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未来に残したい洋楽&邦楽の名曲

70~80年代の洋楽&邦楽を中心に未来に残したい名曲&名盤を独自にチョイスするBlogです☆
未来に残したい洋楽&邦楽の名曲 TOP > 【70年代】超名曲☆☆☆_バラード

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【Re-Edit/2nd】 アイム・ノット・イン・ラブ - 10cc 【70年代バラード】

【Re-Edit/2nd】【70年代洋楽バラードの名曲】


I'm Not In Love






Epi-25

 1983年6月13日(月) 中学3年の一学期
 夕方の午後3時半前

 ヘッドフォンから流れはじめたイギリスのバンド、テンシーシーの「アイム・ノット・イン・ラブ(I'm Not In Love)」――

 その淡く儚げな旋律は、生ぬるい空気をしっとり湿らす梅雨空が生み出す時間の流れと違和感なくシンクロし続けている。

 小雨そぼ降る学校帰り、曲が終わるとボクは左耳に挿してたヘッドフォンを外し、隣を歩くマレンに訊ねた。

「そういえばさぁ、お母さんの検査結果ってどうだった?」

 それは、もしかしたら単に太陽を遮る薄曇りの空のせいだったのかもしれない。――でも、いつもとは少しだけ様子の違う彼女のよそよそしい態度に、なんとなくボクのほうから「そう訊かなきゃいけない」ように思えてきたんだ。

「うーん、まだはっきりとは、いってくれないんだけどね。……」

 マレンはヘッドフォンの一方をボクに手渡しならそういった。水色の傘で顔は隠れていたけれど、きっと彼女は、ずっとうつむきながら話しているんだろうな、と思った。
 やがて少し時間を置いて、

「――でも、やっぱりちょっと入院するみたいなんだよ」

 と、マレンは弱々しい口調でそうつぶやく。

「えっ! そうなんだ、……でもさぁ、ウチの親父も、ついこないだ入院してたしねぇ」

 無理やり明るくそういってはみたけれど、さほど慰めにもならないような、そんな言葉くらいしかボクには思い浮かばなかった。

(こんなこといわなきゃよかったな)

 と、いってしまってから少しだけ後悔する。――

 マレンは、こないだはじめて「結婚」という言葉を口にした。彼女がどの程度ホンキでいっていたのかはわからない。別にそのことを深く考えたりはしないんだけど、なんとなくその言葉の「重み」みたいなものだけが、残響として、いまだにボクの心のどこかでこだまし続けているのは確かだ。

「もし、マレンと一緒に暮らすんであれば、それならそれで構わない」と、思いながらも、永遠に彼女と一緒に暮らすことに対しては、いますぐ即答することができなかった。「即答してもいいかな」と、思える瞬間は何度もあったけど、結局は、その答えを意味なく先延ばしにしようとしている。

 あの日、「結婚」という言葉のなかに含まれたリアルな未来に触れたとき、ある種の拒絶反応が起きたのだ。なんだか自分の未来を一瞬、ものすごく間近に感じてしまったんだ。――

 中学を卒業してからの自分のことなんて、いままでなにも考えたことなどはない。ましてや「将来、なにをするか」なんてことは、もっとずっと先に考えるものだと勝手に思ってた。だから、あのとき感じた感覚は、「未知なる未来からの逃避」、……もっと厳密にいえば「みずからの人生を、みずからで決断することからの逃避」だったんだろうと思う、たぶん、きっと。――

「だからさぁ、このあと、家帰ったらお母さんの入院の準備とかいろいろ手伝わなきゃいけないのよねぇ」

 マレンは、ため息とともに言葉を吐き出す。

「どのくらい入院するとかってわかってんの?」

 と、ボクは傘で隠れた彼女の横顔に訊ねた。

「うーん、そうねぇ、……でも長くても10日間くらいだとは思うんだけど」

 マレンは左の掌を空にかざしながらそう答えると、ちょっとだけ雲を見上げて水色の傘をたたみ、ようやく今日はじめてボクのほうをちゃんと見つめた。そんな彼女の大きな瞳には、不安と哀しみの色が同時に浮かびあがってた。

(きっと大丈夫だよ!)――そういうべきなんだろうと、ボクはそのときとっさに思った。 
 けれどそんな言葉じゃ、いま彼女が抱えている不安をすべて消し去ることなんてできないだろうな、とも思っていた。――やがて、

「あっ、そうだパル! 今年の夏休み、ディズニーランドに連れてってよ」

 と、マレンは急に、少しだけ笑顔を浮かべてそういうと、また、足元の水溜りを見つめた。

「あぁ、別にいいよ」

 ボクは、無理して微笑む彼女の横顔を見つめ続けていた。

「なんか、ここんとこお母さんのことがちょっと心配だったんでさぁ、もしね、お母さんが退院したら、すんごく楽しいことがやりたいんだよねぇ。もうとにかくハジけたいんだよぉ。だから、とりあえずはね、まず『ディズニーランドには絶対行く』ってもう決めたんだ。わかった? パル、絶対行かなきゃダメだよ?」

 ボクは黙って頷いた。――

 ――最近、いや中3になってからだろうか。彼女はボクのことを以前のように「パル」とは呼ばず、名前を「ちゃん」付けで呼ぶようになったんだ。まぁ、彼女以外、誰もボクのことを「パル」などとは呼んでなかったし「なんでパルなの?」と、いろんな人から聞かれるのにもなんだか疲れてたんでちょうどよかった。

 そもそも「渋谷のパルコが好きだから――」なんて冗談に決まっているのに、それをすっかり真に受けた彼女もちょっと問題だとは思うんだけど、……

 このところ、ほとんど間違わなくなっていたけれど、今日にかぎってマレンは中3になってから呼びはじめた「カミュちゃん」じゃなく、ボクのことを、むかしみたいに「パル」って時々呼んでいる。

 ボクのほうから、なにか違う話題を探さなきゃと思ったけれど、マレンが無理して『いつもの通りの彼女』を装っていることが痛いくらいに感じられ、なんだかものすごくせつなくなった。そして、ボクは彼女のことを、とにかく無性に抱きしめたいと思ってたんだ。

 それはクリスマスの夜のときとは明らかに違う感覚なんだろうと思う。哀しみを抱え込んだ、いまの彼女を救えるものは、きっと安易な慰めの言葉なんかじゃない気がしたんだ。

「ポツリ」――やがて、雨粒がひと粒、頬に当たる。
 結局、彼女を抱きめることも慰めることもできぬまま、足元の路面がだんだんと黒い粒状の染みで重たく覆われていくのを、ただボクは眺めていた。濃い灰色の雲を見上げてマレンがつぶやく。

「絶対だよ! ディズニーランドだからね」

「いいよ。わかった。ディズニーランドでもドリームランドでも、どこでも行こうよ」

「んもう! ちゃんとディズニーランド行くんだからね。……ちゃんと絶対一緒にきてね。カミュちゃん、……」

(やっと『カミュちゃん』って、呼んだな)

「わかったよ、――」

 当然、マレンのお母さんの容態とディズニーランドが同じ「重み」なわけなどない。でも、いまの彼女にとって、ディズニーランドに行くことだけが唯一の心の拠りどころなんだろうな。「その年齢はもう大人だ」と、ボクが勝手に思ってるだけで、彼女はまだ、たかだか15歳の少女に過ぎないのだ。

 マレンがいま、もう一度ホンキで「結婚して欲しい」と、この場でいったのならば、きっと「いいよ」って、すんなりいえそうな気もする。だけどボクからは、その言葉を彼女に伝えることがどうしてもできない。

「いつか結婚しようね」って冗談ぽくでも、もしいえば、少しはマレンが救われるんだろうなって、……ずっと思っているくせに、――――




【2012.03.23 記事原文】

せっかくなんで「Artists United Against Apartheid」
の参加にクレジットされている何人かのアーティストの名曲を
ご紹介していきたいと思う。


まずは 10ccの3rdアルバム『The Original Soundtrack』から
コーラスアレンジが斬新な彼らの代表曲となったバラード
「I'm Not In Love」をどうぞ♪






