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未来に残したい洋楽&邦楽の名曲

70~80年代の洋楽&邦楽を中心に未来に残したい名曲&名盤を独自にチョイスするBlogです☆
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【Re-Edit/2nd】 アイム・ノット・イン・ラブ - 10cc 【70年代バラード】

【Re-Edit/2nd】【70年代洋楽バラードの名曲】


I'm Not In Love






Epi-25

 1983年6月13日(月) 中学3年の一学期
 夕方の午後3時半前

 ヘッドフォンから流れはじめたイギリスのバンド、テンシーシーの「アイム・ノット・イン・ラブ(I'm Not In Love)」――

 その淡く儚げな旋律は、生ぬるい空気をしっとり湿らす梅雨空が生み出す時間の流れと違和感なくシンクロし続けている。

 小雨そぼ降る学校帰り、曲が終わるとボクは左耳に挿してたヘッドフォンを外し、隣を歩くマレンに訊ねた。

「そういえばさぁ、お母さんの検査結果ってどうだった?」

 それは、もしかしたら単に太陽を遮る薄曇りの空のせいだったのかもしれない。――でも、いつもとは少しだけ様子の違う彼女のよそよそしい態度に、なんとなくボクのほうから「そう訊かなきゃいけない」ように思えてきたんだ。

「うーん、まだはっきりとは、いってくれないんだけどね。……」

 マレンはヘッドフォンの一方をボクに手渡しならそういった。水色の傘で顔は隠れていたけれど、きっと彼女は、ずっとうつむきながら話しているんだろうな、と思った。
 やがて少し時間を置いて、

「――でも、やっぱりちょっと入院するみたいなんだよ」

 と、マレンは弱々しい口調でそうつぶやく。

「えっ! そうなんだ、……でもさぁ、ウチの親父も、ついこないだ入院してたしねぇ」

 無理やり明るくそういってはみたけれど、さほど慰めにもならないような、そんな言葉くらいしかボクには思い浮かばなかった。

(こんなこといわなきゃよかったな)

 と、いってしまってから少しだけ後悔する。――

 マレンは、こないだはじめて「結婚」という言葉を口にした。彼女がどの程度ホンキでいっていたのかはわからない。別にそのことを深く考えたりはしないんだけど、なんとなくその言葉の「重み」みたいなものだけが、残響として、いまだにボクの心のどこかでこだまし続けているのは確かだ。

「もし、マレンと一緒に暮らすんであれば、それならそれで構わない」と、思いながらも、永遠に彼女と一緒に暮らすことに対しては、いますぐ即答することができなかった。「即答してもいいかな」と、思える瞬間は何度もあったけど、結局は、その答えを意味なく先延ばしにしようとしている。

 あの日、「結婚」という言葉のなかに含まれたリアルな未来に触れたとき、ある種の拒絶反応が起きたのだ。なんだか自分の未来を一瞬、ものすごく間近に感じてしまったんだ。――

 中学を卒業してからの自分のことなんて、いままでなにも考えたことなどはない。ましてや「将来、なにをするか」なんてことは、もっとずっと先に考えるものだと勝手に思ってた。だから、あのとき感じた感覚は、「未知なる未来からの逃避」、……もっと厳密にいえば「みずからの人生を、みずからで決断することからの逃避」だったんだろうと思う、たぶん、きっと。――

「だからさぁ、このあと、家帰ったらお母さんの入院の準備とかいろいろ手伝わなきゃいけないのよねぇ」

 マレンは、ため息とともに言葉を吐き出す。

「どのくらい入院するとかってわかってんの?」

 と、ボクは傘で隠れた彼女の横顔に訊ねた。

「うーん、そうねぇ、……でも長くても10日間くらいだとは思うんだけど」

 マレンは左の掌を空にかざしながらそう答えると、ちょっとだけ雲を見上げて水色の傘をたたみ、ようやく今日はじめてボクのほうをちゃんと見つめた。そんな彼女の大きな瞳には、不安と哀しみの色が同時に浮かびあがってた。

(きっと大丈夫だよ!)――そういうべきなんだろうと、ボクはそのときとっさに思った。 
 けれどそんな言葉じゃ、いま彼女が抱えている不安をすべて消し去ることなんてできないだろうな、とも思っていた。――やがて、

「あっ、そうだパル! 今年の夏休み、ディズニーランドに連れてってよ」

 と、マレンは急に、少しだけ笑顔を浮かべてそういうと、また、足元の水溜りを見つめた。

「あぁ、別にいいよ」

 ボクは、無理して微笑む彼女の横顔を見つめ続けていた。

「なんか、ここんとこお母さんのことがちょっと心配だったんでさぁ、もしね、お母さんが退院したら、すんごく楽しいことがやりたいんだよねぇ。もうとにかくハジけたいんだよぉ。だから、とりあえずはね、まず『ディズニーランドには絶対行く』ってもう決めたんだ。わかった? パル、絶対行かなきゃダメだよ?」

 ボクは黙って頷いた。――

 ――最近、いや中3になってからだろうか。彼女はボクのことを以前のように「パル」とは呼ばず、名前を「ちゃん」付けで呼ぶようになったんだ。まぁ、彼女以外、誰もボクのことを「パル」などとは呼んでなかったし「なんでパルなの?」と、いろんな人から聞かれるのにもなんだか疲れてたんでちょうどよかった。

 そもそも「渋谷のパルコが好きだから――」なんて冗談に決まっているのに、それをすっかり真に受けた彼女もちょっと問題だとは思うんだけど、……

 このところ、ほとんど間違わなくなっていたけれど、今日にかぎってマレンは中3になってから呼びはじめた「カミュちゃん」じゃなく、ボクのことを、むかしみたいに「パル」って時々呼んでいる。

 ボクのほうから、なにか違う話題を探さなきゃと思ったけれど、マレンが無理して『いつもの通りの彼女』を装っていることが痛いくらいに感じられ、なんだかものすごくせつなくなった。そして、ボクは彼女のことを、とにかく無性に抱きしめたいと思ってたんだ。

