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未来に残したい洋楽&邦楽の名曲

70~80年代の洋楽&邦楽を中心に未来に残したい名曲&名盤を独自にチョイスするBlogです☆
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グッドラック・アンド・グッドバイ - 荒井由実 【バラードの名曲】

【バラードの名曲】


グッドラック・アンド・グッドバイ





Epi-3

 1982年7月25日(日)
 朝の9時半頃

 日曜の朝、――

 ボクたち4人は地元の駅で待ち合わせる。斉藤ミツキはまだきてなかったけれど、川澄マレンと大野スミカはすでに駅前ロータリーに到着していた。マレンは小さな花柄がいくつも胸元に刺繍された白いワンピースを着ている。見慣れない私服姿の彼女に、少しだけ照れているのが自分でもわかる。

 だから、ちょっとだけ遅れてあとからやってきたミツキに対してその照れを隠すよう、あれほどムダに絡んでいったのだろう。――

 ホームで上り列車を待つあいだ、斉藤ミツキと大野スミカは、さっきから大笑いしながら2人だけで盛りあがっている。ボクの左隣には、線路の上にこぼれ落ちてく初夏の陽射しの揺らめきを静かに眺めるマレンがいた。

 うっすらと微笑んでいる彼女の視線のなかに、そっとウォークマンを差し出す。

「いまオレが一番聴いてるレコードって、これなんだけど」

 振り向いたマレンが、やがて不慣れな手つきでヘッドフォンを耳にあてると、ボクは早送りしておいたカセットの再生ボタンを掌(てのひら)のなかで押した。――きっと、もうすぐエリッククラプトンの「ワンダフル・トゥナイト(Wonderful Tonight)」の心地よいイントロのギターフレーズが聴こえはじめる頃だろう。

(彼女はどんな気持ちでこの曲を聴くのかな?)

 マレンは長いまつ毛で隠すよう、そっと目を閉じ黙り込む。彼女にとってもよく似合う、白いワンピースの裾(すそ)が夏色の風にそよぐたび、やんわり撫でていくように、ボクの左足をくすぐり続けた。――



「うん! すごくいい曲だねぇ」

 聴き終わるとマレンは静かに微笑んでヘッドフォンをボクへ手渡す。――それを受け取ろうとした瞬間、ほんの少し小指の先がマレンの細長い人差し指に触れる。反射的にマレンの大きな瞳に目をやったけど、彼女は特に気にする素振りもみせないで、「また今度さぁ、カミュの好きな曲とかいろいろ聴かせてね」と、ささやきながら「ニッコリ」笑った。そのとき、――数年ぶりに出会った彼女の瞳がこんなにも薄茶色かったんだってことを、ようやくボクは思い出したんだ。

――あの夏の日、

「流れ星に三回願い事をすれば、その願いが叶うっていうのは有名だけどね、――『好きな人と2人きりで、流れ星を一緒に見ると、その人と結婚できるんだ』ってね、誰かに聞いたことがあるんだ」

 ボクがそういうと、マレンは大きな瞳を輝かせ、少しだけその小さな口元を微笑ませる。――やがて「ニッコリ」笑ってささやいた。

「だったら楽だね。流れ星に願うことなんて、きっと、みんなそれくらいしかないもんね」

 そして静かに言葉を続けた。

「じゃぁさぁ、もしカミュと一緒に流れ星見たらさぁ、あたしたちっていつか結婚しちゃうのかな?――」

 そう、小学校4年の夏休み、スイミングスクールのキャンプで行った山のなかの草原で、あの夜、ボクはマレンの潤んだ瞳のなかに「キラキラ」と映し出された、星空の輝きをたしかに見ていた。

(あの頃のマレンときたら、まるでモンチッチみたいに短い髪の毛をしちゃっててさぁ、それに、……それに、――)


 傾斜のついた天井が細長く初夏の陽射しを、遥(はる)か向こうのほうまで遮(さえぎ)っていた。まだ、さほど人の気配が感じられないホームのなかは、薄墨色(うすずみいろ)のゆるやかな影に覆われている。吹き抜けていく心地よい真夏の涼風に、長く伸びたマレンの黒髪がキレイになびく。

 電車の到着を待つわずかな時間、まだショートカットだったスイミングルスクール時代の彼女の面影を、ボクがその風のなかに思い出すことなどはもう二度となかった。――――





グッドラック・アンド・グッドバイ - 荒井由実
4thアルバム『14番目の月』 1976年



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【Re-Edit】 そして僕は途方に暮れる - 大沢誉志幸 【ポップスの名曲】

【Re-Edit】【Rakiのカラオケソング/ポップスの名曲】


そして僕は途方に暮れる






Rakiより。
ご無沙汰しております。諸々雑用にてブログ更新が滞ってしまってます。。。
思えば、ボクがなんちゃって小説を書き始めたのが、ちょうど去年の今頃だったとおもいます。
あれから一年、終わってみれば(まだ終わってないですけど)原稿用紙2000枚超えのとんでもない長編になっておりました。――現在、校正しなおし作業の真っ只中ですけどもねぇ。しばらくは校正用にこのブログを使っていくので、見れない記事もあろうかと存じますが、その辺はご了承ください。
まぁ、いまのところ、どうにか書籍化を目指して、日々努力しております☆

そんなこんなで校正が完了した順に、ランダムですが作品記載していこうと思います。まずは冒頭部分をどうぞ☆



Epi-1
序章『残響(Reverberation)』

 遥(はる)か大洋の彼方から届けられた春風に、一瞬、潮の芳香(ほうこう)が漂う。――――

 その微かな香りは、無味無臭な静けさに支配され、どこか無機質な厳冬の余波(なごり)を沸々(ふつふつ)大地から生まれし希望の息吹きが上空へと押しやる初春(はつはる)の兆し。――柔く漂う、そんな早春の風のなかに、淀み穢(けが)れた晩夏の余韻を浄化してゆく金木犀(きんもくせい)ほどの鮮烈な芳(かぐわ)しさを感じることはない。

 けれど、地中にまどろむ草花たちの、目覚めを告げる初心(うぶ)な吐息が、淡青(たんせい)な晩冬の空をまったり暖めていくこの感触が、なんだかボクは好きなんだ


「湘南」――そう呼ばれてるこの街に、四度目の春が訪れたとき、ボクは海辺に建つあの中学を卒業した。

 秋には静寂とせつなさを、春には希望と懐かしさを、この街を吹き抜けてゆく風の匂いはいつだってボクらに与えてくれていたような、――なんだかそんな気がする。
 否応なしにひとつずつ、大人にされていきながら、この街をつつみ込む風の匂いとともにボクたちは今日まで生きてきたんだ。――――



 1982年4月16日(金)
 昼の1時過ぎ

 昨日の激しい豪雨は、もしかすると幻だったのだろうか?