I'm Not In Love - テン・シー・シー
3rdアルバム『The Original Soundtrack』 1975年
アルバムお薦め度「持っていても良いでしょう」

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【Re-Edit】青春の輝き - カーペンターズ 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


I Need To Be In Love






Epi-19

 1983年9月10日(土) 中学3年の二学期
 2時限目が終わった休み時間

 ボクにはまだ「愛」という感情が、自分をどう変えてしまうものなのかはよくわからない。「恋」というものならば、なんとなくわかるような気もするけどね。――「好き」であることとはまったく別の、近くて遠いような距離感。……明日も会えるはずなのに、いまだけは離れたくないと願う、抑えられないほどのわがままで孤独な焦燥感。――もし本当にそれが「恋」だとするならば、それはあまりにも苦しいものだ。

 中学3年になる前の春休み、川澄マレンのために作った曲。――特にタイトルなどつけてなかったその曲を、「一生大事にするね」と、彼女はいった。去年のクリスマス、――あのとき彼女に対して抱いた、心が徐々に締めつけられてくようなほろ苦い感覚。――

 たぶん、それが「恋」なのであろう、せつなさにも似たその想い。あの素直な胸の苦しみを、わずか数行程度に吐き出してしまえば済むはずだったんだ。何度も自問し、それに自答してみたけれど、すでに彼女に曲を送ってしまったいまでさえ、あの歌詞の内容がボクの本心だったかどうかはわからないままだ。……

 でも、きっと80%くらいは本心だったんだろうと思う。彼女への想いが、一瞬メーターを振りきってしまうことも何度かあったけど、いつも100%彼女のことだけを考えているわけでもなかった。だからきっと平均すれば80%くらいなんだろうな。ってなんとなく思うんだ。――

 中学3年になると、川澄マレンとはクラスが離れてしまった。
 互いのクラスのあいだには四つの教室が挟まれていた。階段をあがって一番手前にボクの教室、そしてもっとずっと奥のほうにマレンの教室があった。

 休み時間や体育の授業で彼女が廊下を通るとき、うしろの鉄製扉にはめられたガラスパネルの向こうから、いつだってマレンは小さく手を振ったり舌を出したりていた。そんなときはボクも、ちょっとだけ掌(てのひら)を彼女のほうへ向けるようにしながら笑って応えてた。――そして前方の扉を通り過ぎる際、彼女は決まってうしろを振り返り、ガラスの向こうから大きな薄茶色したいつもの瞳でもう一度、必ずボクのことを見つめてたんだ。――

 ウォークマンからは、カーペンターズの儚いバラードナンバー、「青春の輝き(I Need To Be In Love)」が流れている。ボクが幼い頃、はじめて好きになった洋楽曲は、カーペンターズの「トップ・オブ・ザ・ワールド(Top of the World)」と、ママス&パパスの「夢のカリフォルニア(California Dreamin')」、その二曲だ。……ママス&パパスのレコードはいまだに持ってないけれど、小学生のとき買ってもらったカーペンターズのベストアルバムは、中学に入ったいまでもたまに聴いている。

 まだそんなに長く生きてるってわけじゃない。けれど、彼らの歌を聴いてると、郷愁心を煽(あお)られるような、なんだか甘酸っぱい懐かしさに心の奥がくすぐられる。とにかく、やけにセンチメンタルな気持ちにさせられてしまうんだ。――

 9月に入ってからは、昨日くらいまで、ずっとすっきりとしない天気が続いてた。けれど今日は久しぶりに湘南の空は清々と晴れ渡っている。揺れ動く白波は波間に無限の影を生み、白銀色した陽光が、蒼い水面(みなも)に「キラキラ」と煌(きら)めく。大きな窓ガラスの向こうに広がる静かな海を眺めて、ボクはずっと思い出してたんだ。

 振り返ったマレンが、笑顔で入り口のガラスパネルの向こうからボクのことを見つめてた、あの日々のことを。――たしかにボクらは、何気ない日常のなかで互いの存在の大きさに気づきはじめ、時々2人がずっと寄り添い生きてく未来を笑って語り合ったりしながら、――そして、喜びや悲しみを同じ分量づつ分け合いながら、ボクらなりに精一杯、淡く、せつないほどに光輝く青春の日々を、ともに過ごしてきたんだろう。――

 9月になっても、依然として真夏の暑さはずっと続く。
 それはまるで彗星が引き連れる長く伸びた軌跡のよう、この街の上空に、もうしばらくはただよい続けることだろう。南側の窓からは、うっすらと潮の香りが風に紛れる。ボクはぼんやり教室のうしろの扉に目をやった。川澄マレンの嬉しそうな笑顔が、もう二度とガラスの向こう側に映し出されやしないことなどわかってるのに、……いや、この学校のどこを探してみたって、彼女の笑い声を見つけ出すことなんて、もう二度とできやしないんだ。

 ボクらがつき合いはじめてから、ちょうど一年が過ぎようとしていたあの日、マレンはボクの前から本当にいなくなってしまったのだから。……

 彼女と過ごした一年足らずの時間のなかで、ボクらが交わした二回のキス。――あのクリスマスの夜、マレンに抱いた「恋」とでも呼ぶべきまったく不慣れな感情を、結局、面と向かって言葉では伝えることができないままにボクは彼女を失った。――いや、悪いのはボクのほうだ。――そんなことなどわかってる。

 けれど、たとえそれがカセットに吹き込まれたものだったとしても、ボクの想いを曲にして彼女へ渡せたことだけが、いまとなってはせめてもの救いだ。

――――ボクはいま、生まれてはじめて誰かに対する愛(いと)しさってものを感じ、その愛しい誰かの面影に、絶えず心を引き裂かれている。――――

 心の内側で湧き起こる欲望や衝動と、心の外側でそれを隠し平静を装う理性的な自分とがひたすら感情のせめぎ合いを繰り返す。――ほかのあらゆる現実を忘れさせてしまうほど、そのことだけに心が捕らわれてしまう。内と外、どちらが本当の自分なのかまったくわからなくなってしまうこと、……もしくは、この衝動と理性がせめぎ合っている状態こそが、きっと「恋しい」って気持ちなのだろう。

 いままで当たり前のようにして目の前にいた人が、ある日からいなくなってしまった風景のなか、やがて時間は微かにただようその人の移り香までもを現実と中和させながら、ゆるやかに、――ゆるやかに、――だんだん薄めつつ、あとかたもなく透明にしてゆく。
 その人の存在を日々の暮らしでまったく感じられなくなったとき、残された記憶のなかにボクたちは、その人の面影を見出そうとしはじめるのだ。記憶は音を増しながら鮮明な色彩とともに心のなかで繰り返し再生されてゆく。何度も再生され続ける映像に映し出されたその人は、なぜなんだろう、……いつだって、ずっと笑顔だ。

 なにもマレンと、もう二度と会えなくなったわけじゃない。でも、ボクらのあいだに生み出された現実的な距離感よりも、引き離された心の距離感のほうが遥(はる)かに、いまは強く感じられてしまう。

(なぜあんなことをいってしまったんだ、……)

 後悔ばかりが胸の内から湧きあがり、ため息となり吐き出されてく。こぼれ落ちてく憂愁(ゆうしゅう)が現実を溶かすかのよう、彼女のいない日常の風景にぽっかり穴を開けていく。心のなかに刻み込まれた彼女の笑顔は、ボクの意思とは無関係にひたすら再生され続ける。それを止めることなどボクにはできない。いや、たぶん、……きっと誰にも止められやしないだろう。

 もし「愛する」ということが「恋する」ことより遥かに苦しいものならば、誰かを愛した瞬間、いまのボクはこの世から存在しなくなってしまうに違いない。――きっとそこにいるのは、別の自分に支配された、いまのボクなのだ。…………



【2012.03.23 記事原文】

ちょっと登場が遅かった気もするが、
70年代といえば、やはりポップスの先駆けとなったカーペンターズ!