 それはクリスマスの夜のときとは明らかに違う感覚なんだろうと思う。哀しみを抱え込んだ、いまの彼女を救えるものは、きっと安易な慰めの言葉なんかじゃない気がしたんだ。

「ポツリ」――やがて、雨粒がひと粒、頬に当たる。
 結局、彼女を抱きめることも慰めることもできぬまま、足元の路面がだんだんと黒い粒状の染みで重たく覆われていくのを、ただボクは眺めていた。濃い灰色の雲を見上げてマレンがつぶやく。

「絶対だよ! ディズニーランドだからね」

「いいよ。わかった。ディズニーランドでもドリームランドでも、どこでも行こうよ」

「んもう! ちゃんとディズニーランド行くんだからね。……ちゃんと絶対一緒にきてね。カミュちゃん、……」

(やっと『カミュちゃん』って、呼んだな)

「わかったよ、――」

 当然、マレンのお母さんの容態とディズニーランドが同じ「重み」なわけなどない。でも、いまの彼女にとって、ディズニーランドに行くことだけが唯一の心の拠りどころなんだろうな。「その年齢はもう大人だ」と、ボクが勝手に思ってるだけで、彼女はまだ、たかだか15歳の少女に過ぎないのだ。

 マレンがいま、もう一度ホンキで「結婚して欲しい」と、この場でいったのならば、きっと「いいよ」って、すんなりいえそうな気もする。だけどボクからは、その言葉を彼女に伝えることがどうしてもできない。

「いつか結婚しようね」って冗談ぽくでも、もしいえば、少しはマレンが救われるんだろうなって、……ずっと思っているくせに、――――




【2012.03.23 記事原文】

せっかくなんで「Artists United Against Apartheid」
の参加にクレジットされている何人かのアーティストの名曲を
ご紹介していきたいと思う。


まずは 10ccの3rdアルバム『The Original Soundtrack』から
コーラスアレンジが斬新な彼らの代表曲となったバラード
「I'm Not In Love」をどうぞ♪






I'm Not In Love - テン・シー・シー
3rdアルバム『The Original Soundtrack』 1975年
アルバムお薦め度「持っていても良いでしょう」

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【Re-Edit】青春の輝き - カーペンターズ 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


I Need To Be In Love






Epi-19

 1983年9月10日(土) 中学3年の二学期
 2時限目が終わった休み時間

 ボクにはまだ「愛」という感情が、自分をどう変えてしまうものなのかはよくわからない。「恋」というものならば、なんとなくわかるような気もするけどね。――「好き」であることとはまったく別の、近くて遠いような距離感。……明日も会えるはずなのに、いまだけは離れたくないと願う、抑えられないほどのわがままで孤独な焦燥感。――もし本当にそれが「恋」だとするならば、それはあまりにも苦しいものだ。

 中学3年になる前の春休み、川澄マレンのために作った曲。――特にタイトルなどつけてなかったその曲を、「一生大事にするね」と、彼女はいった。去年のクリスマス、――あのとき彼女に対して抱いた、心が徐々に締めつけられてくようなほろ苦い感覚。――

 たぶん、それが「恋」なのであろう、せつなさにも似たその想い。あの素直な胸の苦しみを、わずか数行程度に吐き出してしまえば済むはずだったんだ。何度も自問し、それに自答してみたけれど、すでに彼女に曲を送ってしまったいまでさえ、あの歌詞の内容がボクの本心だったかどうかはわからないままだ。……

 でも、きっと80%くらいは本心だったんだろうと思う。彼女への想いが、一瞬メーターを振りきってしまうことも何度かあったけど、いつも100%彼女のことだけを考えているわけでもなかった。だからきっと平均すれば80%くらいなんだろうな。ってなんとなく思うんだ。――

 中学3年になると、川澄マレンとはクラスが離れてしまった。
 互いのクラスのあいだには四つの教室が挟まれていた。階段をあがって一番手前にボクの教室、そしてもっとずっと奥のほうにマレンの教室があった。

 休み時間や体育の授業で彼女が廊下を通るとき、うしろの鉄製扉にはめられたガラスパネルの向こうから、いつだってマレンは小さく手を振ったり舌を出したりていた。そんなときはボクも、ちょっとだけ掌(てのひら)を彼女のほうへ向けるようにしながら笑って応えてた。――そして前方の扉を通り過ぎる際、彼女は決まってうしろを振り返り、ガラスの向こうから大きな薄茶色したいつもの瞳でもう一度、必ずボクのことを見つめてたんだ。――

 ウォークマンからは、カーペンターズの儚いバラードナンバー、「青春の輝き(I Need To Be In Love)」が流れている。ボクが幼い頃、はじめて好きになった洋楽曲は、カーペンターズの「トップ・オブ・ザ・ワールド(Top of the World)」と、ママス&パパスの「夢のカリフォルニア(California Dreamin')」、その二曲だ。……ママス&パパスのレコードはいまだに持ってないけれど、小学生のとき買ってもらったカーペンターズのベストアルバムは、中学に入ったいまでもたまに聴いている。

 まだそんなに長く生きてるってわけじゃない。けれど、彼らの歌を聴いてると、郷愁心を煽(あお)られるような、なんだか甘酸っぱい懐かしさに心の奥がくすぐられる。とにかく、やけにセンチメンタルな気持ちにさせられてしまうんだ。――

 9月に入ってからは、昨日くらいまで、ずっとすっきりとしない天気が続いてた。けれど今日は久しぶりに湘南の空は清々と晴れ渡っている。揺れ動く白波は波間に無限の影を生み、白銀色した陽光が、蒼い水面(みなも)に「キラキラ」と煌(きら)めく。大きな窓ガラスの向こうに広がる静かな海を眺めて、ボクはずっと思い出してたんだ。