 まぶたを突き刺す春の陽射しに、ぼんやりボクは目覚めていった。長方形の板ガラスを一面に張り巡らした南の窓際に並ぶ合板机の表面が、あまりにも艶やかにコーティングされ過ぎてるせいで、強烈な可視光が机の上ではねっ返り、部屋じゅうを眩(まばゆ)い白光で満たしている。

 正確にはそれほど長い時間ではなかったろう。昼食を終え、ウォークマンを聴いているうち、どうやらボクは眠ってしまっていたようだ。まだ眩しさに馴れない右目をこすりながら、海辺のほうへ目を向ける。――湘南海岸に沿ってはしる国道134号線は、あいも変わらず渋滞していた。中学2年になって、教室がこの海側の三階に移動したせいなのだろうか? 濃い藍色の水面(みなも)を白銀に輝かせてる海の色味が、なんとなくいつも以上にキレイに思えた。――

 隣の女の子がなにかをいっている。

「それ見つかったらヤバイよ」

 ボクはボリュームを落とし、その子の言葉に小さく頷く。彼女がいうよう、もし厄介な教師にでもバレたとすれば、どんな目に遭うのかなんて、なんとなくわかってた。

「カチャッ」と、微かな金属音が鳴り響き、やがてカセットは自動的にリバース再生される。しばらくすると、大滝詠一が去年リリースしたアルバム『ア・ロング・バケイション(A LONG VACATION)』B面に収録された「雨のウェンズデイ」のイントロが流れはじめた。ボクが小6のとき親から買ってもらった山下達郎のアルバム『ライド・オン・タイム(RIDE ON TIME)』も、当時は相当聴いていたけど、この『ア・ロング・バケイション』ばかり、このところ毎日、ずっとウォークマンで聴いている。

 トロピカルなジャケットが物語るよう、このアルバムにはリゾートカラーが色濃く反映された楽曲が多数収められている。漠然とハワイへの憧れを抱きはじめていたボクは、まだ見ぬ楽園の情景を、流れゆくその音楽のなかにきっと夢見てたんだろう。――

 そういえば、つい先月、大滝詠一は新たなユニットを結成し、ニューアルバム、『ナイアガラ・トライアングル・ヴォリュームツー(NIAGARA TRIANGLE Vol.2)』をリリースしたばかりだった。

(学校から帰ったら買いに行こうかな?)
 ボクはまた、窓の向こうに目をやると、一片たりとも雲のかけらが見当たらぬ仲春(ちゅうしゅん)の青空を見上げた。ふと、誰かの視線を感じたような気がし、なんとなく廊下のほうへと視線を移す。――ひとりの少女と目が合う。

 南の窓から射し込んだうららかな春の陽射しは、ちょうど彼女が座ってる机のあたりまでを柔らかく照らし出していた。――ボクは少しだけ微笑んでみる。大きな瞳でボクを見つめて、彼女も口元にほのかな笑みを浮かばせる。

 その子とは中学2年ではじめて同じクラスになったんだけど、すでにボクは、ずっと前から彼女のことは知っていたんた。――
 海風にたゆたうような「スピーチ・バルーン」の心地よいメロディが、ちょっとだけノスタルジックな気分にさせたせいかもしれないけれど、ボクはなんとなく、はじめて彼女と出会った日のことを思い出していた。――――


シーン1 『素晴らしき日々(Wonderful Days)』

 あの頃は「熱がある」だの「お腹が痛い」だのといっては布団の奥に潜り込み、よく母親に仮病を使ったりしていたものだ。行きたくもないような習い事、――そんなものを一方的に押し付けられながら、きっとボクらはリアルな嘘を、知らずに覚えていくのだろう。

 川澄(かわすみ)マレンと出会ったのは、消毒用の塩化石灰が大量に投入されて、うすら濁った水のなか。――そう、小学校4年のとき、無理やり通わされてたスイミングスクールの生ぬるく半透明な水のなか、曇った競泳ゴーグルのレンズ越しに、その小さな女の子の姿をすでにボクは見ていたんだ。

 中学2年で川澄マレンと同じクラスになってからしばらく経つが、彼女とは挨拶程度の会話しかいまだに交わしたことがない。あれから4年の月日が流れ、少しは大人になったはずのボクが、久々に再会した川澄マレンの大きな瞳を、あの頃みたいに淡々と見つめることができなくなってしまったその理由、――

 それは決して湿度によって曇らせたライトグリーンの水中ゴーグルをつけてないから、……ということだけではないのだろう。

 「スッ」と、しなやかに美しい富士型の曲線を描き出してるマレンの上唇、――そのすぐ左脇に幼い頃からずっとある、つつましやかで可憐なほくろが、どんなに艶(あで)やかな化粧をするより、彼女をいっそう大人びて見せてしまっているからなんだと思う。






【2012.06.19 記事原文】

さて。現在ブロともになったFC2音楽系ブロガーさんと共有の音楽ランキングサイト
ローリングストーン誌の代わりにFC2ブロガーが選ぶ音楽100選ランキング
なるブログを立ち上げました☆


ボクを含めてまぁ個々のブログだと、何となくアフェやランキングを気にしがちですが、
そういうのを抜きでダラっとできるサイトがあってもいいなぁ・・・
というのが設立の趣意でしょうか?


そちらのサイトでは、第一弾企画として「雨の日に聴きたい洋楽の名曲
を特集中です♪


宜しければそちらもヨロシク!