兄妹の関係で、ここまで売れたのも珍しいデュオ。


ヘレンも「一番好きだった」と言う名バラードで、
日本でもドラマに使用され、カーペンターズを知らない世代にも
一躍その存在を知らしめた「I Need To Be In Love(青春の輝き)」
をチョイス♪






I Need to Be In Love - A Kind of HushI Need To Be In Love(青春の輝き) - カーペンターズ
7thアルバム『A Kind of Hush』 1976年




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【Re-Edit】 We're All Alone - Boz Scaggs 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


We're All Alone






1984年2月4日(土)

「ユカはね、小学校の頃からいつも寝るのがすごく早かったのよ」

ぼんやり薄暗い部屋のなか、すでに小さな寝息をたてはじめてるユカリの寝顔を見つめてメイがささやく。

「倉田さん、なんだか今夜はやけにハシャいでたねぇ」

両ひざを「くの字」にし、ボクも畳の上へと座り込み、枕元のスタンドの灯りに映るユカリの艶やかな長い黒髪を見つめた。

「ユカにとっては、去年はじめてこの家で、シーナ君と会った日のことが忘れられないんだと思うの」

ユカリの寝息を見つめて、そっと静かにメイがつぶやく。

「そりゃまぁ、オレだって忘れられないけどね」

と、メイの隣でボクも声を潜ませる。やがて彼女はボクのほうへとゆっくり視線を移し、涼やかな瞳で微笑んだ。

「ユカにとっては、――まぁ、ワタシもなんだけど、あの頃、学校の男の子となんてほとんどまともに話したことなんてなかったのにね、あの日、シーナ君と会ってからワタシたちふたりとも、本当にいろんなことが変わっていったの。アロハのみんなとも急に仲良くなりはじめて、あれから僅か半年足らずで、すごい数の知り合いがね、気がついたときにはワタシたち、――特にユカのまわりには大勢いたの」

赤々(あかあか)と色温度を帯びた電気ストーブのヒーターが、ボクらの足元の畳を柔らかく照らし出す。透き通るほどに白いメイの表情も、ほのぼのと赤褐色(せっかっしょく)に染められていく。

「ワタシ、小学校のときからずっとユカのことを見てきたからね、……そのことが堪(たま)らなく嬉しかった。彼女のまわりにいろんな友達がいるっていう風景がね、本当に信じられなかったの。――きっとミチコもそうだけれど、シーナ君のそばにいるとね、いままでどれだけ欲しくても決して得ることができなかったものを、みんな自然と手にすることができるようになっていくんだと思う」

暗がりをふうわり漂うしじまのなかで、ボクはメイの横顔に映し出される安堵の色を見つめていた。

「ユカね、いまでも、たまにあの日のことをよく話すのよ。シーナ君とはじめて会った日のことを、――ユカにとっては本当に忘れられない日なんだろうなって思う」

口元を微笑ませ、そっとささやくメイの声にはなんだか不思議な懐かしさが滲んでいる。

「だって、倉田さんや李さんとは、あれからほとんど毎日、学校で――」

そこまでいいかけたが、繋がるべき次の言葉を急に見失ってしまった。ボクとメイ、それにユカリの3人だけで、こんなにも長いあいだ一緒の時間を過ごしたことなんて、考えてみればあれから一度もなかったんだ。ユカリは放課後、アロハスターの練習を音楽準備室へ見にきてたんで、よく一緒に帰ったりもしてたけど、メイとは今年に入ってからの2ヶ月間、ほとんど学校でも会話などしていなかった。

「あの日以来、ユカはずっといってたのよ。『いつかまた、あのときみたいに3人で遊べるかな』って。ワタシは『きっと、またそのうち3人で会えるんじゃない?』って、答えてたんだけれどね、そのあとシーナ君とは、ワタシほとんど一緒の時間を過ごす機会がなかったから。――

ユカは、アロハのバンド練習が終わってから、たまにシーナ君と一緒に帰ってたみたいだから、ユカったら、なんだか自分だけシーナ君と会ってるってことが、すごくワタシに対して申し訳なかったみたいでね、『私がシーナ君をもう一度誘うから、また3人で一緒に遊ぼう』って、ずっと気にしてくれてたの。別にそんなに気を使わなくてもいいのにね。――だけど、このところシーナ君、なんだかすごく様子がおかしかったでしょ?」

(たしかにボクは、ほんのつい数日前まで暗闇の真っ只中にいたのだ。激烈に蘇った川澄マレンへの懺悔の想いと、あの幻覚の戦場で見せられたロミイという名の少女の死、そして『L』と『MDMA』を続けざま服用したことによるドラッグ・オーバードーズ、――アロハのみんなが闇のなからか引っ張りあげてくれるまで、メイに対する想いなどすっかり忘れてしまっていたことだけは確かだ。――)


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.21 記事原文】

ボズ・スキャッグスといえば、やはり外せないのが
70年代を代表する不朽の名曲「We're All Alone」♪
※ボクもカラオケで良く歌いますね♪


彼の出世作となった1976年のアルバム『Silk Degrees』収録曲。

彼のアルバム作品としては、一番聴き応えのある内容ですかね。。。





We're All Alone - ボズ・スキャッグス
アルバム『Silk Degrees』 1976年



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【Re-Edit】 Your Song - Elton John 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


Your Song






1983年9月13日(火)

――建長寺の外門を出ると、ボクたちは鎌倉街道を鶴岡八幡宮のほうへとのぼっていった。「巨福呂坂(こぶくろざか)」と呼ばれる、この切通しをしばらく行くと、道はやがて緩(ゆる)やかに下りはじめる。この坂道も午前中に比べれば、だいぶ観光客で賑わい出していた。

「結局さぁ、なんだかんだで結構いい時間になっちゃったわよねぇ」

山々の深緑が、背後のほうへ遠ざかっていくのを眺めながらショウカはつぶやく。
午前中、ボクたちが建長寺を訪れてから、すでに4時間近く経っていた。

隣で田代は制服を脱ぎ、さっきDt中学のヤツらと交戦したとき、できたのであろう肩口に開いた裂け目をぼんやり見つめている。ボクは、右の耳にヘッドフォンを差したままうしろを振り返り、並んで歩くメイとミチコを確かめた。

さっきカセットはオートリバースされ、ヘッドフォンからは、B面一曲目に録音されたエルトン・ジョンの「僕の歌は君の歌(Your Song)」が流れている。この曲のピアノを何度か弾いてみたことがあるけれど、延々、アルペジオ状態で和音コードを弾かねばならない右手のパートが、思いのほかにシンどい曲だ。けれど、その旋律の美しさは、70年代初期のバラードのなかでも群を抜く。とりわけ抑え目に重なるストリングスの音色が、ものすごく心に染み渡る。――

坂道は右のほうへとなだらかにカーブしており、正面には鶴岡八幡宮を囲う樹々の枝葉が生い茂る。今日、すでに二度もDt中のヤツらと喧嘩したせいだろうけど、なんだかこの坂道を歩くのもだんだシンドくなってきた。きっとボクのカラダは、明日には全身アザだらけになってることだろう。

ふと、うしろからミチコが近寄ってきて、田代のずんぐりした背中に声をかける。

「あの、……ワタシ、たぶんお裁縫セット持ってると思うから、あとで縫ってあげる」

田代は、じっと制服の穴を見つめていたが、やがてミチコのほうへ肩越しにつぶやく。

「あっ、ありがとう。……でも、いいよ。ウチに帰ってから自分で縫うから」

「お前さぁ、女の子に縫ってもらったほうがいいに決まってるだろ?」

と、横目で田代を見ながらボクは笑う。

「もし嫌じゃなければ、ワタシ縫うよ」

ミチコにそういわれ、やがて田代は、

「あ、……それじゃぁ、お願いしようかな」

と、照れながらいった。

「とりあえず八幡宮、行ってみようよ」

鎌倉街道沿いの専用駐車場を過ぎて、その先にある小さな鳥居をくぐり、ボクたちは鶴岡八幡宮の裏手側、「裏八幡」の石階段をのぼった。

うっそうとした老木の陰を抜けると、朱色を基調とした雅やかな本宮の社殿が見えてくる。やがて境内に入り、女の子たちは売店を覗きながら、お守りなどのお土産を選びはじめる。ボクは本宮を眺めながら、7年前、おそらく最後にこの場所へきたんであろう七五三のときの記憶を思い出そうとしたけれど、せいぜい、「千歳飴の先をどれだけ細くできるか」を、妹と競い合って舐めてたことくらいしか思い出せなかった。

(いや、――両親たちと『どこかへ出掛けた』という記憶自体、ほとんど思い出すことができない。最後に家族で行った場所って、いったいどこだったんだっけな?)