 振り返ったマレンが、笑顔で入り口のガラスパネルの向こうからボクのことを見つめてた、あの日々のことを。――たしかにボクらは、何気ない日常のなかで互いの存在の大きさに気づきはじめ、時々2人がずっと寄り添い生きてく未来を笑って語り合ったりしながら、――そして、喜びや悲しみを同じ分量づつ分け合いながら、ボクらなりに精一杯、淡く、せつないほどに光輝く青春の日々を、ともに過ごしてきたんだろう。――

 9月になっても、依然として真夏の暑さはずっと続く。
 それはまるで彗星が引き連れる長く伸びた軌跡のよう、この街の上空に、もうしばらくはただよい続けることだろう。南側の窓からは、うっすらと潮の香りが風に紛れる。ボクはぼんやり教室のうしろの扉に目をやった。川澄マレンの嬉しそうな笑顔が、もう二度とガラスの向こう側に映し出されやしないことなどわかってるのに、……いや、この学校のどこを探してみたって、彼女の笑い声を見つけ出すことなんて、もう二度とできやしないんだ。

 ボクらがつき合いはじめてから、ちょうど一年が過ぎようとしていたあの日、マレンはボクの前から本当にいなくなってしまったのだから。……

 彼女と過ごした一年足らずの時間のなかで、ボクらが交わした二回のキス。――あのクリスマスの夜、マレンに抱いた「恋」とでも呼ぶべきまったく不慣れな感情を、結局、面と向かって言葉では伝えることができないままにボクは彼女を失った。――いや、悪いのはボクのほうだ。――そんなことなどわかってる。

 けれど、たとえそれがカセットに吹き込まれたものだったとしても、ボクの想いを曲にして彼女へ渡せたことだけが、いまとなってはせめてもの救いだ。

――――ボクはいま、生まれてはじめて誰かに対する愛(いと)しさってものを感じ、その愛しい誰かの面影に、絶えず心を引き裂かれている。――――

 心の内側で湧き起こる欲望や衝動と、心の外側でそれを隠し平静を装う理性的な自分とがひたすら感情のせめぎ合いを繰り返す。――ほかのあらゆる現実を忘れさせてしまうほど、そのことだけに心が捕らわれてしまう。内と外、どちらが本当の自分なのかまったくわからなくなってしまうこと、……もしくは、この衝動と理性がせめぎ合っている状態こそが、きっと「恋しい」って気持ちなのだろう。

 いままで当たり前のようにして目の前にいた人が、ある日からいなくなってしまった風景のなか、やがて時間は微かにただようその人の移り香までもを現実と中和させながら、ゆるやかに、――ゆるやかに、――だんだん薄めつつ、あとかたもなく透明にしてゆく。
 その人の存在を日々の暮らしでまったく感じられなくなったとき、残された記憶のなかにボクたちは、その人の面影を見出そうとしはじめるのだ。記憶は音を増しながら鮮明な色彩とともに心のなかで繰り返し再生されてゆく。何度も再生され続ける映像に映し出されたその人は、なぜなんだろう、……いつだって、ずっと笑顔だ。

 なにもマレンと、もう二度と会えなくなったわけじゃない。でも、ボクらのあいだに生み出された現実的な距離感よりも、引き離された心の距離感のほうが遥(はる)かに、いまは強く感じられてしまう。

(なぜあんなことをいってしまったんだ、……)

 後悔ばかりが胸の内から湧きあがり、ため息となり吐き出されてく。こぼれ落ちてく憂愁(ゆうしゅう)が現実を溶かすかのよう、彼女のいない日常の風景にぽっかり穴を開けていく。心のなかに刻み込まれた彼女の笑顔は、ボクの意思とは無関係にひたすら再生され続ける。それを止めることなどボクにはできない。いや、たぶん、……きっと誰にも止められやしないだろう。

 もし「愛する」ということが「恋する」ことより遥かに苦しいものならば、誰かを愛した瞬間、いまのボクはこの世から存在しなくなってしまうに違いない。――きっとそこにいるのは、別の自分に支配された、いまのボクなのだ。…………



【2012.03.23 記事原文】

ちょっと登場が遅かった気もするが、
70年代といえば、やはりポップスの先駆けとなったカーペンターズ!

兄妹の関係で、ここまで売れたのも珍しいデュオ。


ヘレンも「一番好きだった」と言う名バラードで、
日本でもドラマに使用され、カーペンターズを知らない世代にも
一躍その存在を知らしめた「I Need To Be In Love(青春の輝き)」
をチョイス♪






I Need to Be In Love - A Kind of HushI Need To Be In Love(青春の輝き) - カーペンターズ
7thアルバム『A Kind of Hush』 1976年




【Re-Edit】 We're All Alone - Boz Scaggs 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


We're All Alone






1984年2月4日(土)

「ユカはね、小学校の頃からいつも寝るのがすごく早かったのよ」

ぼんやり薄暗い部屋のなか、すでに小さな寝息をたてはじめてるユカリの寝顔を見つめてメイがささやく。

「倉田さん、なんだか今夜はやけにハシャいでたねぇ」

両ひざを「くの字」にし、ボクも畳の上へと座り込み、枕元のスタンドの灯りに映るユカリの艶やかな長い黒髪を見つめた。

「ユカにとっては、去年はじめてこの家で、シーナ君と会った日のことが忘れられないんだと思うの」

ユカリの寝息を見つめて、そっと静かにメイがつぶやく。

「そりゃまぁ、オレだって忘れられないけどね」

と、メイの隣でボクも声を潜ませる。やがて彼女はボクのほうへとゆっくり視線を移し、涼やかな瞳で微笑んだ。

「ユカにとっては、――まぁ、ワタシもなんだけど、あの頃、学校の男の子となんてほとんどまともに話したことなんてなかったのにね、あの日、シーナ君と会ってからワタシたちふたりとも、本当にいろんなことが変わっていったの。アロハのみんなとも急に仲良くなりはじめて、あれから僅か半年足らずで、すごい数の知り合いがね、気がついたときにはワタシたち、――特にユカのまわりには大勢いたの」

