、作品としてはロックというよりポップスみたいな曲が多いアルバムだった。中2の頃、10曲目に収録された「二人の絆(Don't Stand in the Open)」を、何度か「イウ」こと伊浦ナオトと一緒に弾いたことがある程度だろうか。

相変わらず窓側の前のほうでは、谷川たちのグループのヤツらが大きな声で喚(わめ)いている。けれど、いまのボクには苛立つ気力さえも起きなかった。

「知ってるか? シーナってよぉ。どうやら『アジアン』のこと好きみたいだぜ」

グループの誰かがそういった。

「あぁ。アイツって、こないだ女と別れてから、なんだか『アジアン』のこと狙ってるみてえじゃん」

「アジアン」――彼らがそう呼んでいるのは、李メイのことだ。いままで、そういう呼び方をしていなかったんだけれど、ここ最近、――特に夏休みが終わった頃から、ヤツらは彼女のことを陰でそう呼びはじめた。

それにしても、どうして「ボクがメイのことを狙ってる」とかいう噂が立ってしまっているのかはまったくわからなかった。まぁ、授業中、よくメイのうしろ姿を見つめているのは間違いないけれど、――ボクは机にうつ伏せのままで、ヤツらのそんな話し声を無視した。

(勝手にいってろ……)

すると連中はだんだんとヒソヒソ声になっていき、やがてその声すらも一瞬、しなくなる。そして、しばしの沈黙のあと、谷川たちの「ギャハハ」っていう、例の耳障りなバカ笑いがふたたび巻き起こった。

「おめぇよぉ、残さずちゃんと食えよ」

谷川の嘲笑を孕(はら)んだ、大きな罵り声が教室内にこだまする。

「な~に泣いてんだよ! キモいんだよ。おめぇはよぉ」

と、谷川は、相変わらず耳障りな大声をあげながら笑う。

(泣いてる?)

ボクは起きあがると、なんとなく小山ミチコが座っているほうを振り返る。ミチコは箸を持ったまま、小さな瞳に涙を溜めて机の上を見つめていた。彼女が泣きながら見つめる小さなお弁当箱のなかには、鉛筆の削りカスのようなものが山のように振りかけられていた。

「おめぇよぉ! 早く食えよ。残すと先生に怒られるぞぉ」

そんな谷川の甲高いダミ声が、なんだかものすごく気に障った。クラスの何人かの生徒たちは、そんなミチコを見ながら「クスクス」笑っている。

「いいから早く食えよ! 『ゴミ女』よぉ、テメエはゴミだけ食ってりゃいいんだよ! ゴミが主食なんだろうがよぉ」

谷川グループの連中は、その言葉につられて一斉に大爆笑した。


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】





【2012.03.17 記事原文】

レインボー脱退後、グラハムのソロアルバム「LINE UP」の収録曲。
当然、日本でカヴァーされた「ナイトゲーム」がこのアルバムの代表曲だが、
ボク的にはこっちが好き。

もうちょっとリズム早めて、ギターフレーズも
ハードに仕上げればカッコよかった気がする曲。



コージー・パウエル参加ということで結構期待してたのだが、
まぁ・・・ハードロックではないわなぁ。。。
歌謡ロックかポップスだと思えば宜しい。(笑)



Dont Stand In The Open - グラハム・ボネット
3rdアルバム『LINE UP』 1981年



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