本宮の正面からうしろを振り返る。大石段のすぐ下に「舞殿」と呼ばれる舞台が建ち、その向こうには広々とした参道が、ずっと赤い鳥居のほうまで延びていた。この参道のもっと先には鎌倉の海がある。

――そのときボクは思い出していたんだ。最後に会った、マレンのお母さんが入院している病院近くの海ではなくて、その前週、彼女と2人でお墓参りに行った帰り、なんとなく江ノ電を降りた七里ガ浜の海岸の風景を。

【もしさぁ、川澄のお母さんが元気になったらね。2人でさぁ。一緒に暮らそうか……】

あの日、ずっと霧雨を降らし続けていた雲間から、ようやくこぼれ落ちてきた7月の太陽が、彼女の髪を夕暮れ色に染めてゆくのを見つめながらボクは、そんな決意の言葉を口にしたんだ。――けれど、その後、親から現実を突きつけられ、ボクの描いた夢物語をさんざん罵られた挙句、自暴自棄になったボクは彼女に別れ話を口走ってしまう。

(その結果、いまのボクに、いったいなにが残ったというのだろうか? たしかにマレンと過ごした日々の記憶は、苦しくなるほど大量に心のなかへ残された。けれど、どれだけ笑顔のマレンを思い出しても、いつだって最後には、失意に震えた彼女の瞳を思い出してしまう。――ボクを見つめるその大きな瞳から、静かに溢れ落ちていった透明な涙を思い出してしまう。――その涙の色を忘れようとボクはまた、笑顔のマレンが映し出される光景を必死になって思い出そうとする。――そんなことばかりが、ただ毎日、ひたすらに繰り返されてゆく)

もう潮の香りなんてほとんど感じられない鎌倉の風が心に吹き込んできて、どれだけ閉じようとしてみても、マレンの泣き顔が残されたページばかりを「パラパラ」と、勝手にめくり続けてくんだ。――いや、違うな。この風のせいじゃない。――そんなの最近、いつものことじゃんか。




【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.17 記事原文】

エルトン・ジョンの代表曲の「Your Song」
1970年つうことは、ボクが2歳の時の曲か?
ん?42年前ってことかぁ?
いやいや。。。

歌詞も素晴らしいが、この当時のバラードの中で
何よりもピアノやアコギ、そしてストリングスのアレンジが際立って良い。
紛れもないバラードの傑作である。






Your Song - Elton John
Your Song - エルトン・ジョン
2ndアルバム『Elton John』 1970年


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【Re-Edit】 Company - Rickie Lee Jones 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】

Company





I selected "Company"
from 1st album "Rickie Lee Jones"
of Rickie Lee Jones released in 1979.



1983年9月13日(火)

遠くにくゆる鎌倉の海の蒼さを見てるうち、なんとなく、以前どこかで同じ景色を見たことある気がしてきたんだ。

(そうか、……マレンと一緒にお墓参りに行った寺からの風景に、なんとなく似てるのかもしれないな)

ボクは、ふと2ヶ月くらい前、マレンと、母方のご先祖さまのお墓参りに行った山寺の風景を思い出す。――あの日、小雨があがったあと、僅(わず)かに見えた鎌倉の海は、曇り空の色を水面(みなも)に満たし、真夏の風に吹かれ、やんわり揺らいでいた。

(マレンと最後に別れたあの海が、いまもこうして遠くのほうで揺らいでいる。本当はこんな景色なんてまだ見たくなかった。じゃぁ、なんで今日、ボクは鎌倉になんてきてしまったんだろう? それは、……きっと李メイがいたからだ。メイと一度、ちゃんと話してみたかっただけなんだろう。――『好き』とかって感覚とは、どこか違うような気もする。けれど、彼女が常にその身に纏わす、決して何事にも動じることのない憂いを秘めた氷の如き冷淡さに、間違いなくボクは惹かれているのだ)

南からの海風に、茶色い髪を肩先でそよがせるメイの横顔をボクは見つめた。その視線に気づいたからかもしれないけど、メイもボクのほうを静かに振り返る。少しだけ目を細めた彼女の涼やかな瞳の色を、ボクはしばらく見つめ続けていた。――

きっともう昼の12時くらいなんだろうか? 急に気温があがったように感じられる。けれど、逆に朝よりも湿度はだいぶ下がったみたいだ。

「なんだかさぁ、お腹空いてきちゃったね」

ボクたちが、十王岩から鎌倉の街並みを眺めていると、突然、林ショウカがそういって笑い、横に並んだみんなのほうへ訊ねてきた。

「あのさぁ、みんな、お弁当持ってきてる?」

「ワタシは持ってきたけど」

メイはそうつぶやき、ミチコの小さな顔を横目で見つめた。

「ワタシも、……持ってきた」

と、つぶらな瞳を伏せたミチコが恥ずかしそうに答える。

「シーナ君たちは?」

乾いた風に、長い黒髪をうしろから巻きあげられて、ショウカがボクと田代のほうへ横髪を押さえながら訊いてくる。

「ボクは持ってきた」

そう答える田代の言葉と半分重なるようにして、ボクは「持ってきてないよ」って、つぶやいた。ショウカは可愛らしいえくぼを浮かべて微笑む。

「なんだぁ! じゃぁ、お弁当持ってきてないのって、アタシとシーナ君だけじゃん!」

するとミチコが、その小さな唇をそっと動かす。

「あの、――実はお母さんがね、『男の子たちも一緒にいるのなら、みんなにも食べてもらいなさい』って、いってね、ワタシ、おかずとか一杯作ってもらってきたんで、もしよかったら、――」

と、いって、上目遣いにボクのほうを見つめた。

(あぁ、きっとミチコのお母さんは知らないんだ。彼女が『学校でみんなから嫌われてる』ってことを)

「ありがとう。じゃぁ、……オレ、もらおうかな」

ボクがそういうと、ミチコの瞳にほんのりと喜びの色が灯されたような気がした。

「じゃぁ、アタシもご馳走になろうっと」

そういって、ショウカはミチコに笑いかけた。

――ボクたちは建長寺へと戻りはじめていた。もしこのままハイキングルートを辿っていったとしても、おそらく山中を2時間は、さ迷うことになるだろう。だから十王岩の展望台で、「天狗の像がいた、さっきの休憩所でお弁当を食べよう」と、ショウカがいったとき、ボクらは黙ってそれに従ったんだ。

ふたたび深緑の杜のなかを歩きながら、ボクは田代につぶやいた。

「さっきの話、――オレが小山さんを守るだのどうこうって話だけどな。オレがこないだ谷川たちのことをシめたのは、別に小山さんが可哀相だと思ったからだけじゃねぇんだよ。たしかにそれもあったけど、イラついてたんだ。あの日はなんだかな。――それに、もし小山さんのことをアイツらから守りたいんなら、お前が谷川たちをヤっちまえばいいじゃん」

「ボクが?」

と、田代は一瞬、驚くと横目でボクを見つめた。

「あぁ、お前さぁ、たぶん自分じゃ気づいてないかもしれねぇけどな、もし本気でヤったら、オレなんかよりぜんぜん強いと思うよ。谷川なんかよりも、絶対にお前のほうが強いよ」

ボクがそういって笑うと、田代は独り言みたく、みずからの口のまわりに言葉をくゆらす。

「ボクが、……強い――」

「だってよぉ、さっきの不良連中だって、ぜんぜんお前を押し倒すことなんてできなかったじゃん。お前ってすげぇ腰が重いしよぉ。だから簡単には倒されないし、それにきっと殴られ慣れてるから打たれ強い。もし、お前が格闘技やってたら、相当強くなってたハズだよ。なんか、そういう格闘技向きの骨格してるみてぇだからな」