赤々(あかあか)と色温度を帯びた電気ストーブのヒーターが、ボクらの足元の畳を柔らかく照らし出す。透き通るほどに白いメイの表情も、ほのぼのと赤褐色(せっかっしょく)に染められていく。

「ワタシ、小学校のときからずっとユカのことを見てきたからね、……そのことが堪(たま)らなく嬉しかった。彼女のまわりにいろんな友達がいるっていう風景がね、本当に信じられなかったの。――きっとミチコもそうだけれど、シーナ君のそばにいるとね、いままでどれだけ欲しくても決して得ることができなかったものを、みんな自然と手にすることができるようになっていくんだと思う」

暗がりをふうわり漂うしじまのなかで、ボクはメイの横顔に映し出される安堵の色を見つめていた。

「ユカね、いまでも、たまにあの日のことをよく話すのよ。シーナ君とはじめて会った日のことを、――ユカにとっては本当に忘れられない日なんだろうなって思う」

口元を微笑ませ、そっとささやくメイの声にはなんだか不思議な懐かしさが滲んでいる。

「だって、倉田さんや李さんとは、あれからほとんど毎日、学校で――」

そこまでいいかけたが、繋がるべき次の言葉を急に見失ってしまった。ボクとメイ、それにユカリの3人だけで、こんなにも長いあいだ一緒の時間を過ごしたことなんて、考えてみればあれから一度もなかったんだ。ユカリは放課後、アロハスターの練習を音楽準備室へ見にきてたんで、よく一緒に帰ったりもしてたけど、メイとは今年に入ってからの2ヶ月間、ほとんど学校でも会話などしていなかった。

「あの日以来、ユカはずっといってたのよ。『いつかまた、あのときみたいに3人で遊べるかな』って。ワタシは『きっと、またそのうち3人で会えるんじゃない?』って、答えてたんだけれどね、そのあとシーナ君とは、ワタシほとんど一緒の時間を過ごす機会がなかったから。――

ユカは、アロハのバンド練習が終わってから、たまにシーナ君と一緒に帰ってたみたいだから、ユカったら、なんだか自分だけシーナ君と会ってるってことが、すごくワタシに対して申し訳なかったみたいでね、『私がシーナ君をもう一度誘うから、また3人で一緒に遊ぼう』って、ずっと気にしてくれてたの。別にそんなに気を使わなくてもいいのにね。――だけど、このところシーナ君、なんだかすごく様子がおかしかったでしょ?」

(たしかにボクは、ほんのつい数日前まで暗闇の真っ只中にいたのだ。激烈に蘇った川澄マレンへの懺悔の想いと、あの幻覚の戦場で見せられたロミイという名の少女の死、そして『L』と『MDMA』を続けざま服用したことによるドラッグ・オーバードーズ、――アロハのみんなが闇のなからか引っ張りあげてくれるまで、メイに対する想いなどすっかり忘れてしまっていたことだけは確かだ。――)


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.21 記事原文】

ボズ・スキャッグスといえば、やはり外せないのが
70年代を代表する不朽の名曲「We're All Alone」♪
※ボクもカラオケで良く歌いますね♪


彼の出世作となった1976年のアルバム『Silk Degrees』収録曲。

彼のアルバム作品としては、一番聴き応えのある内容ですかね。。。





We're All Alone - ボズ・スキャッグス
アルバム『Silk Degrees』 1976年



【Re-Edit】 Still They Ride - Journey 【80年代バラード】

【Re-Edit】【80年代洋楽バラードの名曲】


Still They Ride






1983年9月13日(火)


思いのほか小さな極楽寺の駅舎が、暮れかかる夕陽の影に浮かんでる。――その様(さま)が、あまりに侘(わび)しく見えたので、ボクは少しだけ感傷的な気分になってしまった。――いや、この街の佇(たたず)まいそのものが、どことなく鎌倉の栄華なる面影を敢えて拒絶する潔い静けさに満ちているようにも思う。時代によってもたらされる利便性を良しとせず、時を止め、不自由さのなかに美徳を見出す精神的風土に包まれているような、――なんだかそんな気がしたんだ。

――きっと、もう時間が遅いせいもあるのだろうが、ひとつ手前の長谷駅で降りた十分の一ほども、この駅を降りる観光客の姿はなかった。そのほとんどが、おそらくこの地で暮らす人たちなのだろう。いずれにしたって、閑寂(かんじゃく)なこの街の裏路地を、大勢の観光客が行き交うほうが明らかに不自然なんだろう。

寺院の小さな山門は、江ノ電の線路のすぐ傍らに見えてるけれど、駅舎からダイレクトに極楽寺のある側へと出ることはできない。ボクたちは、いったん逆側の線路沿いを鎌倉方面へと少し戻る。

谷間を走る線路の上に渡された朱色の小さな橋の欄干からは、ちょうどトンネルを抜け出てくる江ノ電が絶好のアングルで望める。田代はなんとなく、その風景が気になっているようだった。――

「『極楽寺に行きたい』っていったのって誰だっけ?」

誰に、というわけでもなく、ひなびた小径(こみち)を歩きながらボクはそう訊く。

「あぁ、ワタシがいったの、『行ってみたい』って。――観光ガイド読んでてね、なんとなく静かでいいとこそうだったから」

ボクの少しうしろから、メイの声がした。
だんだんと西に傾く陽射しの色は、この極楽寺の茅葺きの山門を照らし出すにちょうどよい風味に、淡色の黄(き)いろみを帯びはじめてきている。程よく手入れが行き届いた細い参道を囲う草木の陰を踏みしめてボクらは静かに山門のほうへと歩んでいった。