さて。雨の日に聴きたいジャパニーズソングといえば。。。

まず思い出すのは、カップヌードルのCM使用され、誰もに「良い曲だなぁ」と思わせた
大沢誉志幸氏1984年のヒットナンバー「そして僕は途方に暮れる」です☆

当時、高校1年だったかな?
まぁ懐かしき恋の思い出とともにボクの心に深く残る名曲です☆

今の技術であれば楽に趣味のDTMレベルでも作れてしまいそうなメロディアレンジですが、
このイントロって、何気に奥深い気がします。。。
書けそうで書けない。。。そんな感じの曲ですね♪



そして僕は途方に暮れる - 大沢誉志幸 1984年
ベスト盤『TraXX -Yoshiyuki Ohsawa Single Collection-』



プラネタリウム - BUMP OF CHICKEN 【ポップスの名曲】

【邦楽ポップスの名曲】




↑ ニコニコにログインしないと見れないかもしれませんが・・・





小学校4年の夏休み、――

四回目の交代で、ようやく半周ばかり離れていたマレンをボクのパートナーに迎えた。さっきまで、ややションボリしていた彼女は、ボクと目が合うと、ほんの少しだけ喜びをその大きな瞳のなかに湛(たた)えはじめた。ボクは彼女の両手の指先を右脇で抱えるようにして握り締める。――マレンはステップを踏みながらボクの横顔にささやく。

「カミュ、あとで一緒に花火やろう?」

すぐには返事ができなかった。ほかのヤツらにまたいろいろと、からかわれるのがイヤだったからだ。

(マレンのことなんて、なんとも思ってない、……はずなのに)

――彼女を一回転させ終えて、別れのお辞儀をしたあとで、ボクは小さくつぶやいた。

「……いいよ」

(――さっきもらったチョコのお礼だ)

「ニコッ」と笑ったマレンは、やがて次の男子と踊りはじめた。

そのとき誰かが大声で叫んだんだ。

「あっ! 流れ星だ!」

って、――


「――さっきの子って本当に流れ星が見れたのかなぁ」

マレンはしゃがみ込み、ススキ花火の火花が変色する様を見つめながらそうつぶやいた。ボクが手にしたスパーク花火は、火薬の匂いに包まれて円形に弾けながら黄金色の火の粉をマレンのほうまで飛散させている。

「どうかねぇ、アイツって平気でたまに嘘つくからなぁ」

と、いってボクは笑う。

「流れ星さぁ、見れるといいね」

マレンは、足元で「パチパチ」弾ける花火の色など気にもせず、煌(きら)めく星の海のなか、未知なる光跡が紺青(こんじょう)の夜空に描き出されるのを待ち焦がれてた。――

真夏の夜の山風が無限に茂った樹々の枝葉を揺さぶって、一斉に金属質なさんざめきを轟(とどろ)かせている。木立の影に冷やされはじめた山からの吹きおろしは、遮るものなどなにもない草原の芝生の枝先を這うようにボクらの足元を駆け抜けていった。

ミッドナイトブルーの夜空に散らばるいくつかの恒星の輝きは、宵闇が深まるにつれ、緩(ゆる)やかにその輝度を増しはじめていく。夏の夜空で、ひときわ煌々(こうこう)とアリスブルーの彩光を輝かせる、こと座のベガ。そのベガの左側、――手前と向こう側で輝いてるのが、わし座のアルタイルと、はくちょう座のデネブ。――この三つの一等星が夏の大三角を形成しているんだ。

ボクは半分くらい水を張ったバケツに、消えた花火の芯を投げ入れ、ジーンズ生地の短パン姿でかがみ込むマレンのほうを見つめた。

(寒くないのかな、マレン、――)

「オレさぁ、ずっと、いつか流れ星が見たいと思ってたんだ。けど、ウチらの街ってさぁ、なんか街明かりが眩しいみたいでね、だから流れ星が見えないんだって」

大きな瞳をボクへ向け、マレンは「ニッコリ」微笑んだ。

「だったらさぁ、今日がチャンスかもよ! ここならさぁ、流れ星見れるかもしれないじゃん」

ベガの少し西側に見えている北斗七星の下のほうには、うしかい座のアルクトゥルスが、――そこから緩い弧を描くよう同一線上を辿っていったその先に、おとめ座のスピカが淡白い煌(きらめ)きを浮かばせる。さらに遥か南の低空では、さそり座のアンタレスが赤い彩色を滲ませていた。

(たしかにそうだ。こんなにすごい星空を浮かびあがらせている場所が、日本にあったなんて本当に信じられない。ここでなら、きっと流れ星だって見つけられるかもしれない、――)

遠くのほうで誰かが叫んだ。

「あっ、ほら! 流れ星!」

マレンはその言葉に敏感に反応し、小さなピンク色のTシャツを「ピクッ」とさせた。すぐに上空を見上げてみたが、ボクたちには見つけられなかった。

「わぁ、すっごーい! いま見た?」「見た! ものすごく長かったよね、白い光の線がさぁ」

向こうのほうで何人かの子らが、そういって「ワイワイ」と騒ぎはじめる。

「あー、見逃しちゃったね」

ボクがそう笑いかけると、マレンはなんだか悲しそうな眼をしながら、ずっと上空を見つめ続けていた。

「あたしも絶対見たい!」

と、少しだけムキになって立ちあがると、彼女は青白い月明かりにその身を染められながら、空の彼方を「キョロキョロ」と見渡しはじめる。

「おーい! そろそろ片付けろ。もう宿へ戻るぞ」

おっかないコーチが大声でそう叫ぶ。ボクは、花火の棒だけが浮かんでるバケツを手にし、立ちあがる。マレンはまだ星々の煌(きら)めきから目を離そうとはしない。

「仕方ないよ。もう帰ろう」

ボクがそう声をかけると、マレンは大きな瞳に涙を溜(た)めながら振り返った。

「あたし、どうしても流れ星が見たいよ!」

「たぶんさぁ、またいつか見れるチャンスだってあるよ」

「どうしても今日、一緒に見たいんだよ」

絞り出すようマレンは、なんだかせつなそうな声でつぶやいた。

(もしかしたら、彼女はさっきの話を信じてるのか?)

あのとき、ボクは彼女にいったんだ。

「――流れ星に三回願い事をすれば、その願いが叶うっていうのは有名だけどね、――『好きな人と2人きりで、流れ星を一緒に見ると、その人と結婚できるんだ』ってね、誰かに聞いたことがあるんだ」

するとマレンは大きな瞳をボクへ向け、少しだけその小さな口元を微笑ませる。――やがて「ニッコリ」笑ってささやいた。

「だったら楽だね。流れ星に願うことなんて、きっと、みんなそれくらいしかないもんね」

 そして静かに言葉を続けた。

「じゃぁさぁ、もしカミュと一緒に流れ星見たらさぁ、あたしたちって結婚しちゃうのかな?――」


――マレンはまだ、「ヒクヒク」と半べそかいたまま、ひたすら夜空を見上げ続けている。

「ねぇ、またいつかチャンスはあるって」

ボクは、彼女が背負った背中の影にそっと優しく声をかけた。

「だってあたし、カミュとね、――」

振り返り、そう訴えかけるマレンに、煌々(こうこう)と煌(きらめ)く空を見つめたままで、ボクは優しくささやいたんだ。

「だから、またいつか2人で一緒に見られるときもさぁ、きっとくるよ。いつかきっとね、――」

驚いて、ボクを見つめたマレンの潤んだ瞳には、「キラキラ」と、さっきより遥(はる)かにキレイな星空の輝きが映し出されていたんだ。――


1982年8月21日(土)