と、ボクがいうと、田代は足元をぼんやり見つめた。

「そうか、――だったら、やっとくんだったな。小学校のとき、空手とか柔道なんかを」

土色にくねった道の向こうのほうに、やがて勝上献(しょうじょうけん)展望台が見えてくる。すると、田代は突然立ち止まり、振り向くボクを上目遣いに見ながら「への字」に下がった唇を微(かす)かに動かした。

「小学校四年のとき、ある日学校へ行ったら、ボクの机の足元にね、自転車のサドルが置いてあったんだ」

「サドル? 椅子のとこか?」

ボクは、意味もわからぬままにそう訊ねる。田代は頷き、さらに話し続けた。

「数日前、小山さんが親に買ってもらったばかりの自転車を誰かに盗まれたってことは知っていた。いつもはほとんど教室で誰とも話をしない小山さんが、そのときだけはね、いろんな生徒に聞いてまわってたんだ。『私の自転車、誰か知らない?』って、――きっと、すごく大切だったんだと思う。彼女にとって、その自転車は、――」

田代は大きな背中に、海からの南風を受けていた。もしかしたら、その風に押され、彼は言葉を吐き出しているようにも思えた。

「――しばらくして、学校でメチャクチャにされた彼女の自転車が見つかった。でも、結局、犯人は見つからなかったんだ。それどころか『小山さんが自分で自転車を壊した』ってことにされてしまっていた。――クラスのみんなは、犯人が誰かなんてこと、とっくにわかってたけど、誰もそのことを先生にいわなかった。そしたら、――その数日後、ボクの机の下に自転車のサドルが置かれてたんだ」



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.09.28 記事原文】

「カンパニー」繋がりで・・・


今年の3月、当ブログの開設当初にご紹介した
リッキー・リー・ジョーンズ女史の「Company」ですが。。。
当時Yにオリジナルなかったのでダイアン・リーヴス女史の
カヴァーVerをリンクしておりました・・・

が。なぜか2年前のUPねたがYで見つかりましたんで
オリジナルVerもご紹介♪※つうかそれが普通かぁ(笑

1979年リリースの1stアルバム『Rickie Lee Jones』は
何度聴いても名盤中の名盤ですわいな☆☆☆

彼女ってかなりジャニスと似たような人生を送っておりますケド・・・
ボクの個人的嗜好でいえばリッキー・リー・ジョーンズさんの歌声のほうが
ググっと心に響きます。。。
でもアルバムリリース当時はまだ25歳くらいですねぇ。。。
シノマリより若いのかい!!

う~・・・しかしながら。。。
まさに極上の大人サウンドですわねぇ☆






Company - Original Album Series: Rickie Lee Jones

Company - リッキー・リー・ジョーンズ
1stアルバム『Rickie Lee Jones』収録曲 1979年
アルバムお薦め度 「☆名盤です☆」

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【Re-Edit】 The Water Is Wide - Karla Bonoff 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


The Water Is Wide






1983年9月13日(火)

すでに昼の11時を少し過ぎていた。――
ボクたちは、背の高い樹々に左右を囲われた、建長寺の長い石階段をのぼりきった最奥部にある、「半僧坊」と呼ばれる高台から、幾重(いくえ)にも重なった、色深き樹林の枝葉の向こうに建ち並ぶ山門や仏殿の屋根を見下ろしている。

(ずいぶんと高いとこまで登ってきてたんだな。――そういえば、この天狗像たちが参拝客を出迎えている展望台からの眺めこそ、唯一、ボクの幼い記憶のなかに残されていた、この寺の風景だったはずだ。だけどその当時、これほど高いとこまで登ってきたっていう覚えがまったくないし、……それに、こんなにいっぱい天狗がいたっけなぁ?)

眼下の崖に転々と佇む小さな天狗像たちを見つめながら、多少、曖昧な記憶と乖離(かいり)していたそんな景色をぼんやりと眺め続け、ふとボクは、山間に響く蝉の鳴き声がすっかり小さくなってしまっていたことに、いまさらながら気づかされる。

「このペースだとさぁ、予定のコースを全部まわるのは絶対無理だよね?」

と、林ショウカが小さな顔を少し曇らす。
本当であれば円覚寺を出たあと、鎌倉街道を向こう側へと渡り、源氏山の麓(ふもと)にある「縁切寺(駆け込み寺)」として有名(らしい)な東慶寺と、そこから鎌倉街道を少しのぼった先の浄智寺を訪れる予定だった。

けれど、今回の先導役を買って出たショウカが、ボクたちを先に建長寺へと案内してしまったことで、その手前にあった道向こうの2つの寺院を素通りしてしまっていたようだ、

「でもまぁ、いまさら戻るのもなんだか面倒くさいしね」

と、ボクは小天狗たちの背中の羽を見つめながら笑う。そして「半僧坊大権現」と書かれたのぼりが無数にはためく、コンクリートで塗り固められた石塀から、建長寺の全景の向こうに広がる鎌倉の山々を見つめ続ける李メイの横顔に目をやる。

一見、クールに思えるメイの瞳はいつだって『なにか』によって曇らされてる。それがなんなのかはボクにもよくわからない。けれど、もし深い哀しみ色したせつなさを、心に抱え込んだとするならば、人はみな、誰もがきっと彼女と同じ翳(かげ)りを瞳のなかに宿すことになるはずだ。――なんとなく、そんな気がする。

「あぁっ! 忘れてた!」

突然、ショウカがそう叫ぶ。

「そういえばさぁ、すっかり忘れてたけど、発表会のときの写真を撮らなきゃいけなかったんじゃん! 田代君、カメラ持ってきてるんでしょ?」

ショウカに問い詰められると、田代ミツオはうなずき、カバンのなかからカメラを取り出す。

「もう! だったらなんで、『写真は撮らなくていいの?』って、教えてくれないのよ! さっき円覚寺の写真、撮り忘れちゃったじゃん!」

続けざま甲高い声でショウカにそう怒られて、田代はずんぐりした背中を小さく丸め込む。

「けどさぁ、さっきは写真どころじゃなかったじゃん。だって、いきなり2人で、あの不良連中を走って追いかけていっちゃったんだから」

そういってショウカをなだめると、ボクはカメラを手にしょんぼりうつむく田代に笑いかけた。

「まぁ、せっかくだから、記念にここで一枚くらい写真でも撮るべか」

田代は、なにもいわず少し歩いて距離を取ると、展望台の石塀に沿って並んでいるボクらのほうへとカメラを向ける。慌ててファインダーの外側へ逃げ出そうとする小山ミチコをメイが呼び止めた。

「ミチコ、――別に誰かに見せるわけじゃないんだから、みんなで一緒に撮ろう?」

穏やかな口調でメイがそういうと、ミチコは少しはにかみながらボクらのほうを振り返った。ふたたびメイが、薄紅色した唇を微(かす)かに開く。

「こうしてみんなと一緒にいるんだから、一緒に撮ろうよ。ね?」

優しく諭すようにそういわれると、ミチコは下を向きながら戻ってきて、細い体をボクのうしろ側へと隠すよう、一番後方の場所をみずから選ぶ。ボクは彼女を肩越しに見つめ、

「オレのほうがキミより背が高いんだからさぁ、オレの前にくれば?」

と、いって、右ひじを柔らかく掴むと前へと引っ張り、その細い背中を軽く押す。
ボクに触れられたとき、一瞬「ビクッ」としたけれど、ミチコはそのままボクのすぐ前に立ち、カメラを構える田代を見つめた。

するとミチコの少し前にいたメイが「チラッ」と振り返り、すぐ右隣までうしろ向きに二、三歩さがってくると、やがてミチコの細い両肩にそっと手を置いた。ショウカはそんな2人の前に笑顔でかがみ込んだ。

「カシャッ」――田代がシャッターを押す。するとショウカが大きなアニメ声で笑う。

「あのさぁ田代君、もし撮るならさぁ、なにかいってくれないとダメじゃん。はい! じゃぁもう一枚ね!」

ショウカにそういわれ、田代は、やや思い悩んだような素振りを見せたが、

「じゃ、じゃぁ、……撮るよ。――さん、はい、――」

恥ずかしそうに掛け声をかけ、シャッターを押した田代が、ゆっくりファインダーから目を離す。――彼はそのままなにもいわずに、じっとミチコのほうを見つめていた。ボクも、すぐ目の前にあるミチコのうしろ姿を、ただぼんやりと見つめていた。――細い肩を細かく上下に震わせながら、彼女はメイに、そっと背中を撫でられ続けていた。