「でもさぁ、あんまりお寺にいられる時間ないよ。……たぶんもう40分くらいしか」

ショウカが右隣からボクを見つめる。極楽寺は、どうやら閉門時間も早いみたいだ。

「まぁ、そんな大きな寺じゃないみたいだし、そんなに長居はしないでしょ」

ボクはそういいながら、山門脇のくぐり戸から境内へ入る。深々とした葉々の茂みに覆われたほかの寺院よりも、極楽寺は陽射しが眩しく感じられた。

中低木を中心に植樹され、桜のほかに、背の高い木がほとんど見受けられないひっそりと静まり返った境内のなかは、なんとなく雑多で、どことなく無造作にさまざまな草木が植樹されてるようにも思えるが、それはそれで、それなりにひとつの寂寞(せきばく)たる風情を醸(かも)し出していた。

本堂を参拝し終え、山門のほうへと戻る途中に置かれていた木製ベンチの休憩所でボクらは一息入れる。鉄の支柱が頭上の格子状ルーフを支え、その上に両側から伸びた木々の枝葉が木陰をつくり出していた。

「たしかに静かなお寺だねぇ」

そういってショウカは笑う。

「まぁ、嫌いじゃないけどね、こういう感じも」

木陰の枝葉をこぼれ落ちる光の行方を足元に見つめながら、ボクも少し笑う。

「でもさぁ、そもそも今回の鎌倉の課外授業って、来月行く修学旅行のための予行演習なんでしょ?」

ショウカがそういうと、静かにメイが唇を動かした。

「そうね、修学旅行で京都に行くときも、また同じような予定表を作らなきゃならないから」

「もしさぁ、またグループ分けするんならさぁ、今日と同じメンバーで行きたいよね? あと、可哀想だから、今度はマキコとかも入れてあげてさぁ」

と、またショウカが笑う。

「マキコ、本当に寂しがってたからね。別のグループになっちゃったこと」

そういって、メイも、うっすら口元を微笑ました。

(そういえば、本当ならば佐藤マキコも、最初のグループ分けのときは同じ班だったんだよな。結局、今回はマキコって誰と一緒のグループだったんだ?)




【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】




【2012.03.18 記事原文】

ジャーニー1981年発表のアルバム『エスケイプ』。


前作『ディパーチャー』の代表曲「Any Way You Want It」
あたりからのキャッチーな路線を因襲し、ハードロックと呼ぶには
難があるものの、まぁいわずもがなの名盤である。


この作品も、自分のおこずかいで最初のほうに買ったアルバム。


いまだにCM等で使用されている珠玉バラード「OPEN ARMS」も良いけど、
とりあえず当時A面?に入っていた「Still They Ride」を選んでみました。



当時聴いていた音楽を、こうして30年後に聞いてみると、
懐かしき中学時代の風景が、まるで先週の事だったかのように
浮かび上がってくるのである。



ちなみに…
ジャーニーは、ボクが初めて武道館コンサートに行った
記念すべきバンドでもある。

日本では、1983年発表の「セパレイト・ウェイズ」あたりから
彼らの認知度が増したものと思われます。






Still They Ride - EscapeStill They Ride - ジャーニー
7thアルバム『Escape』収録曲 1981年
アルバムお薦め度 「☆名盤です☆」



【Re-Edit】 Your Song - Elton John 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


Your Song






1983年9月13日(火)

――建長寺の外門を出ると、ボクたちは鎌倉街道を鶴岡八幡宮のほうへとのぼっていった。「巨福呂坂(こぶくろざか)」と呼ばれる、この切通しをしばらく行くと、道はやがて緩(ゆる)やかに下りはじめる。この坂道も午前中に比べれば、だいぶ観光客で賑わい出していた。

「結局さぁ、なんだかんだで結構いい時間になっちゃったわよねぇ」

山々の深緑が、背後のほうへ遠ざかっていくのを眺めながらショウカはつぶやく。
午前中、ボクたちが建長寺を訪れてから、すでに4時間近く経っていた。

隣で田代は制服を脱ぎ、さっきDt中学のヤツらと交戦したとき、できたのであろう肩口に開いた裂け目をぼんやり見つめている。ボクは、右の耳にヘッドフォンを差したままうしろを振り返り、並んで歩くメイとミチコを確かめた。

さっきカセットはオートリバースされ、ヘッドフォンからは、B面一曲目に録音されたエルトン・ジョンの「僕の歌は君の歌(Your Song)」が流れている。この曲のピアノを何度か弾いてみたことがあるけれど、延々、アルペジオ状態で和音コードを弾かねばならない右手のパートが、思いのほかにシンどい曲だ。けれど、その旋律の美しさは、70年代初期のバラードのなかでも群を抜く。とりわけ抑え目に重なるストリングスの音色が、ものすごく心に染み渡る。――

坂道は右のほうへとなだらかにカーブしており、正面には鶴岡八幡宮を囲う樹々の枝葉が生い茂る。今日、すでに二度もDt中のヤツらと喧嘩したせいだろうけど、なんだかこの坂道を歩くのもだんだシンドくなってきた。きっとボクのカラダは、明日には全身アザだらけになってることだろう。

ふと、うしろからミチコが近寄ってきて、田代のずんぐりした背中に声をかける。

「あの、……ワタシ、たぶんお裁縫セット持ってると思うから、あとで縫ってあげる」

田代は、じっと制服の穴を見つめていたが、やがてミチコのほうへ肩越しにつぶやく。

「あっ、ありがとう。……でも、いいよ。ウチに帰ってから自分で縫うから」

「お前さぁ、女の子に縫ってもらったほうがいいに決まってるだろ?」

と、横目で田代を見ながらボクは笑う。

「もし嫌じゃなければ、ワタシ縫うよ」

ミチコにそういわれ、やがて田代は、

「あ、……それじゃぁ、お願いしようかな」

と、照れながらいった。

「とりあえず八幡宮、行ってみようよ」

鎌倉街道沿いの専用駐車場を過ぎて、その先にある小さな鳥居をくぐり、ボクたちは鶴岡八幡宮の裏手側、「裏八幡」の石階段をのぼった。

うっそうとした老木の陰を抜けると、朱色を基調とした雅やかな本宮の社殿が見えてくる。やがて境内に入り、女の子たちは売店を覗きながら、お守りなどのお土産を選びはじめる。ボクは本宮を眺めながら、7年前、おそらく最後にこの場所へきたんであろう七五三のときの記憶を思い出そうとしたけれど、せいぜい、「千歳飴の先をどれだけ細くできるか」を、妹と競い合って舐めてたことくらいしか思い出せなかった。

(いや、――両親たちと『どこかへ出掛けた』という記憶自体、ほとんど思い出すことができない。最後に家族で行った場所って、いったいどこだったんだっけな?)