――ボクには、はっきりと見えたんだ。その星の光は、つま先の向う側に揺らめく波の上をまっすぐしなやかに飛んでいき、白くて長い光の尾を引き連れながら濃蒼の闇色のなかへと溶け入り消えた。

「パル、……見えたよ、見たでしょ?」

マレンはうっすら涙を流しながら、そういって笑った。

「うん、……見えたよ」

「すごい! 流れ星が本当に見れたんだよ。すごいよ! パル、――」

「オレも、はじめて見た、……こんなにはっきりと、空を飛んでる流れ星を」

ボクたちは、砂浜に仰向けになったまま歓喜の声を静かに空へとそよがせていた。

「また見えると思う?」

と、マレンは問いかけてくる。ボクは少し彼女のほうへ顔を傾け、そして静かに答えた。

「きっと、……見えるよ」


「覚えてる? 小学校のとき、スイミングスクールの合宿でさぁ、カミュちゃんがいってた言葉。あたし、その言葉をね、ずっといままで信じてきたんだよ。『好きな人と2人きりで、流れ星を一緒に見ると、その人と結婚できる』って」

「あぁ、なんとくなそんなこと、いったような気もするね」

右腕のなかで、彼女が見つめる星のあたりへ向かってそういってボクも笑った。

「それからね、パルは、流れ星が見れなくって泣いてるあたしにね、こういってくれたんだよ」

マレンは、ボクの顔のほうへ少しだけ寄り添って、嬉しそうにささやいた。

「いつか2人で一緒に見られるときも、きっとくる」

って。――

「う~ん、そっちはあんまし覚えてないねぇ」

ボクがそういってからかうと、マレンは星明りの下で「プクッ」と頬を膨らました。

(なんちゃってね、……ちゃんと覚えてるさ。けどまぁ、まさかこうして2人で寄り添いあって見れるなんて思ってなかったけどもね)



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】

君が手を振っていた - 染谷俊 【バラードの名曲】

【邦楽バラードの名曲】


君が手を振っていた





小学校4年の夏休み、――

夕食、――と、いってもただのカレーライスだったけど、それを食べ終えると、ボクらは順番に流しで食器を洗い、自然体験教室の敷地から数分歩いた先の広場へと向かうようコーチにいわれた。どうやら、そこにはキャンプファイヤー用の焚き火がすでにセットされてるらしかった。――

結局、ボクはカレーのルーを半分以上残してしまったんで、その残飯をゴミ袋に捨て、「カシャカシャ」食器を洗っていると、うしろからマレンが話しかけてきた。

「カミュ、まだ具合悪いの?」

大きな瞳を曇らせて、そう心配する彼女の顔を左の肩越しに振り返ったボクは、

「ううん、あまり好きじゃないんだ。カレーって」

と、いって笑った。

「そうなの、……でもさぁ、それじゃぁお腹空いちゃうでしょ? あたしね、いろいろお菓子持ってきてるから、あとであげるよ」

隣の流し台で食器を洗いながら、マレンはそういってボクを見つめた。

「あぁ、……でもいいよ。そんなにお腹は空いてないからさ」

ボクはそっと微笑みかける。――マレンは手についた洗剤を洗い流して小声でささやく。

「すごい美味しいチョコがあるんだよ! みんなには内緒でカミュにだけあげるからね」

自慢げに彼女は、そういって「ニッコリ」笑った。

宿泊棟から五百メートルくらい離れた場所にあるという広場まで、頭上をうっそうと生い茂る樹木の影がみっしり覆っているせいで、足元なんてほとんどなにも見えなかった。靴底に伝わる感触で、なんとなくそこが砂利道なんだとボクは気付く。途中、数本の街路灯が灯(とも)されてはいたけれど、アーモンド型の半透明な蛍光灯カバーに絡みつく蔦(つた)が、ただでさえ薄暗い光源を隠してしまい、ほとんど役に立ってなかった。

うしろから、悲鳴をあげて女子たちがその暗闇のなかを怯えるように歩いてきてる。そのなかに、ボクが少しだけ気になってる女の子の声も時折混じっていた。――その子と話す絶好のチャンスだと思い、彼女たちが追いつくのをボクは薄暗い街灯の下で待つことにする。

「誰だろう? あっ、カミュだ!」

ボクのシルエットに気付いた誰かがそう叫ぶ。かろうじて表情のわかる程度の暗がりのなか、ちょっぴり想いを寄せる、その子の笑顔を見つけ出す。けれど同時に、このグループのなかに川澄マレンの姿がないことにも、すぐに気付いた。

「あれ? 川澄は?」

ボクがそう訊ねると、誰かが答える。

「あぁ、マレンは、さっき部屋のほうへ戻っていったけど。なにか忘れ物したみたいで」

(忘れ物?)

すると、ボクの気になっていた、その女の子が笑いながら話を繋いだ。

「まったく、……マレンはいっつも自分のことしか考えないで、そうやってみんなに迷惑ばかりかけるんだから」

ボクは、彼女がそんなことをいう子だなんて思ってなかったんで、正直、ちょっとショックを受けた。

「行こう! カミュ、もうすぐキャンプファイアはじまっちゃうよ」

彼女は、そうボクを誘った。

「でも、川澄、……もしかしたら、場所とかわかんないかもしれないし」

少しボクが躊躇(ためら)うと、

「大丈夫だよ。たぶん、みんなの声とかも聞こえるはずだもん。だからマレンもそのうちくるよ」

その子は、そういってから、

「あ~っ、もしかしたらカミュ、好きなんでしょ? マレンのこと」

と、訊ねるようにからかい、笑った。

「――好きか嫌いかなんてわからないけど、……心配か、なんとも思わないかっていうんなら、いま、川澄のことはすげぇ心配。まぁ、それが普通だと思うんだけど」

そういって、ボクは闇のなかを宿泊棟のほうへ向かって駆けだした。
建物の外から二階を見あげてみたが、男女どちらの部屋の電気も点いてはおらず、まさかと思い、念のため川のほうへも探しに行った。けれど、マレンはどこにもいない。

(もしかしたら、入れ違いになったかな?)