(もしかしたらミチコにとって、これが、中学校に入ってからの3年間で、はじめて、ほかの誰かと一緒に彼女の姿が写し出された写真だったのかもしれない。――)

やがてボクは、田代がいるほうへと歩いていき、大きな声で彼にいう。

「そんじゃぁ、今度はお前もみんなのほうへ行け! オレが撮るから。――」



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】


【2012.03.20 記事原文】

誰が歌っている曲かは知らなくても、
一度は聞いたことがある歌っていうのは結構多いだろう。

この「The Water Is Wide」は、CM等で良く使われるが、
実際、カーラ・ボノフというアーティストを知らない人が多い。


そんなカーラの2ndアルバム『Restless Nights』から
「The Water Is Wide」を選曲♪

透明感のあるヴォーカル、歌詞、メロディ♪
三拍子揃った、まさに永遠の「ヒーリング・ソング」といえよう。

個人的に、彼女は70年代女性シンガーの中では最も好きですね。






The Water Is Wide - Restless NightsThe Water Is Wide - カーラ・ボノフ
2ndアルバム『Restless Nights(ささやく夜)』 1979年
アルバムお薦め度「持っていても良いでしょう」



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【Re-Edit】 Honesty - Billy Joel 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


Honesty






1983年9月13日(火)


すべてのことを観念するよう、自嘲(じちょう)気味に吐き出されてくミチコの儚(はかな)いため息が、ほんのりと風に交わるその様(さま)をボクは見ていた。

すると、メイの隣で高欄(こうらん)の丸太に寄りかかっていたショウカが、少し泣き腫らした大きな瞳をミチコのほうへと向ける。――そして静かにささやきかけた。

「こないだ、シーナ君が谷川たちのことをやっつけたでしょ? だからもう、いままでみたくアイツらがミチコを教室でイジメたりすることもないんじゃない? だとすればさぁ、それだけでもきっと少しは変わると思うよ。ミチコがそうやって『すっかり慣れてしまってきた日常の風景』がね。これから少しずつ変わっていくと思う。――」

「ワタシの日常の風景が、……変わる?」

つぶらな瞳でショウカを見つめ、ミチコは独り言のようにそうつぶやく。しばらく黙り込んだまま、彼女は小さくカールした髪を肩のあたりでつまんでいたが、やがて「ポツリ」と、最後にひと言ささやいた。

「変わったらいいな。――本当に」

おかしないい方だけれども、いまこの回廊に座り込んでる5人の、ボク以外のみんなは、過去にイジメを受けてきた2人と、現在進行形でイジメを受け続けている2人とにちょうど分かれて座っている。ボクは林ショウカ以外の李メイ、田代ミツオ、小山ミチコの3人とは、中3で同じクラスになってから、この半年ものあいだ、ほとんど会話を交わした覚えなどはない。

けれど唯一、教室内で何度も話したことのある林ショウカと、今日はじめて一緒に過ごしてみて、彼女が抱え持つ心の複雑さをつくづく思い知らされたんだ。――おそらく彼女はむかしから他人のことを慈しみ、そして思いやることのできる優しくて清らかな心を持っていたのだろうとボクは勝手に判断している。

けれど、それに二律背反し、時折、どこかしら他人を見下し蔑(さげす)むような、すさんだ感情を心のすき間に浮かびあがらすことがある。

そのどちらの自分も、肯定も否定もできないままに、ショウカの心のなかでは絶えず、本来あるべきピュアな自分と、いくつもの辛い現実によってあとから生み出された、歪んだ別の人格とのあいだでせめぎ合いや葛藤が繰り返されてるのだろう。――

すでにショウカはそのことに、みずから気づいているのだ。――にもかかわらず、よこしまな感情をすべて消し去ることができないのは、彼女がそれほどまでに深い傷を心に背負ってしまっているせいなのかもしれない。

いずれにしたって、そのどちらの自分もショウカは正直に、あっけらかんと表へ出しちゃうものだから、よりいっそう捉えどころのない性格を、多くの人に印象づけてしまっている。――

なんとなくそんなことをぼんやり考えているうちに、やがてショウカが寄りかかる高欄の向こうから、バスガイドに先導された団体客たちが「ゾロゾロ」近づいてくるのが見えてきた。

「ぼちぼちこの寺も混んできたみたいなんで、そろそろ移動するか? きっとあの連中も、ここにのぼってくると思うからね」

と、ボクは石畳を迫りくる長い行列を見つめながらいった。――

楼上(ろうじょう)の二階から、回廊をうしろへまわり込み、狭くて急な階段を降りきると、山門のすぐ脇に吊り下がってる古さびた「梵鐘(ぼんしょう)」に目が止まる。ボクたち順々に靴を履くと、そちらのほうへと近づいていった。

「これって国宝なの?」

手前に掲げられた立て札を読みながらショウカがそういう。

そこには、一番上に横書きで「梵鐘(ぼんしょう)」、そして二行目に「重さは2.7t 国宝」と記されている。

「なんか、あまり目立ってねぇな。一番重要な『国宝』っていう部分が、――それになんだか書き方おかしくない?」

そういって、ボクは、まだらに黒ずむ青銅色の吊り鐘を見つめた。

「う~ん、これって、たしかに古いんだろうけどさぁ、だったら、絶対に、いまの山門のほうがスゴいよね。でも、あっちは、『重要文化財』なんでしょ? なんでかな?」

そういって、ショウカは「クスッ」と笑う。

やがて、ボクたちは参道を山へと向かって歩きはじめた。建長寺は、この参道に沿って主要なお堂や社殿が配置されている。柏槙(ビャクシン)と、いう巨大な古木が参道両側の植樹帯にそびえ立つその正面には、石階段三段分ほど、「ぐるり」外周を石組みされた「基壇(きだん)」と呼ばれる基礎台座に、どっしり構える寄棟造(よせむねづくり)の仏殿が見えている。石畳の参道は、シンメトリーな輪郭を美しく纏(まと)う、その荘重な社殿によって行く手を塞がれていた。

上空からは太陽が、青銅色(せいどういろ)した屋根瓦と、社殿を支えるコンクリートの基礎台座の表面を、ムラなく白一色に染めあげている。開け放たれた仏殿の正面扉の向こう側には、漆黒の陰影が凛然(りんぜん)と揺らめくように漂っていた。

それらのコントラストにつくり出された明暗の境界に、ボクはふと、歴史の折り目を垣間見たような気がしたんだ。


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.22 記事原文】

ビリー・ジョエル1978年のグラミー最優秀アルバム賞受賞
の『52nd Street(ニューヨーク52番街)』から
誰もが知っているバラードナンバー「Honesty」をどうぞ♪


日本でのビリーの知名度は、
ネッスルのCMで使われたこの曲に拠るところが大きい。


なんなんだろうか?
この歌が放つ圧倒的に哀愁漂う空気感は。。。


名バラードは世にいくつもあるが、
哀愁を切実に痛感させるような曲は、
今でもなかなか出現していない。


当然ながら、ボクが最初に買ったビリーのアルバムも
『52nd Street(ニューヨーク52番街)』である。






Honesty - 52nd StreetHonesty - ビリー・ジョエル
6thアルバム『52nd Street(ニューヨーク52番街)』 1978年



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【Re-Edit】 Diary - Bread 【70年代ポップス】

【Re-Edit】【70年代洋楽ポップスの名曲】


Diary






1983年9月13日(火)