本宮の正面からうしろを振り返る。大石段のすぐ下に「舞殿」と呼ばれる舞台が建ち、その向こうには広々とした参道が、ずっと赤い鳥居のほうまで延びていた。この参道のもっと先には鎌倉の海がある。

――そのときボクは思い出していたんだ。最後に会った、マレンのお母さんが入院している病院近くの海ではなくて、その前週、彼女と2人でお墓参りに行った帰り、なんとなく江ノ電を降りた七里ガ浜の海岸の風景を。

【もしさぁ、川澄のお母さんが元気になったらね。2人でさぁ。一緒に暮らそうか……】

あの日、ずっと霧雨を降らし続けていた雲間から、ようやくこぼれ落ちてきた7月の太陽が、彼女の髪を夕暮れ色に染めてゆくのを見つめながらボクは、そんな決意の言葉を口にしたんだ。――けれど、その後、親から現実を突きつけられ、ボクの描いた夢物語をさんざん罵られた挙句、自暴自棄になったボクは彼女に別れ話を口走ってしまう。

(その結果、いまのボクに、いったいなにが残ったというのだろうか? たしかにマレンと過ごした日々の記憶は、苦しくなるほど大量に心のなかへ残された。けれど、どれだけ笑顔のマレンを思い出しても、いつだって最後には、失意に震えた彼女の瞳を思い出してしまう。――ボクを見つめるその大きな瞳から、静かに溢れ落ちていった透明な涙を思い出してしまう。――その涙の色を忘れようとボクはまた、笑顔のマレンが映し出される光景を必死になって思い出そうとする。――そんなことばかりが、ただ毎日、ひたすらに繰り返されてゆく)

もう潮の香りなんてほとんど感じられない鎌倉の風が心に吹き込んできて、どれだけ閉じようとしてみても、マレンの泣き顔が残されたページばかりを「パラパラ」と、勝手にめくり続けてくんだ。――いや、違うな。この風のせいじゃない。――そんなの最近、いつものことじゃんか。




【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.17 記事原文】

エルトン・ジョンの代表曲の「Your Song」
1970年つうことは、ボクが2歳の時の曲か?
ん?42年前ってことかぁ?
いやいや。。。

歌詞も素晴らしいが、この当時のバラードの中で
何よりもピアノやアコギ、そしてストリングスのアレンジが際立って良い。
紛れもないバラードの傑作である。






Your Song - Elton John
Your Song - エルトン・ジョン
2ndアルバム『Elton John』 1970年


【Re-Edit】 The Water Is Wide - Karla Bonoff 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


The Water Is Wide






1983年9月13日(火)

すでに昼の11時を少し過ぎていた。――
ボクたちは、背の高い樹々に左右を囲われた、建長寺の長い石階段をのぼりきった最奥部にある、「半僧坊」と呼ばれる高台から、幾重(いくえ)にも重なった、色深き樹林の枝葉の向こうに建ち並ぶ山門や仏殿の屋根を見下ろしている。

(ずいぶんと高いとこまで登ってきてたんだな。――そういえば、この天狗像たちが参拝客を出迎えている展望台からの眺めこそ、唯一、ボクの幼い記憶のなかに残されていた、この寺の風景だったはずだ。だけどその当時、これほど高いとこまで登ってきたっていう覚えがまったくないし、……それに、こんなにいっぱい天狗がいたっけなぁ?)

眼下の崖に転々と佇む小さな天狗像たちを見つめながら、多少、曖昧な記憶と乖離(かいり)していたそんな景色をぼんやりと眺め続け、ふとボクは、山間に響く蝉の鳴き声がすっかり小さくなってしまっていたことに、いまさらながら気づかされる。

「このペースだとさぁ、予定のコースを全部まわるのは絶対無理だよね?」

と、林ショウカが小さな顔を少し曇らす。
本当であれば円覚寺を出たあと、鎌倉街道を向こう側へと渡り、源氏山の麓(ふもと)にある「縁切寺(駆け込み寺)」として有名(らしい)な東慶寺と、そこから鎌倉街道を少しのぼった先の浄智寺を訪れる予定だった。

けれど、今回の先導役を買って出たショウカが、ボクたちを先に建長寺へと案内してしまったことで、その手前にあった道向こうの2つの寺院を素通りしてしまっていたようだ、

「でもまぁ、いまさら戻るのもなんだか面倒くさいしね」

と、ボクは小天狗たちの背中の羽を見つめながら笑う。そして「半僧坊大権現」と書かれたのぼりが無数にはためく、コンクリートで塗り固められた石塀から、建長寺の全景の向こうに広がる鎌倉の山々を見つめ続ける李メイの横顔に目をやる。

一見、クールに思えるメイの瞳はいつだって『なにか』によって曇らされてる。それがなんなのかはボクにもよくわからない。けれど、もし深い哀しみ色したせつなさを、心に抱え込んだとするならば、人はみな、誰もがきっと彼女と同じ翳(かげ)りを瞳のなかに宿すことになるはずだ。――なんとなく、そんな気がする。