そう思いつつ、広場のほうへと戻る途中、さっきは暗くて全然わからなかったけど、左側の木立のあいだから、ずっと奥のほうへと続いてる、細い林道の入り口があることに気付いた。

枯れ落ちた枝葉がそこいらじゅうに散乱し、くるぶしを隠すほどまで好き放題に伸びた雑草が繁ってて、普通なら、誰も夜、こんなところへは絶対ひとりで立ち入りったりはしない。


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】


君が手を振っていた - 染谷俊
1stアルバム『愛にあいたかった』 1993年




 

Bittersweet - Kevin Kern 【インストルメンタルな名曲】

【インストルメンタルな名曲】


Bittersweet






1982年8月21日(土)


しばらくボクたちは、2人で夜の砂浜を歩いた。青みがかった漆黒の夜空には、つつましいほどに、か細い三日月が儚(はかな)げに浮かんでいる。その月灯りは、あまりに弱々しかったけど、眩(まばゆ)いほどの輝きを水面に反射させている星明りが、ボクらの足元の砂浜を、うっすら照らし出していた。街からのほんの僅かな窓明かりさえ、ここの場所には届かない。この静かな海辺の暗がりを歩きながら、知らずに2人は言葉を失ってゆく。

「このへんでいいかな?」

ボクは適当な場所で足を止め、柔らかな砂浜に腰を降ろした。マレンはなにもいわずボクの右隣に座り込む。この場所からのほうが、さっきまでいた砂浜よりも、星空がより一層キレイに輝いて見えた。

「やっぱ、こっちにきてよかったでしょ?」

そういって、ボクは両手の指を、あたまのうしろで組みながら砂浜の上に寝転がる。――まったく波の音が聞こえないほどに、星の明りを映し出す夜の海は、あまりにも静かだった。


すると、ボクの右腕を、マレンがふいに引っ張った。そしてその腕を真横にまっすぐ伸ばさせると、彼女は少しはにかんで、寄り添うように、しなやかなその黒髪を、ボクの右の肩口へと乗せてきた。マレンの小さな横顔が、ボクのすぐそばにある。しばらくは2人して砂浜に仰向けになったまま、なにもいわずに輝く星の光を全身へと浴び続けていた。

「――いま、ちょうどオレらの真上くらいのとこで光ってる星。ちょっと青白いヤツ、わかる?」

空を見上げながら、ボクがそうつぶやく。

「えっ? どれかなぁ?」

マレンが、そう訊ねてくると、ボクは右腕にマレンのあたまを乗せたまま、ひじから先を空へと向けて、人差し指で指差した。

「あのあたりだよ」

「えぇ、どこ? ――あぁ、ほかよりもちょっと明るい感じの星?」

マレンはボクの右頬のすぐそばで、嬉しそうに言葉を夜風に揺るがせる。

「そう、あれが夏の夜空で一番明るい『こと座のベガ』。つまり、七夕のおりひめ星だよ。」

「えぇっ! そうなの?」

マレンはボクの耳元で大きな歓声を上げる。

「そこからずっと下のほうへいってさぁ、白っぽく光ってる星がね、『わし座のアルタイル』。
つまりは彦星」

「えぇっ! おりひめと彦星って、人じゃなくて星だったんだ」

と、マレンはおかしな質問をしてきた。

「まぁ、……そうなのかな? でね、あの真ん中のべガから、ずっと左下のほうへ行ったとこにある、これも、ちょっと白っぽく輝いてるのがね、『はくちょう座のデネブ』。これは、……まぁ七夕の星とはあまり関係ないけどさ。でもコイツは七夕の2つの星よりも遥か遠くの彼方にあって、しかも100倍くらいデカい星なんだよ。この3つの星がね、いわゆる『夏の大三角』ってヤツなんですよ」

「へぇ~っ! パルって星に詳しいんだね?」

マレンは、そういってボクの横顔を見つめた。

「まぁ、小学校のときは、星の本ばっか読んでたからさぁ」

ボクらは、またしばらくなにもいわずに、砂浜に並んで寝転がりながら星空を見上げ続けた。

そのとき、――ベガのずっと右端のほうを、なにか白い閃光が横切った気がしたんだ。ボクはおもわずつぶやく。

「いまさぁ、――」

「うん、……流れたよね。なにか白い線が、絶対、いま見えたよね、――」

マレンの声は微かに震えていた。気づくと彼女の右手が、ボクのTシャツを掴んでいた。

「でも、あの速さで消えていっちまったら、3つもお願いをするのなんて絶対無理だな」

「また、流れ星、見れるかな?」

マレンは声を震わせたまま、そうつぶやく。

「たぶん、ひとつ見えれば、きっとまた、――」

――ボクには、はっきりと見えたんだ。その星の光は、つま先の向う側に揺らめく波の上をまっすぐしなやかに飛んでいき、白くて長い光の尾を引き連れながら濃蒼の闇色のなかへと溶け入り消えた。

「パル、……見えたよ、見たでしょ?」

マレンは薄っすら涙を流しながら、そういって笑った。

「うん、……見えたよ」

「すごい! 流れ星が本当に見れたんだよ。すごいよ! パル、――」

「オレも、はじめて見た、……こんなにはっきりと、空を飛んでる流れ星を」

ボクたちは、砂浜に仰向けになったまま歓喜の声を静かに空へとそよがせていた。

「また見えると思う?」

と、マレンは問いかけてくる。ボクは少し彼女のほうへ顔を傾け、そして静かに答えた。

「きっと、……見えるよ」

ボクの胸のあたりでTシャツを掴んだままのマレンの右手を、ボクは砂の付いた左手で「ギュッ」と、上から強く握り締めていた。マレンは乗せられたその左掌に、そっと指を絡ませてきた。2人は指先を強く握り合い、ずっと星空を眺めていた。



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】







Bittersweet - ケヴィン・カーン
アルバム『In My Life』 1999年

風がはこんできたもの - 辻井伸行 【インストルメンタルな名曲】

【インストルメンタルな名曲】


風がはこんできたもの






1983年9月20日(火)


小雨がやんだ薄曇りの放課後、――
校門を出ると倉田ユカリが車椅子に座ったまま、松並木の枝々を覆う細長い針葉の先をひとりで見上げていた。

「あれ? 倉田さん、今日って、李さんは一緒じゃないんだ?」
と、おもわずボクが、そう声をかける。

「あぁ、メイは今日、クラスの友達と遊ぶみたいなんですよ」
ユカリはそう答え、ボクを見つめると、少し躊躇(ためらい)いながら、
「あのシーナ君、……もしよければ一緒に帰ってもいいですか?」
と、いって微笑んだ。