メイに見つめられ、ショウカはうつむく。――そして、ひざのあたりへ小さく言葉をこぼしていった。

「そうだね、中学に入って、アタシたちがイジメたりされなくなったのは、結局、アタシは上級生たちにチヤホヤされながら、ずっと守られてきたからで、メイは、――」

ショウカの言葉を引き継ぐようにメイは青空へささやいた。

「そう。アタシには、――お兄ちゃんがいたから」

その小さな足音は、やがて回廊の角で止まった。――ボクは静かに振り返る。――そこには小山ミチコが恥らいながら立っていた。

メイは手招きするよう、右手の指先を微(かす)かに動かす。そして微笑みながら、そっときれいな薄い富士型の唇を開いた。

「おいで、ミチコ」

メイにそう促され、ミチコがゆっくり歩いてくる。
ボクはうしろを振り返り、ミチコと逆側の柱の角に立っていた田代へ向かって叫ぶ。

「お前もさぁ、いつまでも、仏頂面してそんなとこに突っ立ってねぇでこっちこいよ」

田代は、相変わらず鋭い視線を「チラッ」と向け、やがてうつむきながら「のそのそ」と近づいてきた。ショウカだけは、まだなんとなく納得できないような表情を浮かべている。――

「ほかのみんなとは? はぐれちゃったの?」

高欄(こうらん)を背に、脚を斜めにしながら座り込むメイが、ミチコのほうへ涼やかな視線を向ける。ミチコは少しだけ躊躇(ためら)ってから、その小さな唇を動かした。

「さっき、鶴岡八幡宮を出るときに、『ちょっと待ってて』っていわれて、ワタシずっと待ってたんだけど、みんな戻ってこなかったから、――だから、グループで行く予定だったお寺をね、ひとりでまわりながら、みんなのこと探してたんだけど」

彼女がグループのほかのメンバーたちから『置いてけぼりにされたんだろう』ってことは、ボクらにも容易く想像がつき、そして、なによりミチコ本人も、はっきりわかっていたんだろうとは思う。

一階の基礎から天井へと伸びる円柱にもたれたボクは、壁板に施された「火灯窓(かとうまど)」と、いわれる格子状の桟(さん)が巡らされた木窓の手前に正座を崩して座ってるミチコに訊ねた。

「小山さんのグループって、ほかに誰がいたの?」

ミチコはふわりと、ボクのほうを振り返り。そして、

「ワタシのグループは、女の子が3人だったから。女子が池山さんと川上さん、それに男子が、栗原君と佐藤君」

と、小さな声で答える。

(ミチコのグループに川上ナオもいたんだ、――)

すると、うっすら口元に笑みを浮かべ、ミチコはみずからのつま先のほうへ小さく言葉を吹きかけた。

「たぶんね、置いてかれたんだと思う。ワタシ、――電車のなかで、ずっとみんなが小声でなにかを耳打ちしてたからね。きっと、そういうことを話してたんだろうなって思ってた」

ボクの左隣でひざを抱えていた田代が、ミチコの横顔を見つめた。ひとしきり、ミチコはただぼんやりと、つぶらな瞳でつま先を見つめてたけど、回廊をそよぐ清涼な風の影を目で追うと、また小さな唇をうっすら開いた。

「きっと、……『そうなるんだろうな』ってことはわかってたんだけどね、行く前から、――だからぜんぜん気にしてないの。そんなのいつものことだから、――」


【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.24 記事原文】

こちらもブレッド4枚目のアルバム『Baby Im a Want You』から
得意のフラワーちっくなアレンジ「diary」をどうぞ♪
どことなく初期のオフコースっぽいメロですね☆






Diary - Baby I'm a Want YouDiary - ブレッド
4thアルバム『Baby Im a Want You』 1972年



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【Re-Edit】 Falling - Le Blanc & Carr 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


Falling





I chose "Falling" from Le Blanc & Carr's 1st album
"Midnight Light" released in 1978.



1983年9月13日(火)


ショウカの肩を、そっと抱きしめ続けるメイの姿をしばらく見つめていたボクは、何気なく、楼上(ろうじょう)の上から、建長寺の総門のほうへと目を向ける。すると、石畳の向こうから歩いてくるウチの制服を着たひとりの女子生徒の姿を高欄(こうらん)の、丸太の透き間に見つけだす。

(小山――ミチコ、か?)

山吹く風に、少しだけ天然パーマのかかった黒髪をゆるがせ、こちらのほうへ向かってくるミチコが、石畳の通路にそびえる山門の上層を見上げたとき、――楼上の回廊から彼女のことを見つめていたボクと目が合う。おもわず立ち止まり、驚きの表情を浮かべたミチコの小さな顔に、ほんのりと安堵の色が灯されたような、――なんとなくそんな気がしたんだ。

隣に座っていたメイが、ボクの僅(わず)かな顔色の変化に気づく。やがて彼女は、ずっとボクが見下ろし続けてる視線の先を、みずからの肩越しに辿っていった。

「ミチコ?」

メイがそうつぶやくとショウカも顔をあげ、瞳を潤ませたまま山門の下に佇むミチコのほうへ視線を落とした。


「ミチコたちのグループも、北鎌倉のほうへきてるのかしら」

静かにメイは、そうつぶやく。

「でもさぁ、ほかのヤツらがひとりも見当たらないんだけどね」

と、いって、ボクは立ち上がり境内を見渡した。

山門の上からずっと見られていることに、とうとう堪えきれなくなったのか、やがてミチコはうつむくと、ふたたび足早に歩きはじめた。楼上にいるボクらのちょうど真下をミチコが通り抜けようとしたとき、――

「小山さん!」

と、いきなり田代がミチコの名を大声で叫んだ。「ハッ」とミチコは驚き、おもわずその声を見上げる。いままでほとんど言葉を発することなく、ひとり離れて回廊の角に立っていた田代がミチコに声をかけた。――そのあまりに予想外な出来事にボクたちも驚き、みな一斉に田代の顔を見つめた。

「あのさぁ、……ダメかな。彼女をここに呼んだら」

と、田代は小さな声でいいながら上目遣いにボクらのほうを見返してきた。

「えぇっ! 別にほっとけばいいじゃん。ミチコのことなんて」

まだ、鼻をぐずつかせながらショウカがそう口を開くのと、ほとんど同時に、

「小山さん! ひとりなの? よかったらこっちにきなよ」

ボクは高欄(こうらん)から身を乗り出すようにし、ミチコに向かってそう声をかけた。

「ちょっ、ちょっとシーナ君、ミチコのことなんて、――」

まぁ、ショウカにしてみれば、中学に入ってから、ずっと学年中のヤツらにシカトされ、教室では毎日のように谷川らにイジめられ続けてるミチコのことなんて、『いまさら自分たちが気にする必要なんてない』と思うのは、当然のことなのかもしれない。そのことは否定しやしない。けれど、ボクはショウカの涙色に染まった瞳に、微笑みながらいったんだ。

「オレはね、もしかしたらキミにならわかると思ったんだけどね。『小山さんがどういう気持ちで、毎日学校に通っているのか』ってことをさ」

そして、なにもいわず、押し黙ったままボクらを見上げているミチコに向かってふたたび笑いかけた。

「キミさぁ、どうせ、ほかのみんなとはぐれちゃったんだろ? だったらオレらと一緒にくればいいよ。別にいまさらグループなんて関係ねぇんだから」

するとメイが立ち上がり、高欄(こうらん)に手をつくと、躊躇(ためら)うミチコを見つめた。そして、そっと唇を動かす。

「こっちにおいで。――ミチコ」

そう呼びかけると、古寂びた板張りの回廊に座り込むショウカの横顔にささやく。

「ショウカ、――ワタシたちが、もし同じことをしてしまったら、――ショウカが小学生の頃、クラスメイトたちからされたのと、まったく同じようなことをね、もし、いまワタシたちがほかの誰かにしてしまったとするならば、きっと『本当の正しさ』なんてものは、どこにもなかったってことになっちゃう」

メイの口調はいつもの通り冷静だった。だけど、微(かす)かな優しさを端々(はしばし)に漂わせている。

「ワタシたちが小学校の頃、学校でされてきたことを、もし『みんながしていたことのほうが正しかったんだ』って、肯定しちゃったら、ワタシたちが毎日、感じ続けてきたあの哀しみや悔しさを、『ホントはそんなこと感じちゃいけなかったんだ』って、否定しなければならなくなる。そんなの絶対に間違ってるでしょ? ワタシやショウカ、それに田代君がね、いまのミチコの気持ちをわからないはずなんてない。――あの頃、みんながワタシたちにしてきたことを、ワタシたちが誰かにしてはいけないと思う。――違う? ショウカ。アナタはあの頃、みんながアナタにしてきたことを肯定できるの?」



【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】


【2012.06.25 記事原文】

「レニー・ルブラン」と聞いて知ってる人は結構なAORツウですね。

彼が70年代後半にピート・カーと組んだデュオ「ルブラン&カー」名義で
リリースした唯一のアルバム『Midnight Light』は、AORファンのあいだで
非常に評価の高い1枚とされております。

彼はソロ転向後、クリスチャン系ミュージックを中心とした
楽曲をリリースしていくことになります。

ボクは、昨日あたりからすっかりソッチ系の癒しサウンドに
浸っておりますです。。。まぁ、クリスチャン系SSWの作品には、
素人に毛が生えた程度のものも多いのですが、彼のサウンドは、
かなり高いクオリティを維持しておりますです。

さて。ひとつの謎がありまして・・・
ネット上でこのアルバムを紹介してる多くの方々が、リリース年度を
1977年としております。しかし、Wiki、Amazon、さらにはオフィシャルサイトでも
リリース年度が1978年となってますので、そっちを信じることにします☆
何が原因なんでしょうかね???