「あぁっ! 忘れてた!」

突然、ショウカがそう叫ぶ。

「そういえばさぁ、すっかり忘れてたけど、発表会のときの写真を撮らなきゃいけなかったんじゃん! 田代君、カメラ持ってきてるんでしょ?」

ショウカに問い詰められると、田代ミツオはうなずき、カバンのなかからカメラを取り出す。

「もう! だったらなんで、『写真は撮らなくていいの?』って、教えてくれないのよ! さっき円覚寺の写真、撮り忘れちゃったじゃん!」

続けざま甲高い声でショウカにそう怒られて、田代はずんぐりした背中を小さく丸め込む。

「けどさぁ、さっきは写真どころじゃなかったじゃん。だって、いきなり2人で、あの不良連中を走って追いかけていっちゃったんだから」

そういってショウカをなだめると、ボクはカメラを手にしょんぼりうつむく田代に笑いかけた。

「まぁ、せっかくだから、記念にここで一枚くらい写真でも撮るべか」

田代は、なにもいわず少し歩いて距離を取ると、展望台の石塀に沿って並んでいるボクらのほうへとカメラを向ける。慌ててファインダーの外側へ逃げ出そうとする小山ミチコをメイが呼び止めた。

「ミチコ、――別に誰かに見せるわけじゃないんだから、みんなで一緒に撮ろう?」

穏やかな口調でメイがそういうと、ミチコは少しはにかみながらボクらのほうを振り返った。ふたたびメイが、薄紅色した唇を微(かす)かに開く。

「こうしてみんなと一緒にいるんだから、一緒に撮ろうよ。ね?」

優しく諭すようにそういわれると、ミチコは下を向きながら戻ってきて、細い体をボクのうしろ側へと隠すよう、一番後方の場所をみずから選ぶ。ボクは彼女を肩越しに見つめ、

「オレのほうがキミより背が高いんだからさぁ、オレの前にくれば?」

と、いって、右ひじを柔らかく掴むと前へと引っ張り、その細い背中を軽く押す。
ボクに触れられたとき、一瞬「ビクッ」としたけれど、ミチコはそのままボクのすぐ前に立ち、カメラを構える田代を見つめた。

するとミチコの少し前にいたメイが「チラッ」と振り返り、すぐ右隣までうしろ向きに二、三歩さがってくると、やがてミチコの細い両肩にそっと手を置いた。ショウカはそんな2人の前に笑顔でかがみ込んだ。

「カシャッ」――田代がシャッターを押す。するとショウカが大きなアニメ声で笑う。

「あのさぁ田代君、もし撮るならさぁ、なにかいってくれないとダメじゃん。はい! じゃぁもう一枚ね!」

ショウカにそういわれ、田代は、やや思い悩んだような素振りを見せたが、

「じゃ、じゃぁ、……撮るよ。――さん、はい、――」

恥ずかしそうに掛け声をかけ、シャッターを押した田代が、ゆっくりファインダーから目を離す。――彼はそのままなにもいわずに、じっとミチコのほうを見つめていた。ボクも、すぐ目の前にあるミチコのうしろ姿を、ただぼんやりと見つめていた。――細い肩を細かく上下に震わせながら、彼女はメイに、そっと背中を撫でられ続けていた。

(もしかしたらミチコにとって、これが、中学校に入ってからの3年間で、はじめて、ほかの誰かと一緒に彼女の姿が写し出された写真だったのかもしれない。――)

やがてボクは、田代がいるほうへと歩いていき、大きな声で彼にいう。

「そんじゃぁ、今度はお前もみんなのほうへ行け! オレが撮るから。――」



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】


【2012.03.20 記事原文】

誰が歌っている曲かは知らなくても、
一度は聞いたことがある歌っていうのは結構多いだろう。

この「The Water Is Wide」は、CM等で良く使われるが、
実際、カーラ・ボノフというアーティストを知らない人が多い。


そんなカーラの2ndアルバム『Restless Nights』から
「The Water Is Wide」を選曲♪

透明感のあるヴォーカル、歌詞、メロディ♪
三拍子揃った、まさに永遠の「ヒーリング・ソング」といえよう。

個人的に、彼女は70年代女性シンガーの中では最も好きですね。






The Water Is Wide - Restless NightsThe Water Is Wide - カーラ・ボノフ
2ndアルバム『Restless Nights(ささやく夜)』 1979年
アルバムお薦め度「持っていても良いでしょう」



【Re-Edit】 Honesty - Billy Joel 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


Honesty






1983年9月13日(火)


すべてのことを観念するよう、自嘲(じちょう)気味に吐き出されてくミチコの儚(はかな)いため息が、ほんのりと風に交わるその様(さま)をボクは見ていた。

すると、メイの隣で高欄(こうらん)の丸太に寄りかかっていたショウカが、少し泣き腫らした大きな瞳をミチコのほうへと向ける。――そして静かにささやきかけた。

「こないだ、シーナ君が谷川たちのことをやっつけたでしょ? だからもう、いままでみたくアイツらがミチコを教室でイジメたりすることもないんじゃない? だとすればさぁ、それだけでもきっと少しは変わると思うよ。ミチコがそうやって『すっかり慣れてしまってきた日常の風景』がね。これから少しずつ変わっていくと思う。――」

「ワタシの日常の風景が、……変わる?」

つぶらな瞳でショウカを見つめ、ミチコは独り言のようにそうつぶやく。しばらく黙り込んだまま、彼女は小さくカールした髪を肩のあたりでつまんでいたが、やがて「ポツリ」と、最後にひと言ささやいた。

「変わったらいいな。――本当に」

おかしないい方だけれども、いまこの回廊に座り込んでる5人の、ボク以外のみんなは、過去にイジメを受けてきた2人と、現在進行形でイジメを受け続けている2人とにちょうど分かれて座っている。ボクは林ショウカ以外の李メイ、田代ミツオ、小山ミチコの3人とは、中3で同じクラスになってから、この半年ものあいだ、ほとんど会話を交わした覚えなどはない。

けれど唯一、教室内で何度も話したことのある林ショウカと、今日はじめて一緒に過ごしてみて、彼女が抱え持つ心の複雑さをつくづく思い知らされたんだ。――おそらく彼女はむかしから他人のことを慈しみ、そして思いやることのできる優しくて清らかな心を持っていたのだろうとボクは勝手に判断している。