「ああぁ、全然いいよ」
「迷惑とかじゃないですかね?」
と、ユカリは変に気を使いながら、そういう。

「なんでさぁ。別に迷惑じゃないよ」
ボクが笑うと、

「ありがとう――」
と、ユカリは微笑んだまま、お礼をいったんだ。

こないだはじめてメイの家に行ったときもそうだった。玄関でユカリを車椅子から降ろそうと、ボクが彼女を抱きかかえたとき、「ありがとう、……ゴメンね」と、彼女はいっていた。

別に誤る必要もなければ、お礼なんていう必要もないことなのに。――

ボクは、ユカリの車椅子を押しながら松並木の道を歩く。茶色く枯れ落ちた松葉の上を車輪が踏みしめていく。雨上がりにそよぐ涼風の余韻に、甘ったるいサンオイルの匂いがまったく感じられなくなったことに気づくと、ボクは夏の終わりを少しだけ実感した。

「こないだはゴメンなさい。なんかちょっと、私もなにいってるのか、だんだんわからなくなっちゃって、……」
視界に広がる松並木の通りのほうへ、そう小さくささやいたユカリの表情は、うしろにいるボクからは見えなかった。けれど彼女のつぶらな瞳が微笑んでいないということは、そのあえかな語尾の響きから伝わってくる。

「え? あぁ『李さんとバンドをやれ』って話ね。でも、実際にバンドやるとなったら、メンバーとかも集めなきゃならないしさ」
と、ボクは、少し笑っていった。

「私、あのとき本当に感動したんですよ。シーナ君があんな簡単そうにピアノが弾けちゃったことに。それに、ものすごくいい曲だったし、……メイは、むかしからピアノが上手だったから彼女がうまくても驚かないし、別に感動もしなかったんですけどね」

と、いったユカリの言葉の語尾に、少しだけ笑みが戻ったような気がした。

やがて彼女は、薄曇りの空に向かって言葉を続けた。
「私、子供の頃、お母さんに『ピアノ買って欲しい』って、ずっとお願いしてたの。お願いっていっても、泣きながら『ワーワー』と、駄々をこねてただけなんですけどね。でもその頃って、ウチもまだアパートだったし、それに『私の指もうまく動かないから』っていわれてね」
ボクには、なにもいえなかった。簡単に相槌(あいづち)を打てるような気がしなかったからだ。
ユカリは、言葉を続ける。

「結局、その代わりにレコードは一杯買ってもらったんです。ピアノは小学校の3年になって、メイと仲良くなってから彼女の家で弾かせてもらったりできたから。でもメイに教えてもらっても、やっぱりうまく指が曲がらなくって、……」
ユカリの言葉を黙って聞きながら、こないだメイの家で、

【子供の頃、車椅子のスポークに指を挟んじゃったみたいで、そのとき右手の人差し指と中指を複雑骨折しちゃったんです】
そういってボクに見せていたユカリの、少しだけ曲がった細い指先を思い出した。

「メイはね、……」
そういうと、ようやくユカリは車椅子からボクのほうを振り返った。

「メイは、むかしからスゴク優しかったんです。だから彼女は本当にやりたいと思ってることを、いつだって自分から諦めてきたように思えるんです。――ホントは小学校5年のときに、好きな男の子がメイにはいたんですよ。でね、バレンタインにチョコを渡そうかどうかずっと悩んでたんですけど、友達のなかにその男の子を好きだった子がいるとわかったらね、それから、ひと言もその男の子と話したりしなくなっちゃったんです」
(まぁ、なんとなくわかる気もするな)

ボクは、微笑んだまま、車椅子をゆっくりと押して歩く。

さらにユカリは続けた。
「私、メイには幸せになって欲しいって思ってるの。彼女自身が『楽しい』って、自分でちゃんと思えることをやって欲しいんです。私ができないことも彼女になら、なんだってできるんだから。……シーナ君と『バンドをやったら』っていったのも、2人ともすごくピアノが上手かったから、というのもあるけど、……ホントはね、メイがシーナ君と一緒にいれる時間が作れると思ったからなんです」

ボクは、ユカリに笑いかけながらいった。
「あのさぁ。こないだも聞いたけど、李さんってホントにオレのこと好きとかっていってるの? 普段、教室では、ほとんどそんな感じしないんだけど」

「それはね、……」
ユカリは厚く覆われた雲を見上げた。やがて、ふたたびボクのほうを振り向くと、
「佐藤さんが、シーナ君のことを、むかしから好きだってこと知ってるから。だからメイは絶対に自分からホントの気持ちなんかいわないと思います。私が聞いてもそう。いつも『マキコがシーナ君のこと好きだから』ばっかりしかいわないんですよ」

と、ユカリは少しだけ真顔になり、そういった。
(メイはマキコに気を使ってる、……のか)

「シーナ君は、メイのこと、どう思ってるんですか?」
と、ユカリは真剣な表情のままでボクに訊ねる。

「え? 李さんのこと?」
ボクは不意を突かれた。すごく彼女のことが気になっているのはたしかだ。でもマレンのことも、まだ完全に忘れたわけじゃない。突然、心のなかでマレンが微笑み出すと、胸が張り裂けそうになるくらい彼女のことばかり思い出してしまう。

「メイのこと、キライじゃないですよね?」
と、ユカリは訊き方を変える。

「キライじゃないよ。というより、まだよく知らないし」
と、ボクは答えた。

「だから一緒にバンドをね、やれば、きっとメイも変な遠慮をしないでシーナ君と普通に話ができると思うんですよ。私はもう、恋愛とかは諦めちゃうんですけどね。メイには簡単に諦めて欲しくないんです」と、ユカリは少し寂しげに笑った。

「倉田さんだって、別に諦める必要なんかないでしょ」
ボクは、メイのことには答えず、ユカリのほうの話を広げた。

「いいんです。私のことよりも、とにかくまずは先に、メイが幸せになって欲しいの。私のことはそのあとでも全然いいんですよ。それに、もしいつかステージでメイが演奏してくれたのなら、彼女が私の代わりに夢を叶えてくれることにもなるんだから」
と、いってユカリはボクを見つめると、『クスッ』と微笑みながら、さらに続けた。

「私たち、まだ知り合ってから2回目ですよね。こうして話しをするのって」
「えっ? まぁそうだね。」
と、ボクも少しだけつられて笑う。

「やっぱりメイのいってたとおりだ。シーナ君ってきっと優しいんですね。『いつも自分のことよりも、誰かのことを考えてるみたいな人』って、こないだね。メイがそういってたんです。私もね。なんとなくそうなんだろうなぁって思います。きっとシーナ君もメイもすごく似てるんだろうなって思うの」