と思ってWiki読んでたら。。。
シングルヒットした「Falling」のリリースがきっと1977年なんですね。
ですんでアルバムリリースが翌年だった!ということならば納得です☆


ではルブラン&カーのアルバムから、まるで刹那に浮かび上がる愛の灯火のように
淡い涙を誘うメランコリックなバラードナンバー「Falling」をチョイス♪
なんでこんなにも切なくなるんだろう・・・と思ったらシチュエーションが冬だからか?



Falling - ルブラン&カー
1stアルバム『Midnight Light』 1978年
アルバムお勧め度「持っていても良いでしょう」

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【Re-Edit】 She's Out Of My Life - Michael Jackson 【70年代バラード】

【Re-Edit】【70年代洋楽バラードの名曲】


She's Out Of My Life





1983年9月13日(火)

決して気のせいなどではなく、このひと気のない小高い山門の楼上(ろうじょう)に佇んでいると、なんだかすごく心の内側がしっとり癒されていくような気がした。学校帰り、たまにボクが立ち寄っていた地元の神社より、遥(はる)かに燐(りん)とした濃厚な威風が、この建長寺の境内には漂っているのだろう。

かつて小学生の頃、この場所を訪れたときにはまったくわからなかったけれど、いまのボクは、心でその厳(おごそ)かな空気を、はっきり感じ取ることができるんだ。

古(いにしえ)の時代より、海と山に囲まれたこの鎌倉の風物のなかを、たゆらに継承され続けてきた、みやびやかな和らぎ。――そうした風雅な芳香(ほうこう)を宿した浦山風(うらやまかぜ)に、ふうわり黒髪を撫でられて、やがてショウカは、だんだんと落ち着きを取り戻しはじめていく。

「さっき田代君からね、アイツらに『お金を取られた』って、聞いたときにね、アタシ、小学校時代のこと急に思い出しちゃって、そうやって簡単に人のお金持っていく人たちのことがどうしても許せなくなったの」

ショウカはため息をひとつ吐き、そして続けた。

「だけど、……そのあと、田代君がシーナ君に『お金を貸して欲しい』っていったときはね、誰にでも簡単にお金をあげていたアタシ自身のことなんて、すっかり忘れてしまってた。――あのとき田代君のいってた通り、いままでアタシがいろんな人にあげたりしてきたお金は、アタシが稼いだものなんかじゃない」

吐露(とろ)されてゆくショウカの真情を、メイはその胸元で受け止め続けている。
ボクはショウカの言葉を聞きながら、優しげに瞳を閉ざすメイのことを見つめていた。

「きっと癖になっちゃってたんだね。小学生のときからずっと、人の心を買うために、好き勝手にお父さんのお金を使い続けてきちゃってたから。――それに、きっとどこかで優越感があったんだと思う。それを与えることで、みんながアタシのことを『特別なんだ』と思ってくれることに、……だからすごい矛盾してるんだよ。きっとアタシ。簡単になにかを得ようとする人のことを否定しながら、誰かにお金を与えて優越感に浸る自分のことは、ずっと肯定してきたんだから」

和らぎを運び続ける初秋の風に、そっとささやくようにして、ショウカはひたすらメイの胸のなかで、途切れ途切れに小さな声を響かせ続けた。

(まぁ、たしかにさっきショウカの話を聞いた限りでは、――いままで、まわりの友達にいろんなものを買い与えてチヤホヤされてた外国人の女の子が、過剰なリクエストに応じられなくなったからって、ある日突然、みんなからシカトされ、そしてイジメられて、その復讐のために、さらにお金を使って上級生の用心棒を雇った。――

っていうような話だった。無論、大いに同情はするけれど、自業自得と思えなくもない。けれど、――じゃぁ、もし小学校2年のとき転校してきて、流暢に日本語の話せなかったショウカの家が大金持ちじゃなかったとしたら、果たして彼女はどうなっていたんだろう?)
 
さっきメイは、『ワタシにはわかる。アナタの気持ちのすべてが、――』と、いっていた。同じ外国籍のメイになら、きっとわかっていたのだろう。

もしショウカの家が裕福じゃなかった場合、いや、――きっと、もっと単純なことだ。もし彼女が、クラスのみんなにいろんなものを買い与えられてなかったとしたら、学校でどんな過酷な仕打ちが待ち受けていたのか? ってことの、その答えを。――

ショウカは自分の身を守るためにお金を使い、そして自分の尊厳を守るために、さらにまた、お金を使ったってことだったのかもしれない。

それを「間違っている」と否定するのは簡単なことだ。けれど、ショウカがそうしなければならなかった本当の理由を、「ワタシにはわかる」ってメイは、いってたんだろう。本当ならば、できればショウカも「そんなことなんかしないで、普通にクラスのみんなと仲良くなりたかった、――」のだということを、きっとメイは察していたんだと思う。――




【ALOHA STAR MUSIC DIARY / Extra Edition】



【2012.03.27 記事原文】

マイケル・ジャクソン&クインシー・ジョーンズがタッグを組んだ
1979年のアルバム『Off the Wall』から、
ボクが一番好きなマイケルのバラードナンバー
「She's Out Of My Life」をチョイス♪


妙に情感を込めて歌い上げるマイケルの声。

なぜか聴いていて、とても切なくなります!





She's Out of My Life (Single Version) - Off the Wall (Special Edition)She's Out Of My Life - マイケル・ジャクソン
5thアルバム『Off the Wall』 1979年
アルバムお勧め度『一度聴いてみては?』



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90's Dance masterpieces/90年代ダンス系の名曲
Masterpiece of the Japanese music/未来に残したい日本の名曲
Dedicated to sweethearts/恋する二人に捧ぐ
Spend the night with sadness/悲しみと共に過ごす夜
Nostalgic feelings/ノスタルジックな想い
In the room which shines with the morning sun/朝日が差し込む部屋で
While looking at the setting sun in a hotel/夕陽が見えるホテルで
Memories of youth/若かりし日々の思い出
If you want to fuss/タテノリしたい気分なとき
If you want to feel the Rock/かなりRockな気分
Masterpieces of Instrumental/インストルメンタルな名曲
 
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rakiworld21

Author:rakiworld21
Hai ☆I m Raki  (*^・ェ・)ノ ☆


Group / Duet 【 A ・ B ・ C 】
Group / Duet 【 D ・ E ・ F 】
Group / Duet 【 G ・ H ・ I 】
Group / Duet 【 J ・ K ・ L 】
Group / Duet 【 M ・ N ・ O 】
Group / Duet 【 P ・ Q ・ R 】
Group / Duet 【 S ・ T ・ U 】
Group / Duet 【 V ・ W ・ X 】
【 Artist V 】
Van Halen
Vapour Trails
The Velvet Underground
The Ventures
Virus

【 Artist W 】
The Wailers
Wang Chung
Was (Not Was)
Wishbone Ash
The Who

【 Artist X 】

Group / Duet 【 Y ・ Z 】
【 Artist Y 】
Y & T
Yazoo
Yes

【 Artist Z 】
ZZ Top



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