けれど、それに二律背反し、時折、どこかしら他人を見下し蔑(さげす)むような、すさんだ感情を心のすき間に浮かびあがらすことがある。

そのどちらの自分も、肯定も否定もできないままに、ショウカの心のなかでは絶えず、本来あるべきピュアな自分と、いくつもの辛い現実によってあとから生み出された、歪んだ別の人格とのあいだでせめぎ合いや葛藤が繰り返されてるのだろう。――

すでにショウカはそのことに、みずから気づいているのだ。――にもかかわらず、よこしまな感情をすべて消し去ることができないのは、彼女がそれほどまでに深い傷を心に背負ってしまっているせいなのかもしれない。

いずれにしたって、そのどちらの自分もショウカは正直に、あっけらかんと表へ出しちゃうものだから、よりいっそう捉えどころのない性格を、多くの人に印象づけてしまっている。――

なんとなくそんなことをぼんやり考えているうちに、やがてショウカが寄りかかる高欄の向こうから、バスガイドに先導された団体客たちが「ゾロゾロ」近づいてくるのが見えてきた。

「ぼちぼちこの寺も混んできたみたいなんで、そろそろ移動するか? きっとあの連中も、ここにのぼってくると思うからね」

と、ボクは石畳を迫りくる長い行列を見つめながらいった。――

楼上(ろうじょう)の二階から、回廊をうしろへまわり込み、狭くて急な階段を降りきると、山門のすぐ脇に吊り下がってる古さびた「梵鐘(ぼんしょう)」に目が止まる。ボクたち順々に靴を履くと、そちらのほうへと近づいていった。

「これって国宝なの?」

手前に掲げられた立て札を読みながらショウカがそういう。

そこには、一番上に横書きで「梵鐘(ぼんしょう)」、そして二行目に「重さは2.7t 国宝」と記されている。

「なんか、あまり目立ってねぇな。一番重要な『国宝』っていう部分が、――それになんだか書き方おかしくない?」

そういって、ボクは、まだらに黒ずむ青銅色の吊り鐘を見つめた。

「う~ん、これって、たしかに古いんだろうけどさぁ、だったら、絶対に、いまの山門のほうがスゴいよね。でも、あっちは、『重要文化財』なんでしょ? なんでかな?」

そういって、ショウカは「クスッ」と笑う。

やがて、ボクたちは参道を山へと向かって歩きはじめた。建長寺は、この参道に沿って主要なお堂や社殿が配置されている。柏槙(ビャクシン)と、いう巨大な古木が参道両側の植樹帯にそびえ立つその正面には、石階段三段分ほど、「ぐるり」外周を石組みされた「基壇(きだん)」と呼ばれる基礎台座に、どっしり構える寄棟造(よせむねづくり)の仏殿が見えている。石畳の参道は、シンメトリーな輪郭を美しく纏(まと)う、その荘重な社殿によって行く手を塞がれていた。

上空からは太陽が、青銅色(せいどういろ)した屋根瓦と、社殿を支えるコンクリートの基礎台座の表面を、ムラなく白一色に染めあげている。開け放たれた仏殿の正面扉の向こう側には、漆黒の陰影が凛然(りんぜん)と揺らめくように漂っていた。

それらのコントラストにつくり出された明暗の境界に、ボクはふと、歴史の折り目を垣間見たような気がしたんだ。


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.22 記事原文】

ビリー・ジョエル1978年のグラミー最優秀アルバム賞受賞
の『52nd Street(ニューヨーク52番街)』から
誰もが知っているバラードナンバー「Honesty」をどうぞ♪


日本でのビリーの知名度は、
ネッスルのCMで使われたこの曲に拠るところが大きい。


なんなんだろうか?
この歌が放つ圧倒的に哀愁漂う空気感は。。。


名バラードは世にいくつもあるが、
哀愁を切実に痛感させるような曲は、
今でもなかなか出現していない。


当然ながら、ボクが最初に買ったビリーのアルバムも
『52nd Street(ニューヨーク52番街)』である。






Honesty - 52nd StreetHonesty - ビリー・ジョエル
6thアルバム『52nd Street(ニューヨーク52番街)』 1978年



Masterpiece of the Western music of the 70s/70年代洋楽の名曲
If you want to cry/泣きたいとき
If you want to be healed/癒されたいとき
Drinking alcohol/お酒を飲みつつ
While driving/ドライブしながら
If you want to Fever/血が騒ぐ
Masterpiece of the Western music of the 80s/80年代洋楽の名曲
80's Ballard masterpieces/80年代バラードの名曲
80's Rock masterpieces/80年代ロックの名曲
80's Pops & AOR masterpieces/80年代ポップスの名曲
70's Dance masterpieces/70年代ダンス系の名曲
Masterpiece of the Western music of less than 70s/70年代未満洋楽の名曲
Less than the 70's classic Ballad/70年代未満バラードの名曲
Less than the 70's classic Rock/70代未満ロックの名曲
Less than the 70's classic Pops & AOR/70代未満ポップスの名曲
Masterpiece of the Western music of more than 90s/90年代以上洋楽の名曲
Ballade more than of the 90s/90年代以上バラードの名曲
Rock more than of the 90s/90年代以上ロックの名曲
Pops & AOR more than of the 90s/90年代以上ポップスの名曲
90's Dance masterpieces/90年代ダンス系の名曲
Masterpiece of the Japanese music/未来に残したい日本の名曲
Dedicated to sweethearts/恋する二人に捧ぐ
Spend the night with sadness/悲しみと共に過ごす夜
Nostalgic feelings/ノスタルジックな想い
In the room which shines with the morning sun/朝日が差し込む部屋で
While looking at the setting sun in a hotel/夕陽が見えるホテルで
Memories of youth/若かりし日々の思い出
If you want to fuss/タテノリしたい気分なとき
If you want to feel the Rock/かなりRockな気分
Masterpieces of Instrumental/インストルメンタルな名曲
 
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