と、ユカリは小さな口元に笑みを湛(たた)えながらいった。

「ん? オレって優しいのかね?」
そうボクが、自分自身に問いかけるようにつぶやくと、ユカリはつぶらな瞳でボクを見つめながら静かにいった。

「自分で『優しい』なんて思ってる人は偽善者ですよ。ホントに優しい人はね。きっと自分のその優しさに、まだ全然気づいていない人。――」

風向きは絶えず変わり続け、雨香たゆたう涼風に、ユカリの黒髪が、時折もてあそばれている。この街に、より深く秋の気配が訪れるのは、もう少し先のことだろう。けれど蝉たちの鳴き声が、もう二度と、今年はこの松並木からは聞こえてこないんだろうなってことくらいなら、ボクにもなんとなくわかっていた。


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】






風がはこんできたもの - 辻井伸行 
アルバム『神様のカルテ』 2011年


翳りゆく部屋 - スターダストレビュー 【バラードの名曲】

【邦楽バラードの名曲】


翳りゆく部屋





1983年10月20日(木)


ボクらはファミレスを出ると、また海沿いのサイクリングロードを歩いた。秋の静けさに満ち溢れ、純白のベールに包まれているような淡い雲の色を湛えた海には、微かな白波すら揺らめいてはいない。

雲り空のあいだから落ち始めた陽射しは霧のように柔(やわ)く、まだ午後3時をほんの少しばかり過ぎただけなのに、街の空も、この海の色も、まるで一緒になって夕暮れの訪れを急(せ)いているかのようだ。本当は海岸でギターを弾こうかと思っていたけれど、少しだけ砂浜を吹く風が強くなってきている。

「あっ! そういえばお勧めの場所があるんだよ」
と、ボクがいうと、

「お勧めの場所?」
艶やかな黒髪を、淡い金木犀(きんもくせい)の香りに巻き上げられて、ユカリは車椅子から振り返る。

「そう。誰もいなくてね。まさに、デートには最適なところがさぁ」
ボクは「ニヤッ」と笑って、そういった。

「キャーッ! ちょっとコワいですけどね。でもどこですか? そこって」
ユカリは嬉しそうに訊ねてきた。

ボクがいった「お勧めの場所」、それは、この街で川澄マレンと一緒に過ごした最後の場所、――古い大木たちに囲まれた、あの神社のことだ。――

晩秋の予感を滲ませながら吹き抜けてゆく風のなかに、あの夏の日を偲(しの)ばすような、色めく街の薫香は、なにひとつ感じられなくなっていた。ボクたちは、草木が枯色に染まりながら、ゆっくりと時をかけて眠りに就こうとするときに、少しだけこぼれ落とす、まどろみの吐息のなかに包まれている。

「ホントに静かなとこですね。シーナ君って、まさか痴漢とかじゃないですよね」
ユカリは、そういって笑う。

「オレ? さぁどうかな」
「え~っ! 襲ったりしませんよね。私のこと」
と、ユカリは嬉しそうな顔で石段に座りながら、揺らめく枯葉たちが「カサカサ」と、こすれ合って、頭上を覆いつくしている大樹の枝先を見上げた。

ボクはミニギターをケースから取り出し、少しペグを捻(ひね)りながら弦をチューニングしなおす。適当なコードを指先で軽くストロークしながら、マレンと、この神社にきていた日のことをぼんやりと思い出していた。

(マレンが久しぶりに学校に登校してきた7月のあの日、ボクは数学教師である『白ブタ』の髪の毛を引きちぎって、担任から会議室に呼び出されたんだ。そういえば、アイツってあれから授業中に全然ボクのほうを見なくなったな。――そして放課後、久しぶりにマレンと再会し、ボクらはこの場所にきたんだ)


無意識のうちに、何度もコードチェンジを繰り返してゆくと、やがて、ストロークは【A】コードに落ち着いた。何小節か【A】コードを爪弾いたあと、ボクは静かに歌い始めた。

松任谷由実が、当時、まだ荒井由実名義だった時代にリリースされた初期ベストアルバム『ユーミン・ブランド(YUMING BRAND)』の、エンディングに収録されていた「翳りゆく部屋」――小学校の頃、このアルバムを親戚の家で聴いたとき、ものすごく「いい曲だな」って思ったんだ。

オリジナルには、ときどき浮遊感を漂わす難解なコードが混ざるみたいだけれど、そこは似たようなコードで誤魔化す。ボクのその歌声は、やがて夕空へと舞い上がり、神社を囲う背の高い樹々の枝先に揺らぐ枯葉を、風とともに揺すっていく。――

(あの日、急にマレンから『鎌倉に転校するかもしれない』っていわれて、ものすごく動揺したんだよな。『アタシは、カミュちゃんとずっと一緒にいたいのに、――』そういって泣き出したマレンに、ボクは、はじめて自分の気持ちを言葉にしたんだ。『オレだって、川澄と一緒にずっといたいよ!』って、――だけど考えてみれば、ボクから彼女に伝えられた言葉って、それだけしかなかったのかもしれない。それ以外には、言葉で彼女にホントの気持ちを伝えたことなんて一度もなかった)

「シーナ君――」
ユカリの呼びかけにふと我に返ったとき、ボクはもう歌っていなかった。けれど左手の指先は、ずっと弦を押さえたまま、小さくストロークし続けていた。

「シーナ君って、どうして修学旅行に行かなかったんですか?」
ユカリはそう訊ねた。

「あぁ、なんか面倒臭くなってね。別に寺とかにも興味ないし」
「でも、この神社は好きなんでしょ?」
と、ユカリは笑いながら言葉を続けた。

「私、学校からは『修学旅行に参加するように』って、いわれてたんですけど、……でもね。結局、私のせいでみんなにいろいろ迷惑かけちゃうから、いろんなところに見学に行っても、きっと私だけ遅れちゃうでしょ。それにおトイレもお風呂も、きっとみんなの迷惑になるから、……ホントは行きたかったんですけどね。でも学校もホンキで私にきて欲しいとは思ってなかったみたいですから」

「なんかいわれたのか? 教師たちに」
ボクはユカリに訊ねた。

「ううん。その逆です。私とお母さんとでね。担任の先生に、『もし、迷惑がかかるようなら参加しないほうがいいんじゃないですか?』っていったら、なにもいわずにそのまま承認されちゃいました。だから、先生たちも多分『ホッ』としたんじゃないですかね。私が『どうしても行きたい』とかってワガママをいわなかったから」
弦をつま弾いていたボクの右手が止まる。

空はすっかり晴れ渡り、さっきよりも遥かに深く眩しい夕暮れが、西の上空に漂う雲を赤褐色に染め始めていた。

ユカリは燃えるような雲の色を見上げながら、言葉を風にくゆらす。
「実はね。こないだメイも『修学旅行に行くの辞める』って、いい出してね。メイは、ほかの理由をいってたけど、きっと、彼女のことだから、私ひとりだけ旅行に行けないのが可哀想だと思ったんじゃないですかね」

その風は柔らかく、ユカリの言葉を包み込む。

「でも、私のためにこれ以上、メイがなにかを犠牲にするってことが、なんだかすごく辛いんです。彼女は私よりも、もっと酷いイジメを小学校のときからずっと受けてきたのに、いつも私のことばかり気にしてくれて、……自分のやりたい事なんて、いつだってずっと後まわしにしてばかりいたの。だから『メイは絶対、修学旅行に行ってね』って、こないだ、ちょっと怒っちゃった。私のことを気にしてくれてるのはすごく嬉しかったけど、同じくらいになんだかすごく苦しかったんです」
ユカリの小さな背中が微かに震えている。

「だからね、シーナ君。いま私にできることは、全部メイにしてあげたい。ううん。――なにかひとつだけでもいいの。ひとつだけでもいいからね、なにかしてあげたいんです。メイからもらってばかりじゃ私、もうイヤなんです。だから、もしシーナ君がメイのことを好きじゃないとしてもね、私がちゃんと好きにさせなきゃいけないんです。……それくらいしか私にはできない。もしおせっかいと思われてもね。私が、――」

「大丈夫だよ」
ボクはユカリの震える細い肩に、軽く左手を乗せた。

「オレは李さんのことを好きだと思う。もしいつか、彼女も同じ気持ちなんだと思えて、2人の気持ちが自然と素直に向き合えるんならば、きっと倉田さんが願ってる通りになるんじゃないかな」

その言葉にユカリは、一瞬、つぶらな瞳に喜びを浮かべた。

「だけどね。オレにはまだ、前の彼女への想いが残ってるんだよ。未練じゃなくって、きっと後悔としてね。――そのことを、もし李さんも気づいてるんなら、たぶん、いまはまだ無理だよ。その想いが消えない以上、まだ李さんに対してオレからなにかをいえるような立場じゃないし、それにきっと彼女もオレとは付き合わないと思う」
ボクが、語り終えると、ユカリはまた哀しそうな眼差しでボクの顔を見つめた。

「でもさ、まだ李さんのことをバンドに誘うのは諦めないからさ。それだけは約束するよ。倉田さん、こないだいってたじゃん。『メイは絶対、バンドに入る』って。オレはね、その言葉を信じてるから。それにさぁ、オレは好きだよ。李さんのことも、……キミのことも」

と、いって、ボクはレゲエ調のリフをストロークし始めた。

「この曲ってさぁ。もしオレたちが、いつかライブ演るときにね、歌ってみようと思ってるんだ。まだタイトルも決めてないんだけど、……そのときは、キミにはちゃんと最前列で聴いてて欲しい。ほかに誰も客がいなかったら、やっぱりちょっと歌いづらいからね。それに、もし、李さんがバンドに入ってくれなくても、倉田さんは、オレらのバンドのマネージャーをやってくれるんだろ?」
そういって、ボクがユカリを見つめると、彼女は静かに微笑みながら、やがて大きく何度か小さく頷いた。

「シーナ君、もしかして修学旅行に行かなかったホントの理由って、メイと同じだったんじゃないですか? だって似てますからね。メイとシーナ君は」
と、ユカリはいいながら、その小さな顔をボクの左肩にそっと寄り添わす。そして北風にさらわれてゆく落ち葉を見つめてささやいた。

「こないだ私がいったこと覚えてますか? 『いつも自分のことよりも、誰かのことを考えてるみたいな人』って、――メイがシーナ君に対して抱いてる印象なんですけどね。でも、私から見れば同じなんですよ。メイもシーナ君も、……メイもね、いままでずっと、自分のことよりも、私のことを考えてくれていたの。だから私にとっては、ものすごく大切なんですよ。メイも……シーナ君も、2人とも、……そして、そのどちらからも私に与えられているこの『優しさ』も」

ボクはなにも答えずに歌い始める。そう、この夕暮れ色した街の空へ向かって、――


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



翳りゆく部屋 - スターダストレビュー 
カヴァーアルバム『ALWAYS』 2008年




Masterpiece of the Western music of the 70s/70年代洋楽の名曲
If you want to cry/泣きたいとき
If you want to be healed/癒されたいとき
Drinking alcohol/お酒を飲みつつ
While driving/ドライブしながら
If you want to Fever/血が騒ぐ
Masterpiece of the Western music of the 80s/80年代洋楽の名曲
80's Ballard masterpieces/80年代バラードの名曲
80's Rock masterpieces/80年代ロックの名曲
80's Pops & AOR masterpieces/80年代ポップスの名曲
70's Dance masterpieces/70年代ダンス系の名曲
Masterpiece of the Western music of less than 70s/70年代未満洋楽の名曲
Less than the 70's classic Ballad/70年代未満バラードの名曲
Less than the 70's classic Rock/70代未満ロックの名曲
Less than the 70's classic Pops & AOR/70代未満ポップスの名曲
Masterpiece of the Western music of more than 90s/90年代以上洋楽の名曲
Ballade more than of the 90s/90年代以上バラードの名曲
Rock more than of the 90s/90年代以上ロックの名曲
Pops & AOR more than of the 90s/90年代以上ポップスの名曲
90's Dance masterpieces/90年代ダンス系の名曲
Masterpiece of the Japanese music/未来に残したい日本の名曲
Dedicated to sweethearts/恋する二人に捧ぐ
Spend the night with sadness/悲しみと共に過ごす夜
Nostalgic feelings/ノスタルジックな想い
In the room which shines with the morning sun/朝日が差し込む部屋で
While looking at the setting sun in a hotel/夕陽が見えるホテルで
Memories of youth/若かりし日々の思い出
If you want to fuss/タテノリしたい気分なとき
If you want to feel the Rock/かなりRockな気分
Masterpieces of Instrumental/インストルメンタルな名曲
 
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